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理解のある彼くん of タイムリープ   作者:


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精神科病院

翌日、新谷はタイムリープを果たしてからずっと気になっていた場所へ行くことにした。


 実家最寄りの駅から電車に四十分ほど揺られ、県の中心部を通り過ぎるとあっという間にビル群は姿を消した。代わりに古びた家々と畑が点在する景色が電車の窓を流れていく。


やがて新谷は目的の駅を降りる。ひび割れて雑草が生えているプラットホーム、白地に黒ペンキで駅名が描かれた錆びた看板がもう懐かしく思えた。


 閑静な街並みを十五分ほど歩き、ひっそりとたたずんでいるかのようにそれはあった。


「十三年後と、変わらないんだな」


 大野城病院。前の時間軸で新谷が勤めることになった精神科の病院である。


 白を基調とした外観に、広大な敷地には患者のリハビリ用の畑や運動場が広がっている。


土まみれになって患者と共に大根やイモを収穫し、汗だくになるまで走り回った記憶はまだ新しい。


 入院患者からデイケアで通所している外来の患者まで新谷の担当患者は幅広く、その一人が梅小路だった。初めて出会った時は幽鬼のようだった彼女が話せるようになるまで三か月、人並みの運動ができるようになるまで六か月。社会復帰一歩手前まで行くのに一年かかった。


 だが突如タイムリープしたことで、新谷は大学生の時点で彼女にかかわることになった。前の時間軸よりは精神状態は安定しているとは思うが、油断はできない。


タイムリープしてから数ヶ月。ここまで前の時間軸といくつか違った出来事はある。


a子のいじめの件ではかなり歴史を変えてしまったはずだ。c子たちに本来とは別の恋人ができてしまった。


だが概ね問題なく時は流れている。時間軸に矛盾が生じると宇宙が崩壊するというタイムパラドックスが起きることもない。


「世界線が複数ある、という奴かな……」


タイムリープのSF小説でもアニメのシュ○ゲでもある設定だ。


たとえばヒロインが生きている世界と死んでいる世界。二つの世界が同時に存在しているという考え。


これなら梅小路を助けた世界と助けなかった世界が同時に存在できるから矛盾は生じない。もう自分は新たな世界線に入り込んでいて、新たな人生を歩み始めたのだろうか?


大学生活を楽しく過ごし就職浪人もしない、そんな世界があるのかもしれない。


「でもうまい話なんてなかなかないからな……」


時間を巻き戻る人間がいると時間軸に矛盾が生じる。それを調整するため宇宙に生じる事態はSFの設定では大体三つだ。タイムパラドックスと言って宇宙が崩壊するか、その人間がどの時間からもいなくなるか、もといた時間へと連れ戻されるか。


考えすぎかもしれないが、天災とインシデントは忘れた頃にやってくるものだ。


それを避けるためには。


「誰がタイムリープさせたのか、つきとめて話を聞くしかない」


 決意を新たにしても、気にかかることはある。


 前の時間軸で担当していた患者さんは自分が消えた後、どうなったのだろう。だが梅小路の笑顔を思い返すと不思議と後悔はなかった。


 それに自分より優秀なスタッフはいる。彼らがかわりにリハビリを行って、社会復帰に導いてくれるだろう。


 大野城病院を辞した後、新谷は旅行用の大きなザックを背に再び電車に揺られる。


 新幹線を降り、普通列車に乗り換えて碁盤状に道が張り巡らされた町を北へと進む。車窓から見えるビル群は、電車が進むたびに昔の都の面影を残す風景へと変わっていった。


 アパートと座命館大学最寄りの駅で電車を降り、そのまま十分ほど歩いていく。


 観光客とすれ違いながら鳥居そばの石灯籠を眺めつつ、やがて歴史と風格を感じさせる観音開きの巨大な門をくぐる。


落ち葉一つなく掃き清められた参道を通って、境内の鈴を鳴らした。


古来より魔よけの効果があると言われる鈴。千年前も、知らない誰かが同じようにこの鈴を鳴らしたのだろうか。


 静謐な音色が鎮守の林に吸い込まれた後、新谷は二拝して柏手を打つ。


 新谷が来たのは座命館大学すぐ近くの神社、南野天満宮。学問の神を祀っているこの神社には大学受験の時に一度来たし、就職活動中にもよく通ったものだ。


 まあ、就職活動に効果はなかったが。


「何も起こらないな……」


 新谷は目をつむったまま小声でつぶやくが、頭の中に声が響くこともなければ突然現れた美少女がナビゲートすることもなかった。 


転移した場所でも、転移先の大学でも実家でさえも、タイムリープの原因にかかわるなにかは起こらなかった。


後はこういった神仏にかかわりのある場所に何かあるのが定番だが、それもない。 


となると、こういうのは身近な人間が引き起こしたと考えるのが妥当だ。


前の時間軸でいなかった梅小路が基礎ゼミにいた。そう考えると一番可能性があるのは彼女だが……


進んで接点を持とうとしてこないのが引っかかる。彼女が話しかけてくるときはだいたい丹波口とセットだ。


出会った時に涙を流したが、このころから発症のきっかけはあったと考えれば突発的に感情失禁を起こしたとも考えられる。精神科では突如怒り出したり泣き出したりする患者はいくらでもいた。


後は、丹波口か。以前の時間軸よりなれなれしいし連絡先を交換してきたのも気にかかる。


今の大学生活では問題ないようだが、この先の未来で何らかの破滅があり、それを回避するために彼女が起こしたという可能性もある。 


「ひょっとして翔太か?」


タイムリープして一番最初に出会った相手だし、可能性はある。


実家で何冊か読み返したタイムリープの本に、未来人が作り出した薬品で過去に戻るというものがあった。


翔太は理系の学部で化学に詳しい。在学中は何か凄い発見をしたかといううわさは聞かなかったが、卒業後はずっと音信不通だったしその期間に何かを発明した可能性はある。


 後は……


『お兄ちゃん…… 戻ってきてくれて、ありがとう』


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