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現代日本に召喚された女騎士が俺に独裁者になれとすすめてくるんだが?

作者: 廃くじら
掲載日:2026/07/26

思考実験的なお話。

問題作というか問題しかない話なので、その内消すかもしれません。

『本格土鍋炊飯器5.5合炊きが、今回何と1万円! ですが実はこれだけじゃないんです。皆様への日頃の感謝を込めて、包丁研ぎ器もセットでお付けしちゃいます! このお得なセットは今だけ! 今すぐフリーダイヤル──』


 初夏の昼間、居間のTVからは通販番組の甲高い声が流れている。


 午前中の農作業を終えて昼食。俺は豆腐一丁まるまるの冷奴と漬物で卵かけご飯をかっ込んだ。


「なぁなぁ、一弥いつや! これ買おう! このドナベジャーがあれば毎日のご飯が今よりずっと美味しくなるんだって! 凄くお得じゃないか!?」


 先に食事を終え、クイクイと俺の袖を引っ張りながらそうねだってきたのは、この現代日本の片田舎には似つかわしくない金髪碧眼の美女。


 俺は無防備に揺れる豊満な果実からさり気なく目を逸らし、着色料で黄色く染まった沢庵を奥歯で噛み砕いた。


「駄目。ウチの炊飯器はまだまだ使える」

「でもでも毎日食べるものだし、美味しいに越したことはないだろ!? この炊飯器、最低3年使うとしたら、一日あたりたったの10円だ。たった10円で毎日のご飯が──」

「やかましい! 数字トリック使ったセールストークなんぞ聞かされても買わねぇ! つーか、言うほど性能に違いはねぇし俺らの舌じゃ味の違いなんてわかりゃしねぇよ!」

「むっ! 私の繊細な舌を一弥の馬鹿舌と一緒にしないで欲しい!」

「もらった猪豚いのぶたを牛肉と区別もつかずに美味い美味いって馬鹿みたいに喜んでた奴が何ほざいてんだ!」

「あ、あれはどちらも美味しいという意味で……く、区別ぐらいちゃんとついてた! 一弥こそ、何でも醤油味にして素材を台無しにしてばかりじゃないか!」

「俺は馬鹿舌で幸せだからそれでいいんだよ。贅沢覚えて幸福度がどうこう言ってる奴の方がどうかしてるっつーの」

「一弥が馬鹿舌なのは勝手だが、私は美味しいものが食べてみたいんだ! ねぇ、買って買って!」


 溜め息を吐いて弛みそうになる表情を誤魔化す。俺の腕に纏わりつき、さりげなく胸を押し付けてくるこのあざとい女の名はイルマ。何を言っているか分からないと思うが、つい先週犬の散歩中に土手で拾った異世界の女騎士である。


 俺の足を掴んで「ご、ごはん……」と食事を要求してきた彼女を、ついうっかり家に連れて帰り食事を与えてしまったのが運の尽き。


 息を吹き返したイルマは自分が別の世界からやってきた騎士だとほざき、しばらくここで世話になると一方的に宣言して住みついてしまった。


 勿論俺は拒否しようとしたが、彼女が持つ切れ味鋭そうな剣の輝きを見せつけられ、脅しに屈さざるを得なかった。決してイルマのたわわに実った二つの果実に惑わされたわけではない。


 イルマの話によると、彼女はヴェザリウス王国という国の騎士だったそうだ。しかし王国政府は長い歴史の中で腐敗。イルマは同志たちと共に腐敗した為政者たちを打倒し革命を起こそうとしたが、あと一歩のところで王子に率いられた義勇軍に敗北した。


 彼女は捕らえられそうになったところ転移術式を起動して逃走したが、術式の暴走により世界の境界を飛び越えてこちらにやってきてしまったそうだ。


 ──と、当初俺は彼女がそういう設定のコスプレ大好き外国人なんだな、と聞き流していたが、直後にその人間離れした怪力や諸々の不思議パワーを見せつけられ、彼女が異世界人であることを信じざるを得なくなってしまった。


 言い忘れたが俺の名前は戸枝とぐさ一弥いつや。実家の農家を継いだ一人暮らしの28歳独身男である。


 二年前までは実家を離れて都心の銀行に勤めていたが、職場の人間関係に疲れて転職を検討。そんな折、老齢の両親が身体を壊して介護が必要となったこともあり、実家に戻って家業である果物農家を継ぐ道を選んだ。


 その後、両親の世話をしながら三人で暮らしていたが、一年前に両親は揃って自宅介護が困難な状態となり、そのまま夫婦で老人ホームへ。


 俺は柴犬のキナコ(5歳・♀)と共に広い田舎の一軒家で独り暮らしをしていた──イルマを拾うまでは。




 この時期、農家の昼休憩は長い。


 初夏とはいえ屋外での作業は熱中症のリスクが高く、体力を大きく奪われる。その為、この辺りの農家は涼しい朝夕に作業を行い、昼間の暑い時間帯は冷房の効いた場所で休んでいるのが一般的だ。


 午前中に葡萄を種なしにするためのジベレリン処理を終えて一息ついていた俺は、冷たい麦茶を飲みながら何をするでもなく呆けていた。


 一方、一緒に作業していたイルマは俺と違って体力が有り余っているらしく、TVのニュース番組をうんうん頷きながら食い入るように見ている。


 ──そういえばこいつ、TVとか車とかには全然驚きゃしなかったな。


 イルマはよく創作物にあるようにTVを見て中に人がいると叫ぶことも無ければ、車を見て鉄の馬と言い出して分解しようとすることもなかった。


 その理由は彼女がいた世界がいくつかの異世界と交流を持っていたため。イルマのいた世界自体は中世ヨーロッパ程度の文明レベルしかなかったが、交流していた異世界の中には地球で言う近世程度の文明レベルの世界もあったらしく彼女はTVや車を「そういうもの」としてあっさり受け入れていた。


 付け加えるならイルマの世界は魔法関係のトンデモ技術が発展しており、一概に現代日本と比べて劣った世界というわけでもない。


 俺はまだチラとその片鱗を見ただけだが、イルマの戦闘力は本人曰く『その気になれば最新鋭の戦闘機を生身で撃墜できるレベル』なのだとか。あちらで機械文明が発展しなかったのは、その必要がなかったというのもあるのかもしれない。




『政府は国民を馬鹿にしてますよ! 国民が生活苦で苦しんでいるのに税をとることばかり──』

『資金集めに忙しいのか知りませんが国会の最中に居眠りするような──』

『こんな初歩的な答弁もまともにできないような大臣が──』

「…………」


 TVではコメンテーターが政治家への不満を垂れ流していた。俺には何が面白いのか分からないが、イルマは真剣な表情で聞き入りながら、時折首を傾げ、顔を顰め、唸り声をあげている。


 自称ではあるが弱者のため国家に反旗を翻した革命騎士だ。異世界とはいえ政治事情には関心が強いのだろう。


『民意を無視して一体何がしたいのか! 総理は国民を馬鹿にしてますよ!』


「なぁなぁ、一弥」

「…………ん?」


 イルマがこちらを振り返り、TVの中のコメンテーターを指さしながら疑問を口にする。


「こいつは一体、何を言ってるんだ?」

「何をって、政治家が無能だって怒ってるんだろ」


 だがイルマの聞きたいことはそうではなかったらしい。


「いや、これだけ不満が出てるんだから政治家が無能なのは分かるが、民意を無視とか国民を馬鹿にしてるってどういうことだ?」

「それは……国民が税金を下げて生活を楽にして欲しいって言ってるのに、それを無視するから──」

「どんな国でも税金を下げて生活を楽にしてほしくない国民とかいないだろ。言われるがまま税金を下げる政治家の方がおかしくないか?」

「…………」


 これはまぁ、俺の言い方が悪かった。


「いや、この国じゃこれまでいろんな形で税金が上がる一方でな。逆に政治家は無駄遣いばかりして景気は悪くなる一方だから、そういう不満が税金を下げろって形で噴き出てるんだ」

「ふむふむ。そこは理解したが、民意を無視とは? この国じゃ政治家は選挙で選ばれてるって聞いたぞ?」

「ああ。だけど選挙の時だけいいこと言って、実際当選したら約束を守らない政治家が多いんだよ」

「つまり、騙されたと?」

「まぁ悪意があったかは別にして、口先だけの奴が多いってのは確かだな」

「う~ん……」


 イルマは俺の説明に腕組みして考え込む。


「何か分からないことがあるか?」

「……いや、国民を馬鹿にしているとさっき言っていたが」

「ああ」

「そんな口先だけの奴に騙されて選んでしまったいうのは、つまり馬鹿にしているのではなく、国民が馬鹿だということなのではないか?」

「…………」


 すげぇことを言いやがる、この女。遠回しというか正面から国民を敵に回しやがった。というか、ナチュラルに俺も馬鹿だと言われてるよな、これ。


「ま、まぁ、選んだというか、そもそも立候補した連中の中に碌なのがいなかったから仕方なくというか──」

「そんな碌でもない人間しか選択肢がない時点で、その国と国民はどうかしてると思うんだ」

「…………」


 お前、そうまでして全方位に喧嘩を売る必要があるか?


 しかしどう説明したものか。こいつの国民馬鹿発言はともかくとして、実際問題今この国がおかしくなっているのは確かだ。そして大原則としてそのおかしくなった最終的な責任は主権者である国民全員に帰属する。いくら政治家が悪いと言ったところで、その政治家を選んだのは国民なのだから。


 これをイルマがいた王制国家に当てはめると最終的な責任は全て王がとる。問題を起こしたのが王ではなくその部下だったとしても、その部下を任命した責任やそんな問題が起こるような体制を作った責任が主権者である王にはあるという理屈だ。故に王は国が行き詰まれば物理的に首を挿げ替えられるリスクを負っているとも言えるわけだ。イルマの感覚からすれば、この民主主義国家の国民が主権者を名乗り権利を主張する以上、そこから生じる全ての責任を背負うのは当然のことなのだろう。


「えっと、な。イルマがもといた国でもそうだったと思うけど、全ての国民が政治に詳しい訳じゃない。むしろ国民の大半は政治に関する知識なんてほとんどない素人なんだ。口の上手い連中に耳あたりのいいこと言われたら、ついコロッと騙されるのは仕方がないことだろ?」

「私のいた国はともかく、この国の国民は主権者なんだろ? 国の方針を決める人間が何もわかってない素人とかおかしくないか?」


 まあ理想を言えば主権者である以上、国民は政治に関心を持って深い知識を持っていなくてはならない。


 それが現実的に困難だから専門家である政治家に任せるわけだが、その政治家や政策の良し悪しを判断するためにはやはり政治に対する知識が不可欠だ。極論を言えば、イルマが言っていることは何もおかしくはない。おかしくはないのだ、が──


「いや、主権者って言ってもイルマがイメージしているのとは権利も責任も重さが全然違うだろ」

「重さ?」

「ああ。この国じゃ選挙権を持った奴に限っても一億人前後の国民がいる。一人一人の権利や責任は国の一億分の一だ。それでたった一人で国を背負う王様と同じ意識の高さで政治と向き合えって言っても、現実的にそりゃ無理があるだろ?」

「なるほど。それが重さか。確かに自分の影響力がたった一億分の一と思えば、無関心になるのはむしろ自然なことかもしれないな」


 ふむふむと納得したように頷くイルマ。


 良かった。これでこの話は終わり──とはいかなかった。


「つまり民主主義という制度そのものに欠陥があるということだな」

「…………」


 ああ、そっちに行くのかと俺はいっそ面白くなってしまった。イルマの話を聞いて昔聞いた逸話を思い出したからだ。


 どこまで本当かは知らないが、かつてペルシア人たちはダレイオス王の即位の折、自分たちの政治体制について話し合ったらしい。


 万民に主権を与える「民主制」。


 貴族による「寡頭制」。


 君主による「独裁制」。


 彼らはそれぞれの政治体制の利点と欠点を挙げて議論し、その中には当然、民主制を否定する意見もあった。


 メガビュゾス曰く「なんの用にも立たぬ大衆ほど愚劣でしかも横着なものはない」


 ダレイオス曰く「民主制の場合には悪のはびこることが避けがたい。国家に悪事を働く者たちは結託してこれを行なうからだ。結局は何者かが国民の先頭に立って悪人どもの死命を制することになる」


 そしてダレイオスは最終的に、民主制では悪がはびこり、誰かがそれを駆逐することで民衆から賛美された挙句、独裁者として仰がれることになるだろうと説いている。まるでこの国の可能性──暗い未来を予言しているようではないか。


 結局、ペルシア人たちは独裁制を選択した。


 ちなみにヘロドトスはペルシア人が独裁制を選んだことが、民主制を選んだギリシャに敗北した原因だと説くわけだが、それは政治制度がどうというより当時のスパルタを中心としたギリシャの戦士たちが高い意識を持って命懸けで戦ったからなので脇に置いておく。要は現代日本人にテルモピュライの戦いを再現できるのかって話だ。


 俺個人は民主主義国家以外で暮らしたいとは思わないが、民主主義が完全無欠の政治制度であるとまでは考えていない。


 民主主義国家がヒトラーのような独裁者を生み出してしまった例もある。また独裁制というと悪いイメージが付きまとうが、名君が統治する創作物の中の王国を「独裁国家などけしからん」と否定する者もいないだろう。


 政治制度はハードウエアに過ぎず、大切なのはそれを運用する人だ。


 それを踏まえた上で俺は自分なりの考えを伝える。


「欠陥の無い政治制度なんてないだろう。どんな制度だって運用する人間が腐れば終わりだ。それは王による独裁制でも貴族による寡頭制でも同じことじゃないか?」

「うん、その通りだな。どんな制度も国もいずれ腐って寿命が来る。私のいた国が腐敗したのは制度の問題ではなく、単に国家としての命数を使い果たしただけのこと、というわけだ」


 イルマは納得した様子で何度も頷く。


 彼女は腐敗した国に反旗を翻した側の人間だが、それも国を愛した故の決断だった筈。自分の育った国が根本から間違っていたとは思いたくはないだろう──と、そういう話かと思っていたのだが違った。


「つまりこの国は既に腐敗して命数を使い果たしつつあるということだな?」


 やけに嬉しそうに続けるイルマ。この国の国民として中々頷き辛い言葉ではあったが、腐敗しているかいないかでいえばしているし、先行き明るい未来のある国とは言い難い状況だ。


「ま、まぁ……それに近い状態ではあるかもな」

「つまり今まさに求められているわけだ」

「何が?」

「革命に決まってるじゃないか!!」


 ギラリと目を輝かせて力強くイルマは断言した。


「どうせ滅びる国なら私がしてもいいよな? これでも私は革命には詳しいぞ!? むしろ私こそが専門家まである!」

「失敗した奴が何ほざいてんだか──じゃ、なくて!」


 どうやらこの女、単に現代日本に革命を起こしていいかを見極めていただけだったらしい。


「何でそうなる!? 革命がしたいならむしろ自分の世界に戻って再チャレンジしろよ!」

「……何を言っているんだ、お前は?」


 イルマは心底見下げ果てた目で溜め息を吐く。


「確かに私のいた国の王族は腐りきっていたが、それでも王子は私たちを跳ねのけるだけの意思と力を示した。少なくともむこう百年は反乱など起こらぬよう彼を中心にマシな治世が行われるだろう。そこに今更私が戻って騒いだところで、誰が支持するというんだ」

「いや、まぁ……それはそうかもしれんが。だからと言って無関係のお前がここで革命を起こす意味も無いだろ?」

「意味? そんなものやってから考えればよろしい」

「そんなやりたいことやってれば意味なんて後からついてくるみたいなポジティブマインドで革命を正当化されても」


 分かってはいたがこの女、ナチュラルに常識と話が通じない。


 価値観が違い過ぎる以上、正論は意味を成さないと判断した俺は、別の切り口で説得を試みる。


「そもそも、だ。革命って言っても一体何をどうするつもりなんだよ? この国にはお前と一緒に戦ってくれる仲間はいないし、同調してくれるような血気盛んな馬鹿も──まぁ、多少はいるかもしれんが役には立たん。お前にできることなんてどうせ暴ry──武力行使だけだろ? そりゃお前のよー分からんマジカル剣術と聖剣があれば戦車の十や二十は潰せるかもしれんが、流石に国を相手取るには力不足じゃないか?」

「……はっ」


 しかしイルマは馬鹿にしたようにヤレヤレと肩を竦めた。


「分かっていないな。いいか? 戦いというのは単純な戦力のぶつかり合いではないんだ。いくら敵戦力が強大であろうと一度に私一人にそれをぶつけることはできはしない。一つの戦場に展開できる戦力には限界があるし、そもそも国民を巻き添えにするリスクがある状況で攻撃を決断できる胆力のある指揮官はそう多くない。精々数十人程度の戦力を殲滅できる戦力、そして相手の追跡を掻い潜って逃走可能な機動力と隠密能力があれば個人で国を相手にすることは決して不可能ではないのだよ」

「……理論上はそうかもしれんが」


 どう考えても騎士の戦い方ではないな、とのツッコミを俺は飲み込んだ。本物の騎士を知っている訳ではなし、そこが問題なわけでもなかった。


「というか、そのやり方じゃテロリストになって国を亡ぼすことはできても、結局誰の支持も得られんだろう。独裁ってのはそれを支持する人間がいて初めて成立するもんじゃないか?」

「うむ。そこはこの聖剣の能力を使う」


 そう言ってイルマは壁に立てかけていた美しい蒼銀の長剣を手にとった。


「この聖剣には敗北を認めた相手を支配し従順な傀儡にする能力がある。これを使って権力者やマスコミを操って世論をコントロールしつつ手駒を増やしていけば──」

「待て待て待て。それのどこが聖剣だ? どう考えても魔王とか悪逆皇帝とかが持ってる魔剣だろ」

「はっはっはっ! 聖だの正だのは所詮、暴力や犠牲を美化するための虚飾に過ぎんよ。究極のところ人を傷つける武器が間違っていない筈がないのだからな」

「……含蓄があるのかないのか」


 この際、その剣が聖か魔かはどうでもいいので置いておくことにする。


 問題はこの女がその気になれば本当にこの国で革命を起こし独裁政権を打ち立ててしまえそうなところだ。


 もし革命が成功したらどうなるのだろう? 何となく厳しくはあっても今よりマシな国になりそうな気もするし、周りの国を巻き込んで泥沼の戦争状態に突入しそうな気もする。


 正直俺は国がどうなろうと知ったことではなく、ゆるゆるのんびり細々と生きていければそれで良い。騒動を起こされるのは困るのだが……


「……仮にお前の言う通り、この国の政治体制がもう末期で、遠くない未来に革命だか政変だかが起こる可能性があったとして──お前にそれを実行する力があるんだとしても、だ。他所から来た無関係のお前が、何か出来そうとか気に喰わないとかそんな理由で革命起こすのは筋が違わないか?」

「うん。それはその通りだ」


 俺の言葉にイルマはノータイムで素直に頷く。


 良かった。流石にこの辺りの筋は理解して──


「だから革命の首班は私ではなく一弥、お前だぞ」

「…………は?」

「は?──じゃない。何のために私がこうしてお前に説明してやってると思ってるんだ? お前にこの国の革命を主導してもらうためだろ」

「何でそうなる!?」


 いつの間にか民主政治を打倒する革命家になることが求められていて愕然とする。意味不明過ぎてわけがわからない。


「何度も言わせるな。この国には革命の火種があり、私にはその革命を実現する力はあるが大義がない。だから一弥、お前がその大義になるんだ」

「何でだよ!? 俺がいつ革命家になりたいなんて言った!? そんな素振りを少しでも見せたか!?」

「言ってはないが、私のためになってくれ」

「嫌だわい!!」

「おいおい。どうして私がお前の意思を気にかけると思うんだ?」

「かけろよ、そこは!?」

「名目上とはいえトップになってもらう以上、聖剣で支配するというのも体裁が悪いからな。そこは一応気を遣った」

「体裁じゃなくて俺の意思を気にかけろと言っとるんだ!!」


 俺が本気で拒否すると、何故かイルマは意外そうな表情で俺の顔を覗き込む。


「……そんなに嫌か?」

「嫌に決まっとるだろうが」

「何でだ?」

「何でって、そんなの……」


 改めて問われると案外答えに困る。ヤバいことをしたくないというのが最初に浮かんだ答えだが、それはこの問題の本質ではない気がした。


「ついこの間も農業やってても儲からない、無駄な政策に税金が使われてばっかりだと文句を言ってたじゃないか。それを変えるチャンスが巡ってきたんだぞ? なんでそうしない?」

「…………」


 そんなの、何で俺が──


「……まぁ、少し話を急ぎ過ぎたか」


 イルマはそんな俺の内心を見透かすように肩を竦める。


「詰まるところ民主主義というのは誰も責任を取らないでいい仕組みだからな。いきなり自分の責任で何かしろと言われて戸惑うのも仕方あるまい」

「────」


 うんうんと納得したように頷く彼女に、反論の言葉が咄嗟に出てこなかった。


「だがな、一弥。人は誰しも生きることの責任と決断からは逃れられない。いつか必ず怠惰の報いを受ける日が来るんだぞ」


 真面目な顔をしてそう語るイルマに、俺は──


「…………いや、それっぽいこと言って押し切ろうとしてるが、『決断=革命』ってことには間違ってもならないからな?」

「はっはっはっ」


 笑って誤魔化すイルマに、俺は突っ込む気力もなく深々と溜め息を吐いた。




 俺が国家転覆を決意するまであと99日。

登場人物の発言は筆者の政治的思想ではありません。

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