1-47
今度、幕府の人との面談があるらしい。立場のある人って聞くと、就職活動の役員面接を思い浮かべてしまう。当たり前だけど、上には上がいるんだね。内田様も箕作様も十分お偉いさんに位置してるっぽいんだけど。勝麟太郎という人らしい。
始め「勝」って固有名詞聞いた時に、反射的に頭の中に「海舟」って出て来たけど、違った。麟太郎って名前は聞いたことがない。令和のお笑い芸人でなら聞いたことあるけど。
急に箕作様が大忙しになったらしく、また内田様の所に戻ってきた。それでも一応、箕作様からの宿題は提出済み。急ぎ、試作機を作ってみろとの指示。内田様の所に戻って来たと言っても、内田様も前にも増して忙しそう。でも、正直関係ない。昼間は箕作様の所から借りて来た蘭書を読み、職人さんたちとの打ち合わせ、たまに杉先生と話し、夜は毎日のように小野様が来る。奥さんに浮気を疑われるんじゃないかってくらい。小野様のお陰で、前世の全盛期よりも、圧倒的に数学力が付いた。東大、京大の赤本見て、30秒で諦め、解答例を見て1分で頭真っ白になってた頃よりも、圧倒的に理解度が違う。
あまりに合いすぎて、会いすぎて、先生→小野様→友さんって呼ぶようになってた。それを聞いて内田様、未だかつて見たことないくらい、ドン引き。「笑い声どころか、笑顔を見たことが無かった」らしい。淡々と冷めてる印象だったって。箕作様も同じ印象だったみたい。
正直、分からんでもない。俺は色んな意味で守られてた。子供の姿だったからこその庇護だと思う。友さんは一人で進むことが出来ちゃったんだ。出来ることが増えた結果、話せる相手が減ったんだと思う。孤独だったんだよ、きっと。もしかしたら友さんが居てくれたおかげで、内田様は俺への免疫があったのかもしれない。そして俺は、この人の孤独を晴らすために、この世界に来たのかもしれない。半分本気でそう思ってる。
まだ日付けは決まってない勝さんとの面談、内田様、箕作様の両師匠に加え、いつの間にか友さんも同席することになってた。こんな3人の天才たちが後世に名前が伝わってないなんておかしい。きっと江戸時代のパラレルワールドなんだろうな。もしくは、考えたくはないけど、歴史は勝者が作る。ということは敗者側だった可能性を捨ててしまうのは、それはそれで危険だ。もちろん俺が知らないだけの可能性だって捨てちゃいけない。自分が知ってることだけが全てだ、なんて傲慢な考え方してたら、佐久間氏よりもイビツな人間になってしまう。
結論、まだ分からない。史実を変えるようなことだけはしない。結局、結論はそこになる。オーパーツだけはホントに気をつけないと。ま、実際に作り出すような技術も知識もないから、うっかり話したりしないよう気を付けよう。でもな、やっぱり自分の周りの人たちだけは守りたいな。
—--------------------------------
side 箕作阮甫
こちらの提案が通ったら通ったで忙しい。急にバタバタと決めなきゃいけないことが山積みになった。呼ぶ人間も、あらゆる分野から集めねば。その人の選定が一番大変だ。とは言え、ある程度の「知」が集結すれば、必ず寄って来る。渇望すればするほど敏感に。出来ればまだ名前を知らぬ、地方の逸材とかも集めたいものだ。とは言え、佐久間みたいなのばっかりになったら、それはそれで大変だ。能力と人間性、その両方がある程度ないと。ん?佐久間?
そうか。入りたい者に、藤二流の議論ができるかどうかを試せば良い。それなら藤二の言う不毛な議論にはならない。小野殿はもともと呼ぶつもりではあるが、あの人はそもそも吠えるなんて行動と一番かけ離れてる人だからな。
だが聞いて驚いたが、よりによって「友さん」だと?小野殿が笑顔、声を出して笑うだと?にわかに信じられん。どれだけ考えても思い浮かばん。合うとは想像していたが、想像をはるかに超えよった。出来れば初顔合わせの場に、ワシも立ち会いたかったな。全てが後から聞いた話だから、それがちょっと悔しい。
これで藤二を守る者が増えたのは良いことだ。アイツを好きに利用できるかは別として、都合の良い利用をする者からは守ってやらねば。アイツの知を手段に使おうとする者、それだけはさせまい。アイツとおると知が深まる。その感覚を持つ者は、ワシだけではないはず。だからこそ、内田殿も連れて来たのであろうし。杉もだ。なまじ長崎での経験から高邁な所が見受けられたが、今は落ち着いている。学ぶことが目的ではなく、学びを活かすことが目的になってきつつある。後一歩ってとこかな。そこから先は師は何もしてやれん。自分で探すしかない。
あーー、忘れてた。名前も決めねばいかんかった。もう面倒だからいっそのこと蘭書を調べる場所だから、蘭書調所にしとこうかな。だがそれだと、蘭語以外は受け付けんって取られかねん。それは本意ではない。いっそ限定せず、蕃書調所としておくか。それなら「蘭学かぶれが」という意味不明な罵倒からも少しは遠ざけられよう。うん、面倒だ。これで良い。こんなものはただの名前だ。




