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理解のある彼くん of タイムリープ   作者:


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16/19

実はフリーだったギャル。

『ごめん、今友達と食べてるから』


丹波口は絵文字を一切使わないシンプルな返信を確認して、スマホの画面を消す。


「しゃーないな」


スマホをしまいながら彼女は陽気に笑った。手元の機械の感触が、いやに冷たく感じる。


「どうしたっしょ?」


 だが隣でメイクを治していた友人が、気遣いの言葉をかけてくる。


 彼女は高校時代からの友人で、同じチアリーディング部だった。


 化粧室には鏡を見ている彼女たち以外誰もいない。


「別に、なんにもあらへんよ?」


「嘘っしょ。スマホ見たとたん、暗い顔したっしょ。あ、ひょっとして~」


 友人がいたずらっぽく目を細めた。


「ひょっとして、彼氏とうまくいってないっしょ」


「そ、そんなことあらへん…… カレシなんておらんし」


「隠さなくてもいいっしょ。この前、先輩に告白されてたの聞いたっしょ」


「知っとるんやね……」


「そりゃ、れんのことならどんなことでも知りたいっしょ。高校からの仲っしょ」


 友人の声のトーンが変わり、いたわるような響きを帯びる。


「困ったことがあったら、なんでも相談してっしょ。れん、けっこう一人で抱え込みがちなところがあるっしょ」


 再び友人の声のトーンが変わった。


「ま、いざとなったらこのカラダ使えばいいっしょ」


 丹波口の後ろに回りこみ、服の上から彼女の胸をわしづかみにした。周囲に人の目がないのをいいことに、手つきがいつもより大胆だ。


「ちょ、ちょっと、やめ、」


「うちのカレシも、部活帰りに腕に抱き着いておっぱい押し付けてから急にうちに対する態度が変わったっしょ。男なんてそんなもんっしょ」


 口を動かしながらも友人は手をとめない。今日の丹波口はインナー代わりのキャミソールの上からシャツ一枚。しかもウエストの部分がしまったデザインなので、体のラインが出ている。


「ま、マジ、ああ、」


「おお~。着やせするタイプなのは変わってないっしょ」


 涙目になって上気した丹波口にひじ鉄をくらうまで、友人は胸を揉み続けた。


「げほ…… マジでやるなんてさすがにひどいっしょ」


「ふん、少しは反省せえや」


 衣服の乱れを治しながら、丹波口は吐き捨てる。執拗にまさぐられたのでお腹の奥がきゅんきゅんとした。


 だがそれも、トイレを出るまでのことだった。

「ん? どうしたっしょ? なんか顔色、悪いっしょ?」


 トイレを出た丹波口の目には、ガラスの壁越しにキャンパス内を新谷と連れ立って歩く梅小路の姿がうつっていた。


 手をつないでいるわけでもないし、腕を組んでいるわけでもない。新谷とは並んで歩いているだけだ。


 だが、友人同士よりもわずかに近い距離感、新谷を見上げるまなざしに込められた熱、そして何より二人の間に流れる空気。


 思い出したように梅小路が髪をかき上げる時の、新谷の目つき。


 新谷が鞄を持ち上げた時に見えた意外とたくましい腕に注がれる、梅小路の視線。


「ケンジ鈍感やし、そんなんあらへんやろって思っとったんに…… 噂、マジやったん……」


 友人の言葉も、もう丹波口の耳には入っていない。


はじめて新谷と出会った時、見た目は地味だがなぜか丹波口の目にとまった。今まで見たことのない雰囲気の男子だと、そう思って目が離せなくなって。


気が付いたら生まれて初めて自分から連絡先を交換しよう、と言い出していた。


「なんであんなん気持ちになったんやろか」


チアリーディング部だったこともあり、丹波口は高校時代から大勢の運動部の男子とも交流があった。


体格を見せつける男子、大会の実績を自慢する男子、とにかく声が大きくてイキってくる男子。みなある程度は魅力的に見えたし、この男子ええわ、と思うこともあった。


だが新谷はそのどれとも違っていた。地味な見た目と人並みの体格。なのにその言動は自信にあふれ、落ち着きがある。


県大会でいいところまで行った男子になぜか似ていた。緊張感ある場面を数多く経験してきた感じ。どんな経験をしてきたらあんなオーラが出せるのか?


面白いわ。ごっつ面白いわ。


とにかく彼と、仲良くなりたいわ。

 

そう感じたのに、新谷はメッセの一つも送ってこない。今まで連絡先を交換した男子は、


「いまヒマ?」


「一緒遊びにいかへん?」


「今度おごる」


「試合、見に来てえな」


 こんな風にメッセを送ってくる。だが丹波口はモテているという優越感を満たされるわけでもない。


 頑張っている人を見るのは好きだし、応援するのも好きだ。自分のチアに相手が笑顔を向けてくれるのも楽しかった。


でも、その後急に距離をつめてこられるのは怖かった。自分のことをろくに知りもしない異性が近づこうとすることがただ恐ろしかった。


チアリーディングの衣装は結構際どいし、足を高く上げる動きも多い。そのせいかいやらしい目を向けられることもあって、高校三年でチアリーディングはやめた。


 なのに一番気になっている男子からはいやらしい目を向けてくれないし、何の連絡もない。基礎ゼミの授業で顔をあわせるときだけが交流の時間だ。


「今はフリーなんよ。彼氏ができたこともないんよ」


 丹波口は一人ごちる。


大学に来ればもっと大人な対応してくれる人に出会えるかと思った。付き合ってもいいかなあと思える人から告白もされたけど。


結局断ってしまった。


新谷に比べるとどうしても見劣りしてしまう。彼の持つオーラに比べれば、まるで子供だ。


「ケンジ……」


 自分でない女子と並んで歩く想い人の姿を見ながら、丹波口の胸は痛む。


 同時に、思い至る。


 今まで自分にアプローチをかけてきた男子も、こんな風に歯がゆい思いをしてきたのだろうか。



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