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守旧派は金で殺す、攘夷派は理で殺す。――幕末に転生した効率厨サラリーマン、内戦はコスパが悪いので和算と裏金で歴史を書き換える  作者: 関沢賢吉


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 俺は呆れてる。


 「杉先生、帰りましょう。時間の無駄です」。


 


 内田様からの指示であった、佐久間象山氏の塾、5月スタートだから「五月塾」という、実に安直すぎる塾のお誘いがあった。策士で傲慢、性格は蛇のようにしつこく、理想が高い、でも、あらゆる分野に精通している天才。それが内田様の佐久間氏への評価だ。この人間性を勘案した結果、杉先生がお守りとして一緒にいくことになった。俺の顔見て、ため息ついてた理由は分からん。でも文句言わないってことは、何か弱みでも握られてるのかも。


 無駄に暑苦しそうなオッサンに手厚く出迎えられ、参加者は訝しげな顔でこちらを一瞥。ほぼ全ての参加者が、すでに目がギンギン。出迎えたオッサンこそが佐久間氏だった。


 前世の知識も加味して、誰か著名な人がいるかも、と期待してたのも悪かったのかもしれない。理性のかけらも感じない、討論にすらならない感情論のぶつけ合い。幕府はどうだ、異国はどうだ、挙句、貶し合う。前世で見たことある「朝◯」並の酷さ。そして肝心の佐久間氏も「朝◯」司会者並の、自分の意見を滔々と自己陶酔しながら述べるだけ。


 いつ帰っても良い、とのことだったので帰らせてもらう。「なぜだ?」と怒鳴られたので、「願望と何の制約もない『べき論』からは何も生まれません。また、対案なき批判は非難。非難からも何も生まれません。よって、ここにいる価値を見出せません」と、言いたいことだけは言って、帰ることにした。心底ガッカリした。



 内田様の屋敷まで杉先生が送ってくれた。道すがら質問された。「なぜあの熱の中にいて、藤二の熱は上がらないのか。恥ずかしながら俺は、あそこに混ざって議論したいと思ったぞ」と。この人は理性的だと思ってただけに、その発言に驚いた。


 「熱に浮かされるのは、決して悪いことではありません。ただ、熱しやすいものほど冷めやすい。また、あれは議論としての体を成していません。議論をするのであれば、まずは目標設定、次にその目標に到達し得るためのあらゆる可能性を排除せず、壁が生じる可能性も楽観せず、その上でどうしたら達成できるか、ということを冷静な判断を下すべきです」ということを語ってしまった。苛立ちもあったのだろう。俺もまだまだ冷静さに欠けてる。


 そのまま無言で屋敷に着き、杉先生と別れた。キレて帰って来たって流石に恥ずかしかったけど、正直に内田様には伝えた。もう行きたくないことも正直に伝えた。あれはカルトだ。そこまで出かかって、それはやめておいた。翌日、いつもよりも上機嫌で帰宅して来た。なんか良いことでもあったようだ。仕事が一段落したのかな?


 次の五月塾の予定に合わせて杉先生が来た。今日は嫌な顔をされなかった。「行かない」旨を伝えたのに、と思ってたら、俺と話をしたいとのことだった。杉先生ならウェルカムです。


 この前の話が引っ掛かってたみたい。五月塾内でのことかと思ったら違った。俺が話したことだった。「可能性を排除せず」のところが分からん、と。


 うーん、杉先生との共通言語って蘭学しかないよな。蘭学で例えるか。


 「蘭学を教わりたいって聞いて、先生は何を想像しますか?」


 「蘭学書を読む、蘭語を書く、蘭語を聞く、蘭語を話す」


 「では、以前の私の申し出を、先生はどう思いました?」


 「ふざけている、正直そう思った」


 「そこです。そこでまず認識がズレていたんです。私が蘭語を学んだ理由、内田様から学べと言われた理由、それは『蘭書を読む』ためでしかないんです。むしろ、それ以外を求めてはいなかったんです。先生には先生の中に『語学学習はこうあるべき』がありましたよね?」


 「あぁ」


 「それが私にとっては、過分だったのです。だからこそ、現状を改善するためにどうしたら良いかを分析、認識のズレの修正、その結果がああなったのです」


 「分かったような、分からんような」


 「私一人のことであれば、私自身の分析だけで良いです。例えば将来、先生が塾を開くとしましょうか。先生の教えたい方法だけを追っていたら、ある人にとっては満足、しかし私のような人間は不満に思うかもしれません。それでは先生が勿体無い。例えば書を読みたい人向けの時間、会話をしたい人向けの時間、書きたい人向けの時間、と寺子屋の様に時間によって教える内容を変えていけば、先生も塾生も、教えやすい、教わりやすい関係になりませんか?」


 「なるほど」


 「そして、来る生徒の偏りがそのうち見えてくるでしょう。その傾向に応じて、時間の割り振りを変更していく。その方がより効率的になるでしょう」


 「分かってきたぞ」


 「それこそが、傾向と分析、そして対策です。さらに言うなら、五月塾、あの形は愚の骨頂です。まず、主語が大きすぎます。主語が大きければ大きいほど具体性がなくなります。その結果、自分の願望しか出て来ません。主体性も無くなるでしょうし、そのうち都合のいい解釈と論点のすり替えが始まるでしょう」。


 「では藤二の言う議論の理想的な形とは?」


 「いろいろな手段があるとは思いますが、例えば、一つの議題について、賛成と反対で分かれる。それは個人的心情は抜きにして。何なら個人的心情と逆の方が良いかもしれません。その上で、お互いに意見を出し合い、具体的に反論を出し合う。そこですり合わせることが、一つの議論の形かと」。


 「そうか、勉強になる。ところで藤二はまだ童なのに、なぜそんなことを知っているんだ?」





 やべーーー


 「洋算の本にその様な記述があった………気がします」

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― 新着の感想 ―
やべーw
ここまで一気読みしましたが、もう追いついてしまった 続きも楽しみにしております
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