反撃
翌日、基礎ゼミに来た新谷はさっそく手をうつことにした。職場でも部下の対人トラブルは早めに対処する必要がある。
事実、a子は今日基礎ゼミに来ていないし、必ず早めに席についている梅小路も時間ギリギリに来ることが多くなっている。
目立たないように教室で丹波口にラインで連絡を取った。
「ちょっと待ち」
友達と話しながらスマホをいじっていた丹波口の表情が、とたんに明るくなった。
「なに、あんた」
放課後、新谷はイジメ主犯の一人を基礎ゼミの教室に呼び出していた。
名をc子という。
いじめは当然だが、いじめる方が優位に立っているから可能なのだ。
丹波口に頼んで彼女を一人で呼び出してもらったのは、一対一という状況に持ち込んで優位性を封じることにあった。
さすがにブラック企業と社会人を経験した新谷でも、女子数人を一度に相手取って優位を保つ自信はない。
女子は複数だと強気だ。でも一人なら弱い。
新谷は単刀直入に切り出した。
「用件は単純だよ。a子さんや梅小路さんにやってること、やめてくれる? 見てて気分のいいものじゃないんだ」
「はあ?」
自覚はあるのか、c子はとたんにキレる。
「なんであんたなんかに、そんなこと言われないといけないしい」
まあ、ここで素直にうなずくわけはない。
そう言い捨てて教室の扉に手をかけようとするc子の前に、新谷は無言で立ちふさがった。
「どけし」
「……」
「どけ!」
「……」
「くそ、この陰キャの分際で……」
陽キャが陰キャに対しコミュ力が高いのは、集団内でのカーストが高い時に限られる。
ならば一対一という状況に持ち込んで高いカーストというアドバンテージを封じてしまえば良い。いつもなら自分に味方してくれる友人もなく、場の空気が陽キャ側に傾きにくくなる。
無論それだけでは、陽キャ独特の筋力・声の大きさに陰キャがビビって終わりだ。
だが新谷は大声に引く様子もない。男と女で、c子は力でもかないそうにない。
咥えて新谷は陽キャのガンをいなしたことで、「あいつヤバいんじゃね?」という噂が礎ゼミで広まっていた。
この状況が、c子から怒りを奪い徐々に恐怖を与えていった。
茜色の夕日が徐々に西の空へと落ちていく。町を囲む山々は影となって黒々と染められ、電気もつけていない教室内は暗さを増す。
やがて、彼女は明らかにおびえた様子を見せた。
基礎ゼミ内での強気な様子、a子や梅小路の悪口でクラスで大きな顔をしていた様子は見る影もない。
新谷に何か言いたそうに口を開くが、言葉が発せられることはない。
c子は口を開きかけては閉じ、新谷の視線から逃れるようにうつむき、目も合わせなかった、
どう見ても立派な陰キャだ。
抜きゲーで小生意気なヒロインをわからせたときの快感を思い出し、新谷は昏い喜びに浸る。
c子が弱気になったのを確信してから、新谷は口を開いた。
「もちろん、話を聞いてくれるならいいことがあるよ? 丹波口さんにも今、動いてもらってるから」




