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守旧派は金で殺す、攘夷派は理で殺す。――幕末に転生した効率厨サラリーマン、内戦はコスパが悪いので和算と裏金で歴史を書き換える  作者: 関沢賢吉


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2-03

 おっちゃんに着いていくと、どんどん知らない場所の方に向かってる。


 「おっちゃん、どこ向かってんの?」


 「うちの工房だ、あぁ、そう言えば来た事なかったな。あの無口だった先生は来たけどな」


 「ん?だった?今は無口じゃないの?」


 「おう、聞いたら教えてくれるしよぅ、口数は少ないけど、怖いお人じゃねえな。着いたぞ。入んな」


 ん?見たことない看板掛かってる。「蕃書調所御用達」。


 「おっちゃん、おっちゃん、あれ何?前あんなんなかったよね」


 「ん?あれも知らねえのか。あれのおかげでよ、うちの工房は大所帯になって、越したってわけよ」


 あれは友さんが持って来たらしい。望遠鏡を手伝ってくれたお礼として、これくらいしか出来ないが、と。その他にも実験を手伝ってくれた職人さんたちの所に掲げてあるらしい。そして町の人からは、なんか分かんねーけどお墨付きがあるってことは凄いに違いないってなり、仕事も弟子志願も一気に増えて大変なんだ、と誇らしげに笑った。他のところも同じ状況なんだって。お前のめんどくせー試作とやらに付き合ったせいで、てーへんになっちまったなんて憎まれ口を忘れずに。


 上手く表現出来ないけど、自分が関わった人が正当な評価を受けるの、凄く嬉しい。ラッキーで幸せになったって人には何とも思わないけど、真っ当に生きてた人が正当な評価を受けて欲しい。身分制度が大きいからこそ、余計にその思いは強い。


 おっちゃんがこっち来てみろ、と呼ぶので行ってみた。

 

 いろんな大きさの望遠鏡が置かれていた。時間がなくて変更、挫折した伸縮タイプもそこにはあった。


 「お前さんら、なんか図面書いてただろ?図面があるのに作れないなんて、職人の名折れ。意地で作ってやったさ。どうでい!」


 俺と友さんは、計算から図面を書いた。技術的に出来るかどうかは別にして。でも職人の腕は、逆のアプローチ。ざっくりの図面とたった一度の成功体験から、どんどん改良を進めちゃう。職人魂ハンパねーよ。これぞ職人力。心の底から尊敬する。


 思わず両手で手を取り「おっちゃんすげーよ。ありがとう、ありがとう。ほんと凄いよ」。


 あっ、でも今、手持ちがない。どうしたら良いんだ?聞いてみたら「バカ言うな。好きでやったことだ。ただどうしても払いたいってなら、もっと新しいもん持って来い。作ってやる」。


 ことごとくカッコいい。暑苦しいオッサンなのに。ほんっとに凄い。脱帽。職人の矜持ってやつか。俺らとは違う方向で探求したい人たちなんだな。




 休みだったけど、望遠鏡を調所まで運ぶ。すると調所は調所で、良い感じの化学反応の兆候を既に見せていた。


 箕作様が建物の設計図面で悩んでいたので、そこに思いっきり口出しした。研究者一人一人に、あえて個室を与えなかったんだ。職員室みたいに広い部屋、壁に向かってコの字のカウンター、ちょっとだけ幅広にしたパンデミックの時のアクリル板みたいなパーテーション。研究者同士の交流を促すことが一番の目的。もちろん、篭って書物したくなることもあるはず。それ用に、わざと狭い部屋の誰でも使用可能、ただし退室予定時間を明記して使用可能な部屋をいくつか用意。


 皆さん似て非なる蘭学の専門家。一つの分野でまだ未開だけど、隣の分野では解明済み。言葉自体ですらきっとそんなことがあるはず。そんな部分がまだまだまだまだあるはずなんだ。あくまでも21世紀基準で見ればだけど。個室を与えて深めるだけの専門性があると思える基準まで達していない。そう判断した。それに、個室を設けると内に籠る。開放してればきっと外に出す。そんな単純な考えから、この形の部屋を頑として譲らなかった。いろんな人から「何となく」って言ったら怒られたけど、少しでも効率的に研究進めて欲しいと思って。


 俺にあったのは思いだけ。別に説明はしてない。でも既に話し合ってる。これが作業標準になれば、一人でブツブツしながらやるよりも早くなるはず。結果効率的になるはず。


 なんか、俺に出来ること、俺が役に立てそうなことが見えてきた。俺にあるのは、所詮高校レベルの知識、分野によっては中学レベル。数学だけは友さんのおかげでむしろレベルアップしたけど。でもそれはある種、答えの形を知っていたからこそ、理解できたとも言える。この知を得るための先人たちの苦労も知らない。でも、21世紀なりの効率を上げる方法は知ってる。


 非効率を排除し、効率を上げる。その手伝い。これは俺にしか出来ない、俺になら出来ることだ。相談という名の壁打ち相手でも構わない。21世紀なりの答えは、うっすら知ってるわけだし。


 研究棟に望遠鏡を置きに向かう頃には、若干の燃え尽き症候群気味だった気分が晴れていた。


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