合コン
「では、智上高校と座命館大学基礎ゼミの合コンを開始します~。皆さん、拍手~」
新谷の高校時代からの親友、翔太の音頭で合コンが始まった。
場所は座命館大学近くの飲み屋。手軽な値段と入りやすい雰囲気が魅力の、学生御用達の店だ。
「お前がこんなの企画するなんて、意外だな?」
新谷の隣に腰掛けた翔太が、ウーロン茶を飲みながら話しかけてくる。
「大学生になって心機一転、ってところかな」
そう言いながら新谷は同じくウーロン茶をすする。前の時間軸の癖で、まだ十八なのにビールを注文した時は翔太が驚いて止めてくれた。
だがc子はさらにビビり。丹波口は陽気に笑って。梅小路は落ち着いていた。
「新谷って、智上高校出身だったしい…… あそこって、東大早慶に年何人も合格してるエリート校」
「隠してたわけじゃ、ないんだけどね」
新谷の近くに座り直したc子が、グラスを両手で持ちながらおずおずと話しかけてくる。
今日は校内でよく見かける派手めのファッションでなく、ロングのプリーツスカートにメイクもおとなしめに変えていた。
「ほら、僕の相手なんてしてる場合じゃないでしょ」
c子は翔太と同じ野球部だった男子に声をかけられ、新谷に頭を下げてから彼の方へ向かう。
「ネットの噂で見たけど、男子校って今でも上半身裸で校庭走らさられたりするしい?」
「ああ。昔はもっとすごかったらしいけど、今でも男子校ルールっていうのはある」
「うちの野球部、進学校なのに何年か前は全国にいったこともあるらしいぜ?」
「詳しく聞かせてほしいしい」
翔太に頼んで高校時代に女子に縁がなく、さらに大学では男子ばかりの学部に進んだ人を集めてもらった。
ほとんどが翔太と同じ元野球部員だが、翔太のように遠征時に女子に声をかける勇気のなかったメンツだ。ほとんどの女子は翔太のような見た目のいいアルファ系に目を奪われ、補欠か準レギュラー程度のポジションだった彼らに見向きもしなかった。
当然、c子をはじめとする女子からのアタックに慣れていない。
だがこの場では出身校を名乗るだけで女子からちやほやされ、彼らはすっかり舞い上がっていた。
c子も男を手のひらで転がすのが楽しいのか、ご満悦だ。
「まあ、彼らも後数ヵ月で彼女できるんだけどね……」
本来の彼女たちには悪いが、もっといい男を見つけられるように祈るしかない。
陰キャな新谷にとって、これだけの数の運動部男子との交流はない。
だが社会人で飲み会をセッティングした経験が活きた。
翔太の紹介で彼らと出会い、同じ智上高校ということで意気投合したふりをして彼らを誘い出すことに成功する。
「ケンジって意外に大人やね」
グラス片手に丹波口が、新谷の座る席に近づいてきた。勢いよく座ったため古びた椅子がきしみ、グラ
スの中の飲み物が揺れる。
だが巧妙な体幹の動きで一滴たりとも飲み物をこぼすことはなかった。チアリーディング部出身というのも伊達ではないらしい。
「ありがとう、丹波口さん」
「れんでいいって」
「ありがとう、れん」
「う、うん……」
新谷が顔色一つ変えずに丹波口の名前を呼ぶと、意外なことに彼女は口ごもる。
余裕を失わない態度が、彼女の中で新谷の存在を大きくしていた。
「c子を呼びだした時、告白かと疑われて説得するのマジ大変やったよ~」
「ほんと、お願い聞いてくれてありがとう。おかげでスムーズにいったよ」
「知り合いの頼みやしね」
こころなし早口でそう言った丹波口が、グラスの中の飲み物を一気にあおる。
新谷の目を丹波口は熱っぽい視線で見つめるが、新谷は微笑を返すだけだった。
そのまま出身校の話を少しした後、彼女は立ち上がって他のグループの方へと移動していった。
「今の子、この前食堂で会った子じゃねえか? ずいぶんと仲いいな」
やりとりをずっと静かに聞いていた翔太が話しかけてくる。
野球部出身だったせいか食べる量も新谷とは段違いで、テーブルにあるから揚げも枝豆も半分以上を腹に収めていた。
「まあ、表面上はね」
「相変わらずひねくれてんなあ……」
「褒めてくれてありがと」
少し皮肉っぽい言い方になってしまったことを後悔しながら、新谷は机上のサラダをつまむ。人気がないメニューがずっと残っているのを見ると、放っておけなかった。
「はい。あんまり食べてないみたいだから……」
そう思っていると、隣から刺身を数切れ乗せた皿が差し出されてくる。
「新谷くん。誘ってくれて、ありがとう」
楚々とした仕草で料理を取ってくれた梅小路が隣に座り、話しかけてきた。雀色のロングヘアーを時々耳の横でかき上げる仕草が色っぽい。上品でありつつも艶がある仕草に新谷は目を奪われた。
「いや、僕はあくまで手伝っただけだよ」
「それでも、ありがとう」
c子たちは男子に夢中で、梅小路に嫌がらせをする者は一人もいなかった。
梅小路は穏やかな笑顔を浮かべ、丁寧に頭を下げる。
新谷もそれにならってあいさつを返した。
「それより、そのぬいぐるみ……」
新谷は梅小路の鞄に着けてあるにぬいぐるみに目をとめる。毛糸を立体的に編み込む、いわゆる編みぐるみでネコの形が作られていた。
「お、すげえな。特にこの……」
翔太も会話に加わるが、編み物などしたことがない彼はあまりキャッチボールができない。
「手縫いだね。色も何色も使って、編み方もすごく凝ってる。ぎゅっと締まってて、全然緩まなくてすごいよ」
編みぐるみを作ると、慣れないうちはほつれてバラバラになったりするものだ。精神科のリハビリで編み物がプログラムになることもあり、新谷には基礎的な知識があった。
「さすが。よくおわかりですね」
梅小路はなぜか急に敬語になる。育ちがよさそうな雰囲気からして、本来はこっちが素なのかもしれない。
「ああ、ちょっとね」
精神科のリハビリでは陶芸や編み物など、様々な作品を作ることで自己肯定感を高めたり、集中して日々の悩みを忘れる時間をとる。
「僕も初めて作った時は、編み方の種類が多すぎて苦労したよ」
「わかります。輪の造り目だけで四苦八苦でしたから。基本中の基本の球体を作るのも大変ですよね」
そう言いながら鞄を自分の方に引き寄せ、ネコのお腹にあたる真ん丸な部分を愛おしそうに撫でた。
その表情を見るだけで、新谷はほっとする。未来の彼女はもっと辛そうな表情をしていた。
「なんで敬語なんだ? 別にこいつ、年上ってわけじゃないぜ?」
置いてけぼりにされていた翔太が、軽く突っこむ。梅小路は顔を赤くした。
「す、すみません…… いえ、ごめん」
さりげなく翔太が二人の下を離れた後も、新谷と梅小路の会話は途切れることがない。
編みぐるみのこと、依然話したゲームのこと、新谷の好きな時代劇。
彼女は飲み会が終わるまで、新谷の隣を離れなかった。




