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天才×効率=何だと思う?進化なんだよ。それが3人も5人も集まっちゃうとどうなるか。爆発するんだ。比喩じゃなくて本当に。
例えばボイルの法則。書かれてる前提条件すら意味が分からないと言っている。それを、職人さんの手を借りて2週間掛けて実験の準備。そして、実験する。圧力も体積も理解する。そっから改めて本を読み漁る。俺がやるのは、証明するための実験道具、それを職人さんに作れる物を依頼して代用品を準備する。そして実験の手伝い。
すると、なんということでしょう。わずか2週間で蒸気機関に到達してしまうんです。私は完全に置いていかれるんです。瞬殺です。中学レベルの実験からあっという間に実用化レベルにまで到達してしまうんです。
知の集結の恐ろしさを味わった。一を知れば十を知るどころではない。凡人からすれば、一を知って百まで飛ばれる。読んでる本って、何度でも言うけど他言語だぞ?自言語ですら凡人は理解できないのに、何なのこの人ら。
もちろん、分からないものは分からない。宗教とか芸術系は特に。俺に出来るのは、何となくの小学生レベルの観念的な知識でしかないと思う。でもさ、例えば「キリスト教は一神教」って言っても、正直感覚的なものじゃん。八百万の神と先祖代々って感覚しか分からない、自分の感覚にないものを伝えたとて上手く伝わるはずもない。それでも感謝されて、かえって申し訳ない。
主に困るのは3つ。植物と元素、それと、兵器。植物は早く育てて種にしたいとか。時間の短縮は無理です。神じゃありません。でも、何とかしてあげたい。もちろん俺の得手不得手も好みもある。でもなんかないかな。元素はなぁ、どうすれば良いんだろう。化学反応は当然、経験知としてある。だからこその原理なんだけど、純物質の抽出方法。あとは兵器。これはどこまで関わるべきか。純粋に知らない。そして、どうしても忌避感がある。平和ボケした日本人感覚を捨てきれない。知識を兵器に全振りできるほども割り切れない。どうしたもんか。
それにしても、自分で考えた効率化によって、想定し得た非効率によるフラストレーション以上に、自分に負荷が掛かってる。参った参った。参ったと言いながらも前向きな悩みだから、やりがいは感じられる。とりあえず差し当たって、職人さんたちのとこ回って、3日毎に御用聞きに誰かを寄越すように依頼。別に親方自らって依頼してないのに、わざわざ親方が足を運んでくれる。助かる。
あれ?俺、生徒だよね?事務員みたいな便利屋みたいな立ち位置だけど。生徒?いつから?何も知らねーや。箕作様たちに聞いてみる前に、先にスピードを止める方法を思いついた。
「皆様、ちょっと手を止めてお聞き下さい。えーと、皆さん、研究が順調すぎるほど進んでいらっしゃると思うんです。そうですよね。で・す・が、そのうち生徒が来るんですよ。そのための教本なんかは、如何ですか?研究に夢中になりすぎてやしませんか?皆さんは書から学びました。そうですよね?そうしたら、書を使って教え、それでも分かりにくいところ、詳しく説明する必要があるところを口伝で教えるって教え方の方が、結果的に皆様がラクになると思いませんか?先の苦労が、後の大いなるラクを生む。これこそ、効率的だと思うのですがいかがでしょうか。どれくらいの内容にすれば良いか、という点も悩むところかと思います。そのために私がおります。私を生徒に見立てて、教本を確認させて下さい」。何となく、それっぽいこと言って誤魔化せそう。「私も生徒役として見させていただきたく」、と横から杉先生が乱入。もちろんサンプルは多いに越したことはない。誰も断る人なんかいない。
これで多少の時間稼ぎが出来た。次、生徒について。箕作様の所へ行ったら内田様も居た。やっぱり生徒のことだった。研究者になりたい、学びたいって声が多くて捌ききれん。研究者の方はこっちで選別するから、生徒の選別方法考えろ。好きにしろ、だって。肝心な俺の立ち位置は?生徒一号が他の生徒を決めるのおかしくない?
どうやって決めたら良いのかな?とりあえず、同じく箕作様の弟子ってだけで手伝わされてる、雑用仲間の杉先生と相談してみよっかな。テストやらせて絞って、面接してってのが一番硬い。けど、それを捌くほどのリソースがこちらに足りない。圧倒的に足りてない。内容が内容なだけに、アウトソーシングも無理。どうすれば良いかな。最悪ここの人間の人海戦術しかないのかな?
杉先生とちょっと休憩しましょうってことになり、薄めのお茶を。お茶しながらの雑談から意外な言葉を耳にした。
「そう言えば藤二、知ってるか?俺も耳にしただけなんだけどさ、前に行った佐久間様の塾、覚えてるよな?あそこな、今、弁論塾ってなってるらしいぞ」
は?弁論?どういうこと?




