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あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。正月関係なく、淡々と更新の予定を入れてありますので、本年もよろしくお願いいたします。
side 内田五観
「内田殿」
「どうされました?小野殿」
「そろそろ明かしてはもらえませんか?」
「明かす?何を?」
「内田殿が急に洋算に明るくなった秘密。関流にて数独などという、全く伝統になかったものを取り組んだ秘密」。
「いつから気付いておった?」
「むしろ気付かぬとでも?乗数の分からなかった人が、急に洋算の記号を扱えるようになるなど、明らかにおかしい」
「…………(ワシはそんなに洋算を苦手だと思われ、伝統に凝り固まってると思われているのか)……」
「どんな秘訣で?何をどうしたらそこまで達者に?」
「なぜそれを知りたいと?小野殿なら間違いなく右に出る者はおりますまい」
「なぜより高みを目指すことを考えない?」
ダメだ、この人には隠せん。口を割るまでずっと詰めて来る。
「内弟子にした者が、思いの外、洋算が得意でして、その者に手伝わせました」
「今その者はどちらに?私が何処へ出向けば会えますか?」
やっぱりこうなるか。藤二め、次から次へと厄介ごとを引き寄せおって。
「現在、実家に帰省させておりまして、近いうちに帰って参ります。帰りましたらお声掛けを」
「とりあえず今日、帰りに内田殿の方へ寄らせてもらいます。まだ帰ってないようでしたら、また明日」
「今日ですか?無駄足になるやもしれませんので、帰って来ましたら」
「今日寄ります。では、後ほど」
無理だ。こうなったら箕作殿でも無理だろう。もう、色々諦めた方が良いのかな?
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内田様が知らない人を連れて帰って来た。新しい弟子志願?それにしては、内田様に年が近いような。
「おかえ」
「お主が藤二殿か。早速これを見てほしい。この蘭書とワシなりの理解の式、これを見てどう思う?」
出されたのは数式だった。前世で概念が全く理解できていなかったため、すっかり抜け落ちていた数式。蘭書で必死に理解しようとして、それでも理解までは及ばず、まだ到達出来てない数式。これを微分で証明してる。
「美しい」
反射的に出てしまった。
「美しい?お主もそう思うか?」
『も』って言った?この人、『お主も』って言ったよね?
「美しいです!とてもとても、一切の無駄がなく、過不足のない証明です。先生」
思わず見ず知らずの人を先生って呼んじゃった。
「一つ聞きたい。お主が思う、算法に対する一番の不満は?」
「『0』の表記がないことです」
その瞬間、両肩を掴まれる。俺も腕を掴み返す。
「そうだ、0はあるんだ」
「そうです。0は0として存在するんです」
相手が女性なら、その場で抱きついてた。相手がオッサンだったからこそ、ギリギリそこは踏みとどまれた。無条件で、ノータイムで涙が溢れ出た。
オイラーの公式からの涙、よくよく考えると、カオス以外の表現のしようがない。
正直諦めてた。和算にはない考え方だと。でもやっぱり、慣れただけで、0がないことを受け入れてたわけじゃない。しょうがない、と納得させてただけなんだ。
せっかく感傷に浸ってたのに、内田様からの邪魔が入った。いや、分かるんだ。自分が連れて来た客と、自分の弟子が初めて会った者同士が勝手に盛り上がるなんて、どうして良いかも分かんないよね。
「…あのー、小野殿、良いか?」
「これはすまんかった。まさかこの感覚を共有する人間に出会えるなんて、と思ったらつい」
この人も同じこと思ってたんだ。
「とりあえず藤二、小野殿を客間へ案内しなさい」
その人の名は小野友五郎というらしい。同僚みたいなもんだと。ま、きっと部署が若干違うくらいなんだろうな。洋算の第一人者だそうな。とりあえず顔合わせすんだから、今日は遅いからまた後日ということでお開き。ホントにこの人、俺に会うためだけに来たの?それはそれで凄いな。でも、本当に嬉しい。




