『ツァイト・ヴィヒテリン』
一人の少女が空間にただよっていた。
上も下もなく、見渡せばぬばたまの闇の中に星々が輝くだけ。天の川のような星の集まりが見えるが、大河から分かたれた支流のように小さな星の流れが無数に枝分かれしている。
その中で少女は膝を抱え、背を丸めてうずくまっている。年齢は十代中盤、容姿はそこそこといったレベルだが磨けば光ると思われた。
セーラー服ともブレザーとも違う、特徴的な紺色の制服のスカートの中から綿パンツがのぞく。だが見
る人も動物もいない。
「―」
少女はこの空間にいない友人の名を呟くが、届くことはない。
彼女を一度失った。それから何度も何度も追い求め、はかない希望にすがっては絶望を繰り返し、もはや疲れ果ててしまった。
「もう……」
誰もいない空間に向かって放つ少女の呟きは、これで何度目になるのだろう。
家族の虐待と、自らの病気に苦しめられた人生。
どうしてこれ以上苦しまねばならないのだろう。神様はなんて残酷なのだろう。なぜ生きていなければならないのだろう。
ここで死ねば、死体はどうなるのか。腐って朽ち果てるのか、それとも永遠にそのままなのか。
舌に歯を這わせたとき、少女は天の川の支流の中に一つの未来を見つけた。
「あ、ああ……」
眼鏡をかけた瞳の奥に涙があふれる。
やっと見つけた。望む未来を。友人を失わない道を。
「これなら……」
少女は眉間の奥に力を込め、能力を使用する。
『ツァイト・ヴィヒテリン』