ファンタジー知識ゼロの俺が異世界転移したら、何故かチート能力を持った部下達が青年になって追っかけ転移してきた。
軽い気持ちで読んでもらえると幸いです。
異世界
それは、他の世界から見た“理想郷”だろう。
もしくは、非現実的な娯楽の種なのかもしれない。
でも俺は、異世界への憧れはなかった。
変に現実的と言うか………、この下水も交通も医療も整えられている日本から出て、急に勇者や冒険者になんかなれる気がしない。スローライフもできる気はしなかった。
俺と同じ考えの人だって多いから、魔法の力やスーパーチート能力、女神の加護なんかが序盤に与えられているものも多いのだろう。
そんなもの無くても生きていける、この日本の現代社会に不満が無いからなのか
あるいは、俺自身の生まれ持った感性なのか
俺は………ファンタジーの世界に興味を持てなかった。
めちゃくちゃ流行ってたのに、逆張りとかではなく本当に興味を持てなくて、何一つ目を通さず、触れ合わず生きてきてしまった。
その結果が、この有様である。
「えぇ?アンタ、エルフの存在も知らねぇってのか?」
「………すいません。」
いや、だってただの色白の背が高めの人じゃん。
人の耳とかそんな気にして見ないじゃん。言われたら尖ってんなとは思うけど…。
俺がやや下を見ながら答えると、質問を投げかけた恰幅のいい男は怪訝な顔をしてくる。
「じゃぁ、なんだい?アンタはまさか、ここがドワーフの村だって知らずに入ったとでも言うのか?」
まず、教えて欲しい。
“ドワーフ”とはなんぞや
「無知で申し訳ございません。」
俺が謝ると、ドワーフの村というらしいここに住む男が、怪しむような目を向けて来た。
「俺はな、異世界からの召喚者を何人か見てきた。この村の文化には詳しくなかったが、ドワーフを知らなかった奴はいねぇ。それこそ、俺達の知らない伝説のドラゴンや、女神にも詳しい奴らばかりだった。」
そう責めるように言われても、本当に知らないんだからしょうがない。
ワラワラと俺を取り囲むように現れ始めるドワーフ村の方々も、なんだか俺をスパイか、どうしようもない馬鹿を見るような目で見ているのがわかった。
でも、その人達をよく観察したって、それこそエルフのように耳が尖ってる的な特徴を見つけられないから、ドワーフがなにかまったくピンとこない。
あげるとすれば、平均的に皆低身長で恰幅がいいことだが、別にそれは普通の人類の部族でもあり得る話だ。土地柄で説明がついてしまう。親の身長が低ければ、低い子が生まれるのは自然の摂理だ。
「ドワーフは、マヌケで騙しやすいと思ってんだろうけどな?流石に胡散臭いどころの話じゃねぇことぐらいわかる頭はあんだよ。」
怒りを声にも瞳にも灯している彼に、俺が信じてもらうことなどないのだろうと悟る。
それこそ、今ここでリンチにあってもおかしくない状況に心底嫌気が差したが、これが初めてではない。半ば諦めに近いものがあった。
「その様な意図はありませんでしたが、気を悪くさせたなら申し訳ありません。」
この謝罪だって、白々しいと取られればそれまでのものだ。
でも、しなかったらしなかったで激昂されるのは理解しているので、口からは自然と出てくる。連動して深めにお辞儀をした。
「無知な私ですが、ここへ入ることが歓迎されないことは十分理解いたしました。すぐに立ち去ることを誓います。」
誓うと言っているが、俺は自身で誰に誓っているのかもわからない。
俺の腕の2倍はありそうな彼の腕に掴まれれば、俺は逃げることなどできない事は分かっている。
神頼みなど意味のないことは重々承知だ。
だから、ほとんどこのまま去ることを許されるかは一か八かだったし、心のなかでそれすら諦めていた。諦めが悪いほど、痛い思いをするのが嫌だし怖いと思う自分がいただけだ。
はんっ、と鼻で笑った男が腕を組みながら仁王立ちになる。
「雇い主にも、そうやって頭下げてこいよ。いくらで雇われたか知らねぇが、プライドも何もねぇその生き方が、男として恥ずかしくねぇのか一回自分に問いただしてきやがれ。」
どうやら、リンチは免れたようだ。俺は理解してすぐもう一度頭を下げて、来た道を帰ろうとした。
だが、来た道など本当は無いことに気がつく。
この村へ入ったのは偶然だ。
ここにくる前、エルフの村というところで同じように散々怪しまれ、魔法を使われてなぜかこの村に落とされたのだ。
そりゃ、この村の人達はなんだコイツと思うのが当然だし、この村の人達を恨むことなんてない。むしろ、話を聞いてくれて上でリンチしないで外へ出してくれる事に優しさすら感じていた。
よく周りを見渡すと、アレが門かという作りの木造のものを発見できたので、それを目指して足を進め始める。
結局、ドワーフがなんなのか分からなかったけれど、エルフか他の種族と敵対関係であることは少し理解できた気がした。
そして、多分今日も野宿だ。
毎日風呂に入れたあの頃が懐かしい。いや、本当はとてつもなく恋しいが自覚したくなかった。
自覚したら、崩れ落ちてしまうと分かっていた。
さぁ、門をくぐるぞと言うところで、後ろから「おい。」と聞いたことのある声で呼び止められてビクつく。
振り返ると、その声は先ほどの恰幅の良い男のものだった。
男に何か白いものを胸の方めがけて投げ付けられ、思わずドッチボールのように受け止める。
それは人を傷つけるためとは思えない、温もりすら感じる白い包みだった。
「野垂れ死にされたら、こっちが気分良くねぇんだよ。」
その彼の言葉と、胸に感じる温かさから、この包みがこの人の施しであることが理解できた。
久しぶりに人から与えられた温かさを感じ、思わず震えと涙腺の緩みが襲ってくる。でも、なんとか深く呼吸をして押しとどめた。
俺は、この人達に返せるものが何も無い。
散々、自身のものを奪われた後なのだ。ボールペン一つ、メモ帳一冊あれば、この人達へのそれなりの対価となるのに、それすらままならない。
俺は、上着を脱いで地面に敷いた。
怪訝そうな顔をする男性に渡せればよかったが、近づくことすらできなかった。
でも、この温かいものを地面に直接置くことはできなかったのだ。絶対したくなかった。
「本当に、ありがとうございます。お気持ち、心よりうれしく思いました。」
矛盾しているだろう。俺はその包みを服の上に置く。
「ですが、受け取れません。私はあなた達にこの包み分の対価を払うものがありません。」
声は震えていたが、許して欲しい。
弱虫の意気地なしで、プライドもないやつだけど
「俺は、無知で愚か者ですが、恩知らずにはなりたくないんです。」
俺は、さっきより深く頭を下げてすぐ門を出た。
空腹が、何を馬鹿なことをしているんだと叱ってくる。
体の冷えが、あれはお前に食わせてお前の命を奪うための罠だった可能性があると囁いてくる。
そのどちらにも答えずに、俺はただ歩いて歩いて、森のような場所の河原に来ていた。
いかにもファンタジー世界の川は、何をどうなっているのか、人が整えていないのに川幅から何からちょうどよく、美しく澄んでいる。
「はぁ……。」
ズルズルと木に背中を擦り付けるように座り込み、俺は意味もなく川が流れていく景色を見つめた。
俺のように、異世界から人がくることがあるらしいこの世界は、そういう異世界の住人を《召喚者》と呼んでいること。
その召喚者は、知識や身体能力が高い事が多く、何より順応能力が高いことが多いらしい。
そしてその召喚者の使命は、召喚されたその時に各々知っているということをいろんな村や国で聞くことができた。
さっきの村でも、召喚者が何人かいた事や、知識が豊富だったことを告げられたし、多分本当に俺が出会えてないだけで召喚者は居るのだろう。
でも俺は、自分の使命なんて知る由もない。
それこそ、この世界に来る前お告げがあったとかですら無かった。
俺は普通に出勤前だったし、普通に生きてたし、普通にいつも通りの道を歩いてた。
何度思い起こしても、普通の通勤だったはずだ。
雪がサラサラと風にのって吹雪くのも、地元ではそこまで珍しいことでもなかった。
その雪が視界を覆うことも、今まで何回か経験していたことだ。
なのに、あの日は違った。
視界を雪が覆ったなと思ったが、急にその雪が止み、驚いて目を開けると見知らぬ世界に来ていたのだ。
「………何度思い出しても、意味わかんねぇ。」
乾いた笑いが漏れる。
空を見上げると、そんなことあるか?というほど星が美しい。
天の川のようなものもあれば、色を変え光り輝くものや、小さな星々が星座のようにかたまりチカチカと瞬くものまで、まるで星空を作り出すために宝石を散りばめ作ったような光景が広がっている
。
《召喚》なら、誰かが意図的に起こした事象のはずだ。
なのに、俺は何のために、何の権限であの世界から召喚されたのかすら分からない。
召喚された国が滅亡間近とかなかった。
世界を巨大な力が支配しようとしているとかなかった。
あれば、それを解決できる。解決するために努力できたのに。
俺が解決できるものはない。
ゲームですら、目的やストーリーが無ければ続かない俺には、召喚者など向いていない。それこそ、ゲームだってほとんどやったことがない俺は、にゃんこを大戦争させるやつを日本制覇して終わったのが一番長いくらいだ。
漫画も小説も、アニメも観る方じゃない。
嫌悪感があるわけでなく、本当に興味関心を惹かれなかった。
だから、本当にエルフもドワーフも知らない。
龍とかも、辰年があるからそんな伝説の生き物がいるって知識がある程度で、ぶっちゃけドラゴンとの違いをわかってないし、妖怪も目玉のオヤジとその周辺しかわかってない。
あっちの世界でも全く不思議な体験や心霊現象に遭遇したことがなく、魔法が欲しいと思ったことはなかった。たまに失態が失態すぎて、時を戻してくれと思った程度だ。
AVでも、時間停止ものとか見ない派だし。
なぁ、そんな俺を召喚してなんになる?
もっと他にいただろ?
それとも間違えて連れてきちまったの?
ならせめて…
今更怒ったりする元気ないから、帰えしてくれ
あの、平凡で平穏な俺の日本の生活に。
川の水は普通にエキノコックス感染の危険があるから、生で飲むことが禁止されてるあの国に
町が明るくなって、星が見えにくくなったあの国に
神も仏もすごい数の話があるのに、誰一人としてその姿を目に見たことがないあの国に返してくれ。
何度目か分からない願いは、流れ星が流れないせいなのか叶うことはない。
でも今日は、いつもと違った。
「え?」
空が、急に明るくなったのだ。
空が、急に異様な光を放ち始めた。
(召喚者かもしれないっ。)
なぜか、そんな気がした。
まぁ、それ以外の知識がほとんどなかったとも言える。
俺は、正直その時自分がどんな感情なのか分からない。
でも、目を離すことはできなかった。
「あの光っ、召喚者じゃねぇか!?」
なぜか、俺以外の奴の声がする。
その声の方を見ると、いかにもゴロツキですといった世紀末スタイルの男達数名が、俺の知らないうちに俺の後ろに来ていた。
あれ?これもしかして、俺襲われる直前だった?
そんなことを思ったのも束の間、男達と俺の目が合ってしまう。
なぜかため息をついた男の1人が、めんどくさそうに話し始めた。
「この雑魚っぽいやつをさっさと始末して、金目の物だけとったらすぐ召喚者の方に行くぞ。召喚者はうまく騙せば金目の物をふんだくれるだろうし、隙をついて売り飛ばせば、俺達は一生遊んで暮らせるだろうからな!」
馬鹿のようなことを馬鹿みたいに言いながら、馬鹿みたいに笑い始めるそいつらに、俺の眉間のシワが自然と寄った。
「そんなことすんじゃねぇ。」
声に出した気はなかった。
でも、しっかりと声に出ていたし、俺の本心だった。
「お前らに、そんなことしていい権限も権利もねぇんだよ。」
召喚者が、俺の世界のやつだと決まったわけじゃない。
俺と違って、召喚されたらチート能力とかあって、コイツラは最初に倒されるチュートリアル要員かもしれない。
でも、そんなこと考える暇もなかった。
考えたって、きっと同じだった。
勝てる気は全然しないのに、なぜかこいつらがあの召喚者に会わないよう少しでも時間を稼ぐことしか考えられなかった。
俺は多分死ぬなと思った。
でも、なぜか怖くなかった。
あの光の召喚者が、こいつらやこの世界の好きにされる方がずっとずっと怖かった。これが恐怖だと感じるものが、腹の奥底の冷えのように湧き上がる。
丸腰どころではない俺は、苛つきながら剣とか意味わかんないトゲトゲボールを振り回し始める世紀末達と対峙しながら、どれだけの時間こいつらの攻撃を避けれるか、賭けのようなことだけ考えていた。
「その威勢、いつまで持つかなぁ?」
ニヤニヤと俺を見ながら舌なめずりする男に、恐怖と違う鳥肌が立つ。
「すぐ殺して楽にしてやろうと思ってたけど、その勇気に免じてやめてやるよ。」
「その両腕切り落として、死ぬまで使ってやる。安心しろ?歯も全部抜いてやっから。」
何のためになんて、聞きたくもなかった。
なのに、なぜか頭上で声がする。
「へぇ?何のために抜くわけ?」
全員がその声の方を向くと、なんと羽もないのに人が浮いている。
浮いている青年は二人いて、声を出し方はニヤニヤと笑っているのに、目だけはギラギラとしていてまるで燃えているようだ。
日本人ではありえない自然な赤い髪は燃えているかのように美しい。インナーカラー的な感じで首元と毛先は紫で、彼の周りもうっすら紫に光っている気がした。目も、カラコン以外で見ることはない濃い紫色だ。
もう一人の青年は、絶対零度のような凍てつく視線を向けてくる。視線だけでなく、彼の周りにキラキラと光る星屑のようなものが一度見たことのあるダイアモンドダストに見えて、彼の周りの気温も絶対零度なのではと思ってしまう。
そんな彼の髪色は黒で、よく見かける色のはずなのに見たこともないほど艶を纏っている。カラスの濡れ羽色とはアレなのだろうと馬鹿みたいな感想しかでないが、彼もインナーカラー的な場所は黄金に光っていてカラスというより、1人で夜空を体現している様に思えた。そんな彼の瞳は、髪より濃い黄金色だ。
「誰だ!!召喚者か!!」
彼らに叫ぶ世紀末達は威勢はいいものの、俺に向うときと比べものにならないほど動揺と怯えを隠せていなかった。
そんな奴らを無視して、青年達は俺を見る。
「ごめん、割と時間かかった。」
謝っている絶対零度の青年の声は、なぜか震えている気がしたし
その声は、何故か聞いたことがあると思えるものだった。
「君達は、誰?」
光り輝く明るい赤髪の青年が、ニヤッと笑って大きな声ではっきりと伝えてくれる。
「あの時助けてもらったたぬきでぇーす。」
それを聞いた俺は人生全ての記憶を掘り起こし、思わず声を上げた。
「本当に誰ぇ!!!!!!??????」
俺は普通に生きてきたので、鶴の恩返しどころか、タヌキに恩返しされるいわれはマジで無かった。
でも、そんな俺を見てケタケタ笑っている赤髪の彼には、どうしても何か親近感のようなものを感じてしまう。
俺がこの2人の正体を知る前に、世紀末達はなす術なく片付けられたのは言うまでもない。
それどころか、この2人の登場によって俺のこの世界での日常は大きく変わっていく。
このあと、召喚者達を管理している存在なる女神が現れたり、神獣や妖精が現れたり、この2人を自分に預けて強くさせろと言ってくる賢者が現れたり、内戦や種族間の戦争を止めるよう依頼されたり、この2人が女の子たちにモテにモテまくって《嫁武闘会》なるものがある国で起こったり、そこに国の姫も参戦したりと大波乱の忙しい日々が訪れたけど、ほぼ世界最強の力を持つ彼等は無双状態で無敵モードを貫き、無傷で解決していった。
「でも……、帰る方法はいまだわかんないんだよねぇ。」
「おっさん、そんなこと考えてる暇あったら晩飯のこと考えたら?今日何?肉?肉?」
そう言いながら、ひょっこりと本当にタヌキのように俺の脇に頭を突っ込んでくる赤髪の彼は、今日も元気だし明るい。
「納豆巻きも食べたい。」
ノシっと頭の上に自身の小さい顔と長い腕を乗せてくる黒髪の青年は、今日もクールに見せかけて年相応の食欲と人懐っこさだ。………本当は俺と同じ年のはずだが。
俺は、そんな2人のリクエストをいつも通り用意する。
さぁ、皆でいただきますしようとしたその時、雪崩のように人が押し寄せてきた。
「街にドラゴンが出るのです!!どうか退治してください!!」
「どうか私達の国に滞在してください。100年に一度の美女と称される姫達も、貴方様達をお待ちです。」
「我が国の魔女は強大な力を持っているのです!!貴方様達で浄化してください!!」
「一緒に飲みに行きましょう!!もっと他者との交流や人脈を深めるべきです!!」
「他の召喚者達と会いませんか!!見解や世界観が広がりますよ!!」
何もできない俺だか、言えることがある。
「今子供たちが食べてる最中でしょうがぁ!!!!!!」
「おっさん、そのネタ若い奴らはわかんねぇよ?」
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