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借金に殺され転生したおっさん、スキル『徳政令』をもらったがチートすぎるので無双します

作者: 芽春誌乃

4作品目です!

よろしくお願いします!


※カクヨムでも投稿しています

 借金なんて他人事だと思っていた。

 俺には一生縁のないフィクションの中だけの世界だと思い込んでいたのだ。


「すまない……頼む。連帯保証人になってくれ」

「よせ……頭を上げてくれ」

「頼む。なんでもするから!」


 涙を流しながら頭を下げてきたのは学生時代の旧友、三浦だった。

 職場も家も失い、子どもも養えない。

 そう語る彼に俺は手を差し伸べてしまったのだ。


 俺の名前は村井大樹(むらいだいき)、48歳の独身。

 賃貸のアパートに1人暮らしで職業はサラリーマンだ。


「……まあ、三浦がそこまで言うなら、仕方ないよな」

「いつも迷惑ばっかかけてすまない……」


 養う相手はいないしこれからもできないだろうから、世間一般に危険と言われがちな連帯保証人になっても別に構わない。

 ――――そんな軽い気持ちで判子を押したのが地獄の始まりだった。


 三浦は翌週、忽然と姿を消した。

 スマホは圏外。実家にもおらず連絡手段はすべて遮断された。

 しばらくして俺のもとに訪れたのは黒ずくめの男たちだった。


「三浦が飛んだ。連帯保証人のお前が払え。逃げようとしたら――――わかるよな?」

「は……はい」


 肩をつかまれ、無理やりサインさせられた念書を見せつけられた。

 額面は五百万円。しかも、利子は月に5%だ。

 法の範囲内でギリギリ絞り取るその契約に俺は言葉を失った。



 ――――それでも俺は逃げなかった。



 昼は営業、夜は倉庫作業。

 週七日休まず働き、牛丼1杯で空腹をなだめる日々。

 毎月、支払いのために給料はすぐ消える。

 それでも足りず、家賃を滞納し、電気を止められ、水で顔を洗いながら働き続けた。



 ――――だが、借金は減らなかった。利息のせいで、元本が減るどころか増えていく。



「働いても、働いても……意味がないじゃないか!」


 やがて、取り立てはエスカレートした。

 金を持っていないことがわかると相手は手を出してきた。

 殴られ、蹴られ、骨が折れ、歯が欠けた。


「テメェ。死ぬまで働けよゴラ!」



 ――――それが前世で聞いた最後の言葉だった。



「――――うっ」


 次の瞬間。頭に強烈な衝撃を受け、俺は意識を失った。

 たぶん、あれで脳の血管が切れてしまったのだろう。


 真っ暗な中、意識が浮かび上がる。


「よく頑張りましたね」


 女性の声がした。目を開けるとそこは真っ白な空間だった。

 あたりをキョロキョロと見渡していると目の前に女神と名乗る存在が現れる。


「おおっ……」


 背筋をすっと伸ばして立ち姿だけでも美人だとわかる容姿をしていた。


 彼女は俺の人生を見ていたらしく同情を込めてこう言った。


「あなたは理不尽な世界でよく耐え抜きました。次はスキルのある世界で生きてください。スキルがあればもう少し幸せな人生を送れるはずです……」

「い……いや、スキルがあってもどうせ――――」


 そもそもスキルってなんだよという話だ。

 なんの説明もされないまま女神は俺の頭に手を伸ばす。

 すると次の瞬間にはまばゆい光が俺の身体を包んだ。


「これは女神と人間との契約です――――あなたにはスキルを付与しました」



 ――――そうして与えられたスキルが『徳政令(とくせいれい)』だった。



 借金取りに殺された俺をおもんばかっての行動なのだろう。


「このスキルは債務を帳消しにできます」

「次の人生で借金をしたら――――ゼロになるんですよね」

「はい。今度こそ借金のない幸せな人生を……」


 女神は優しく笑い俺を光の中へ送り出した。



 ________________________________________



 気がつくと俺は柔らかなベッドの上にいた。

 どうやら赤ん坊として転生したらしい。

 周囲には笑顔の父と母がいた。


 ここは異世界。

 中世ヨーロッパ風の国で俺はエドガー・シュタインベルグという商人の家に生まれたらしい。



 ――――まさか、こんな恵まれた家に生まれるとは。



 シュタインベルグ家は代々商人として栄えており、財産にも人脈にも恵まれていた。


「お兄ちゃん遊ぼー」

「うん。今日はなにして遊ぶ?」


 2年後には親戚から引き取ったアリシアを義妹として引き取った。

 彼女は俺にかなりべったりで朝から晩まで飽くことなく遊んでいる。


「今日も騎士さまごっこしたい」


 中世だから騎士は当然いる。

 戦場で華やかな戦功を立てる騎士たちは俺たち平民にとって憧れの存在であった。


「じゃあ、あの小高い丘でやろうか――――あれは」

「よう、エドガー坊ちゃん。儲かってるかい」


 俺たちが遊んでいるときに馬車の一団がやってきた。

 その馬車の中で最も豪華な装飾を施した車があった。


「やっぱりシュリッツさんだ……」


 ここらで有名な金貸し親子がその豪華な馬車に乗っていたのだ。


「いい加減にアリシアちゃんとの結婚を認めろよカス」

「ううっ……お兄ちゃん」


 怯えるアリシアは俺の背中の後ろに隠れてしまう。


「あの子もあの子のパパも嫌い」


 このシュリッツ商会のバカ息子と呼ばれている俺と同い年の子どもはアリシアを一目見ただけで気に入ったらしくこうしてちょっかいをかけてくるのだ。

 まー、子どもだし。これくらいは大目に見るべきだろう。


「そんなひどいことを言う子にアリシアを渡さないよ」

「くっ……だ、黙れ!」


 顔が真っ赤になったシュリッツの息子は俺の悪口を連呼する。


「エドガー坊ちゃん。息子もこう言っているんだから。認めてやってくれ」

「俺は認めませんよ――――それに婚約は当主同士が決めるもんです。俺じゃなくてまず父に話を通すのが筋ってもんじゃないですか」

「ははっ。子どもながらしっかりとした意見だ。まさに正論だ――――そうだな。そうしよう」


 シュリッツは大笑いしながら馬車に戻っていく。


「今日のところは勘弁してやろう」

「ばーか!」


 バカ息子は舌を出して俺たちを馬鹿にする。


「ほんと無理だよ……お兄ちゃん」

「大丈夫だ。さすがに父さんもアリシアをあんなヤツに渡すなんて判断はしないと思うよ」

「――――わたしお兄ちゃんと結婚したい」


 大きくなったらお父さんと結婚する、みたいなことを子どもは言いがちだ。

 それと似たようなことを言っているのだろう。

 俺はアリシアに笑いかけるとそっと頭をなでてやった。





 幸せな日々を送っていた。

 けど幸せというのが突然終わりを迎えるものでそれは異世界に転生した身であっても同じであった。



 ――――幸せは長くは続かなかったのだ。



 原因は父の無能。


 放漫経営と悪徳商人との取引で家は一気に傾き、俺が15歳になった年にはとうとう破産状態に陥った。借金はばく大で月利10%を超えるものもある。


「お母さん、お母さん。行っちゃやだ!」

「父さん、なんてことを……」



 母は奴隷商に売られ、父は夜逃げした。



「もう……俺たちだけなんだな」


 俺と義妹のアリシアだけが家に残された。


 債権者たちは次々とやってきた。




 そして、最も性格の悪い借金取り――――あの『シュリッツ商会』の親子が姿を現した。



「よう、エドガー坊ちゃん。父親の尻拭いは大変だねぇ」

「ようやくアリシアちゃんを俺のものにするときがやってきた。おい、アリシアちゃんを引き渡せ。だったら借金の返済をもう少し待ってやるよ」

「い、いやああああ!」


 絶体絶命のピンチであった。

 支払い能力はすでに喪失しており、あとは家を競売にかけるくらいしか道が残されていない。それでもこのシュリッツ商会に返済できる額は確保できない状態であった。


「どうにかならないのか……」


 こんなことでアリシアを嫁に出すわけにはいかない。

 そう思っているとシュリッツの口からとんでもない言葉が飛び出た。


「アリシアは美人に育った。身体も凹凸がって魅力的だ。おそらく競売にかけたら高く売れるだろう。それも借金を返済できるくらいにはな――――どうだ。アリシアを奴隷として売らないか?」

「は?」


 耳を疑ったよ。

 ここまでひどいこと言うなんて。

 いくら中世だからってそんな鬼畜なことをなんのためらいもなく提案できるものなのか。


「ちょっ、親父。あ、アリシアちゃんは俺がもらう――――」

「お前は黙れ。これは商売だ。貸し付けた金をしっかりと返してもらう。そうしないとうちもこいつらみたいな末路を辿ることになる」

「そ、そんな親父――――」


 目の前が真っ赤になった。


「お兄ちゃん。奴隷なんて絶対やだ……」


 アリシアが怯えて俺の後ろに隠れる。


 ここで一発顔面にパンチを入れたいところだがそれでなにか解決するわけでもない。


 ――――なにか方法はないのか。


 そう思考を巡らせていると転生したときのことを思い出す。

 確か……スキル『徳政令』ってのがあったよな。


 この異世界はスキルが一般的に存在する社会だ。

 だが、俺は自分のスキルを使うこともなく幸せな毎日を送っていたため完全にスキルのことを忘れていた。


「そうか……このために女神さまは俺にスキルを授けたのか」

「は? なにを言って――――」


 その瞬間、胸の奥で何かが弾けた。


「スキル――『徳政令』を発動する」


 スキル名を口にすると黄金色の光が弾けた。

 目の前に宙に浮かぶ契約書が現れ1つ1つ燃え上がる。


「――――な、なんだこれは⁉ うちが持ってる債権が……消えていく⁉ ふざけるな。こんなことがあってたまるか!」


 俺は静かに彼らに告げた。


「もう債務はないぞ」

「クソっ……いったん帰るぞ」

「え、お、親父⁉ いったいなにが起こ――――」

「帰るぞ! 契約書が消えた。契約関係を証明するものがない以上今は引き返すしかない」

「な……お、覚えてろよ!」


 シュリッツ親子は耳を真っ赤にして帰っていった。


 これで終わればいいのだが……。



 ――――しかし、当然これで終わりではなかった。



 次の日の夜、家に忍び込んできたのは黒装束の殺し屋だった。

 シュリッツ家が雇った裏社会の人間らしい。

 だが、契約書に『殺害』と書かれていた時点で俺には対処法があった。


「日本だと殺しの契約はできないことになっているけど異世界ではやってもいいことになっているんだな。スキル――『徳政令』を発動する」


 殺害契約は無効となった。


「これで俺を殺してもお前たちにはびた一文も入らないぞ」


 とはいえ顔を見てしまっている以上は消される可能性もあるだろう。


「だが死んでもらう」

「だろうな……」


 実はヤツらが襲撃してくるまでに自身のスキルを確かめていた。

 スキルに関してどこまでが適用範囲なのかを確認したのだ。


「スキル――『火炎』を発動する」


 契約と言われるものにはこの徳政令スキルは通用する。

 書面であっても口約束であっても例外はない。


「スキル――『徳政令』を発動する」


 そしてなんと『徳政令』は相手のスキルにも効果が及ぶのだ。


「な……攻撃ができない」

「おい! スキルがなかったら戦えねぇぞ!」


 スキルとは人間が女神から力を借り受けるという契約関係に基づいて得られるもの。

 契約なのだから当然、俺のスキルの適用範囲内。


 殺し屋の力は一気に消滅した。


「あとは剣でどうにかするしかないな!」

「わたしも加勢する!」

「や……やめろ!」


 逆にこちらが優位に立つと腰にさげていた剣を抜き直接戦闘を行う。

 日々、騎士ごっこと称して剣の打ち合いをやっていた俺たちは殺し屋に勝つことができた。


 捕らえた殺し屋から情報を引き出す。

 その足で俺はシュリッツ商会のすべての取引記録を手に入れた。



 ――――そして、徳政令の嵐が吹き荒れる。



 商会が持っていた数千枚の契約書が次々と灰と化す。


 彼らの顧客は皆、徳政令の恩恵を受け、借金から解放された。


「う……うわああああ⁉ 我が家の資産が……!」

「クソがああああ!」


 金貸し一家シュリッツはたちまち破産し、最後は自らが奴隷として売られていった。


 アリシアを守ることができた俺はようやく一息ついた。



 ________________________________________



「ありがとう、お兄ちゃん……」


 泣きながら抱きついてくる妹の温もりを感じながら俺は心の底から思った。



 ――――もう、理不尽には屈しない。



 ――――もう、誰かを犠牲にしない。



 借金取りに殴られ死んだ過去の自分はもういない。


 これからはこのスキルを使い、困っている人たちを助けていく。

 なによりアリシアと平穏な日々を守り抜く。


 この世界では借金で人生を狂わされる人が多すぎる。

 だが、俺にはその鎖を断ち切る力がある。


 俺は歩き出す。


『徳政令』という最強の無双スキルを手にして。

お読みいただきありがとうございました!


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