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重い沈黙を破ったのは、意外にも友さんだった。
「勝様、私には藤二の理屈に何の破綻も見受けられません。故に私は完全に藤二の意見に同意、また、この理屈を理解されぬ職場なのであれば、私は職を辞します。藤二、その時は我らの知を買ってくれる藩をどこか探せば良い」
「いやいや、待たれよ。藤二は一応関流の内弟子として」
「では、藤二を養子として貰い受けよう」
「二人で勝手に話を進めるな。藤二、ワシは実験を好きにさせてやっただろう。ワシの所はどうだ?」
うん、やっぱり俺ペット扱いされてないか?
「三人して好き勝手な話を進めるな」
ピタッと止まる。
「藤二、お前はお前の知をどう使いたい?」
来たか、この手の質問。まだ全然見えてないんだよな。誠心誠意答えるしかない。
「正直まだ分かりません。ただ確実に言えるのは、好きでないこと、向かないことを強要されると、私は間違いなく人並以下です。幸いにも私は師に恵まれております。師に助けを乞いながら、自らの進むべき道を定めたいと考えております」。
「はっはっはっ、確かにな、お主ほど師に恵まれてる者、大名家の跡取りですらおらぬわな」
言われてみればそうだ。俺、めっちゃ恵まれてるじゃん。
「確かに蘭学の習い始めは酷かったな。見込み違いかと悩んだわ」
おい、それ今言うことか?せっかく感動しそうだったのに。
「実験施設の併設を認める。年明けから急ぎ、人の選定と必要になりそうな物の用意を始めてくれ」
「「「ははっ」」」
俺も慌ててマネする。
「それと、藤二じゃが、お主らどうしたい?」
「「「……………」」」
おーーい、無言かいっ!!
「どうしたいもこうしたいも、ワシらの思い通りに動いたことは一度もございませんぞ」
「次々に問題を大きくして来ますし」
「こんな奇才の育て方など知るはずもなし」
なんでこんなとこだけ息ぴったり?
「では、藤二を調所の生徒一号とし、とりあえずは師としてきちんと育てよ」
「「「はっ」」」
慌ててマネする。
「して、藤二よ、最近は新しい実験はしてないのか?お主に会うのにそれも楽しみだったのだが」
「え?だったら実験の必要性分かってるってことじゃ?」
「あぁ、分かっておる。ただしそれは個人として。公として必要かどうかはまた別の話だ」
なるほどね。しっかりしてるわ。それじゃ用意してたもの出しますか。
「こちらを」
職人さんたちが頑張ってくれて完成した。江戸で作れる望遠鏡。焦点がなかなか合わなくて苦労したけど、友さんと2人で計算し直した。そして何より職人さんたち。今回はレンズの仕上げ職人。手作業で綺麗なRを磨ききるなんて。正直言って多少の歪みが生じて当然だと思ってた。凄い。手が赤くなるまで叩拍手した。凹面と凸面が吸い付く感覚だったもん。今回の試作に使えなかったレンズもまだまだこの先利用出来そうだし。
俺たちがそうだったように、勝様もずっと覗いてる。
「まだまだどんどん改良予定です。要領は分かりました。なにより、職人さんたちのやる気が凄いです」。
「最終的にどれくらい遠くまで見れるようになる?」
「分かりません。理論と実践は違いますから」
「ブレないヤツだな。では、質問を変えよう。どれくらい遠くまで見れるようにしたい?」
「そうですね、うーん、今日はちょうど綺麗に見えている月なんかどうでしょうか」
「「「「月?!」」」」
「はい、月です」
「はっはっはっ、子供の夢はデカくて良いな。来年はいい年になるかもな」
子供の純真さからじゃなく、将来見るどころか行くことが可能になってるの知ってるから出したんだけどね。
第一部 完
第2部からは、月水金の週3話ペースで投稿する予定です。




