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守旧派は金で殺す、攘夷派は理で殺す。――幕末に転生した効率厨サラリーマン、内戦はコスパが悪いので和算と裏金で歴史を書き換える  作者: 関沢賢吉


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 弁論?討論にすらなってなかったのに?論を弁ける?あそこが?確かに佐久間氏には、ディベートの形だけは提示したけど。あの場から一番の対比として例示したけど、ある意味では「出来るわけないだろ?」って嫌味込みだったのに。これはちょっと覗くしかないな。気になる。


 「杉先生、見に行きませんか?」


 「いや、以前の経緯があるのに、行って叩き切られたらかなわんぞ」


 「大丈夫大丈夫。我らを見て怒号罵声しか浴びせられないなら、そこで行われているのは『弁論』ではありません。『ごっこ遊び』です。その時は断罪するのみ。あとは近づかなければ良いだけ。『弁論』が本当に成り立っているのであれば、そうはなりません」


 「本当に大丈夫だろうな。では、刀を手に取られたら逃げる。それだけは守ろう。な?」


 「分かりました。そうならないと良いですね」


 強引に手を引っ張って佐久間氏の塾へ。そこは目を疑う光景だった。素でほっぺたをツネって、杉先生と顔を見合わせた。そこで行われてたのは非常に論理構成のしっかりした意見と、それに対して論理の穴、矛盾を徹底的に突きながら自説の論理を構築する、非常にレベルの高いディベートだった。熱、べき論、他責、大声、怒号、感情論、理想論、押し付け、一切なし。前世も含めて、ここまでレベルの高いディベートを目にしたことがない。マジか。スゲー。無意識で拍手してた。


 「どうした小僧。今日はお前から来たんだ。今日は湯の花はいらんな」


 ニヤリと笑う佐久間氏。まだ効いてる。俺もまだ書類捨ててないけど。


 「湯の花ならいつでも貰い受けますので、ご遠慮せずにいつでもお越し下さいよ」


 思わず返す。もうこれ、お約束ってやつだな。


 「これ、どういうことですか?ずいぶんと様変わりしましたね。ちょっと見学させて下さい」


 杉先生なんか殺されること覚悟してたのに、唖然としてる。そのまま見させていただき、ある考えが頭によぎってきた。無理だと思って頭の中から省いたアウトソーシング、丸投げしてしまえ。


 「佐久間様、驚きました。このような素晴らしい弁論を見られるなどと思っていませんでした。感服しました」。


 「そうか、では弟子にでもなるか?」


 またイヤラシイ顔して笑う。答え分かってるくせに。


 「この弁論を、私の嫌味を受けずに見せられていたら、希望したでしょうね」


 イヤミにはイヤミで。


 「ホントに可愛げのないガキだな」


 知ってる。


 ディベート形式で、言われたままやってみたらしい。1ヶ月やって何も変わらない、と文句を言いに行くために。うん、その目的意識、それはそれで好き。始めは全く分からない。ところが5回もやると、だんだん見えてきた。目的は言い負かす事ではない。相手に、聞いてる人にどうやってより分かりやすく伝えるか。そこに焦点を絞れるようになると、この討論の意義が分かってきた。そこで弁論と名付けた、とのこと。


 まさかの造語。でも使い方、何の間違いもない。ツッコむ必要なし。むしろ、ツッコミ所なし。そこから逆に、こちらへの探りが入る。あの調所は何をしてるんだ?どんな研究をしてるんだ?何が目的なんだ?


 よし、これを手札にしてみよう。


 「それは私の口からは言えません。ただの小間使いであり、内弟子です。いくら佐久間様とはいえ、話したら私が師匠から怒られます。佐久間様との接点を、師匠のみならず所長の箕作様にも知られておりますので。……ですが、子供とは言え、少々、佐久間様には失礼が過ぎたかも、と考えられるくらいには成長しました。そこで、内密にですが、佐久間様が情報を手に入れる方法がございます。お聞きになられますか?」


 「当たり前だろ!」


 この人は簡単に釣られる。ある意味可愛い。半分分かった上で乗っかってる節がある。でもこの人は目的のためには手段を選ばない。だからこそ簡単に乗る。


 佐久間様が育てた弟子を、生徒として送り込め。でも中途半端なヤツだと弾かれる。それどころか自信を無くす。蘭学が達者、知に貪欲、弁論も立つ、そんな三拍子備えてる自慢の弟子を送り込め。現在、仕官の口に困ってる優秀なヤツを。それも複数人。今なら生徒候補として、受け入れる余地がある。ねじ込んでやれる。弟子と師匠の繋がりは永遠だ。送り込んだ弟子から少しずつ情報を仕入れれば、調所がやっていることの全貌が、朧げながらも見えてくるだろう。多ければ多いほど、その輪郭は掴みやすいということは容易に想像出来るはず。ただ、くどいようだが、先程の三拍子は備えていないと、容赦無く叩き出される。そうすると得られる情報が減るどころか、私がねじ込めなくなる。そこだけはきっちりと見極めて欲しい。


 そんなことを滔々と。これで生徒候補ゲット。送り込んでくれればアウトソーシング完了。ここまで言えば、一定ラインを超えた人間が集まるだろう。まずは10人まで、と伝える。


 知に貪欲な人間ほど、あの空間には圧倒される。聞くたびに進化していて、どんどん全貌は掴めなくなる。結果、どんどん人を送り込んでくる。こっちへの興味を無くさせない限り。


 杉先生の様子を窺うと、バレない様に小さくため息ついてる。最近、俺の狙いを察知してくれるスピードが早くなってきて、色々やりやすい。


 佐久間氏へは、送り込む人間が決まったら氏名と略歴を纏めて、和紙職人のおっちゃんにでも渡せば俺のとこに繋がるということを伝え、弁論塾を去った。


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― 新着の感想 ―
>……ですが、子供とは言え、少々、佐久間様には失礼が過ぎたかも、と考えられるくらいには成長しました。  成長しても湯の花は要求するのか……せめて数量は緩和してやってくれ
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