ヲタッキーズ180 X2K
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第180話「X2K」。さて、今回はスーパーヒロイン専門の連続殺人鬼が登場。秋葉原のスーパーヒロイン達を震撼させます。
捜査陣は、4年のブランクを経て、スーパーヒロイン殺しを再開したX2Kに翻弄される。捜査の糸口もつかめない内に、スーパーヒロインに新たな犠牲者が…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 蘇る殺人鬼
夜の昭和通り。和泉パークで散った桜吹雪が首都高上野線まで舞い散る。スマホを見ながら歩く女子。
誰もいない。でも、誰かに見られている。ふと視線を感じスマホから顔を上げて見回す。誰もいない。
「気のせい?」
流行りのピンク系の髪に手をやる。後ろを少し振り向くと…電柱によりかかっていた人影が動き出すw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風に改装したら居心地良く回転率と収益率がダブルで急降下w
経営を直撃中だw
「シュリに言っちゃダメ?」
「ダメに決まってる。恋愛の大敵は"考え過ぎ"。シンプルに逝った方が良いの」
「ミユリさん。そんなアドバイスして大丈夫か?スピアまで推し活で大失敗して欲しくないな」
僕は、冷蔵庫から"マイナスcoke"を出し勝手にカウンターに持って逝く。僕は御屋敷のオーナーだ。
「テリィ様。今、隠れファンに対するエチケットを教えていたのです…推し活で大失敗って、私のTOになったコトですか?」
「いいや。別のヲタ友の話さ…スピア、隠れファンがいるのか?」
「ズッと無視してたけど、最近何だか少しずつ気になっちゃって」
スピア、てへぺろ。彼女はトランジスタグラマー。
「現カレのシュリに話す必要ナイわ。黙ってれば?」
「隠れファンって、隠れてるモノだろ?どうやって存在を知らせたの?」
「"Face-note"で直メが来た…"電撃に撃たれた髪が太陽の光を受けて輝き、僕は見とれてしまった"」
何だソレ?でも、ミユリさんは胸に手を当て感動w
「まぁ!詩人じゃないの」
「直メは衛星回線にスクランブルをかけてる。つまり"彼"が私にアクセスしたのは秋葉原上空3万6000kmの静止トランスファ軌道における第4象限〜第5象限の間ってコトで…」
「おいおいおい?何をしてるんだ?」
僕は慌てる。スピアは涼しい顔。
「逆ハッキングょ。私、ハッカーだし」
「何てコトをスルんだ!せっかくの秘密が台無しじゃないか。小説だって結末から読み始める奴はいないだろう?」
「いるわ」
まさか!
「スピアは、僕のSFは結末から読んでたのか?そんなのダメだ。ヤメろ。"隠れファン"が誰だかわかれば、ソコで楽しみは終わる。その過程を楽しむんだ。ソレでこそ、初めて結末が花開く。まるで、ヒマラヤに咲く、青いケシの花の如く。つまり…」
絶好調だったが途中で遮られる。
「わかった。もう犯人探しはしないわ」
「そうしとけ。いつか僕に感謝する日が来るぞ」
「テリィ様。スマホ鳴ってます。多分ラギィ」
小さなランプが音もなく明滅してる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
東秋葉原の殺人現場。
「犯人は被害者はリンザ・ルッソ。27才。ケーブル会社の顧客窓口。"blood type BLUE"」
「"覚醒"してるの?超能力は?」
「前世リーダー。スーパーヒロイン殺しなので、本件は自動的に警察とSATOの合同捜査となるわ。よろしくね、テリィたん」
南秋葉原条約機構は、アキバに開いた"リアルの裂け目"からの脅威に対抗するための防衛組織だ。
ミユリさん率いるスーパーヒロイン集団"ヲタッキーズ"はSATO傘下の民間軍事会社で僕がCEO。
ラギィは、万世橋の敏腕警部だ。
「不満を抱いた顧客の犯行かな?」
「そうみたい…あ。ありがとう」
ヴェンティサイズのコーヒーカップを手渡す。
「ゴミ収集の作業員が発見した。彼女の住まいは2ブロック先だから、きっと帰宅途中を狙われたのね…どう?」
「全身に電撃痕」
「犯人は電撃使いか」
ラギィの顔を覗き込む。
「何?」
「別に」
「ねぇ言ってょ」
仕方ない。
「穏やかな顔だな」
「全然穏やかなコトは無いわ。電撃されたのょ?」
「かなりの強電圧だ。髪の毛チリヂリ」
ラギィに顔を覗き込まれる。
「テリィたん、何か発表したいの?」
「いや、ただ美人スーパーヒロインが電撃で殺され遺体が寝てるように置かれてる…確かスーパーヒロイン専門の連続殺人があったね」
「4年前のコトょ」
何だょ気づいてるのかw
「確か犯人は野放しだろ?この子は奴のタイプだ。執筆でその事件をリサーチしたコトがアル」
「テリィたん。でも、あの時の犯人は、こんな路地裏じゃなくインドアで殺してたし、遺体の手は葬儀の時みたいに組まされてた」
「じゃやり方を変えたンだ」
ラギィは別意見。
「それか…前の事件とは無関係か」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
被害者リンザの母親が来署され、ラウンジで事情を伺う。美人の母は美人…だが、悲しみに暮れてるw
「お嬢さんは誰かに追われてましたか?」
「いいえ、ソレはナイわ」
「何か人間関係のトラブルは?」
首を振るママ。
「恋人もいなくて、働いてばかりでした」
「ケーブル会社ですょね。社内で何か問題は?」
「そう言えば気味の悪い男の話は聞いたわ」
懸命に何かを思い出すママ。
「名前は?」
「聞いてません。ただ、仕事中も変態みたいにジロジロ見つめて来ると」
「ソレは…」
途中でラギィのスマホが鳴る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の検視局は地下にアル。モニターに青いスクラブを着た車椅子のルイナ。"リモート鑑識"だ。
「あら。みんな、早いじゃないの?」
「ルイナの緊急呼集だからな。で、どうしたの?」
「過去の連続殺人と照合してみた」
え。傍らでドヤ顔のラギィ。
「おいおい。ソレって僕のオリジナルだょな」
「あら。私はラギィのリクエストしか受けないし」
「はいはい。そーですか」
ソレで?
「連続殺人犯は、過去の事件と同じ4545㎐の"スタン音波ガン"を使ってた。スーパーヒロインを一撃で倒す必殺周波数ょ」
「初耳だ」
「未公表情報だから。で、コレを見て」
モニターに焦げた2つの傷跡が並ぶ画像。
「今回の遺体と傷跡がそっくりじゃないか」
「あいつなのね?」
「YES。スーパーヒロインばかり狙う連続殺人鬼"X2K"が秋葉原に戻って来た」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋に捜査本部が立ち上がる。警察とSATOの合同本部なので冒頭SATOの司令官から挨拶がアル。
モニターにコスモルックのレイカ。
「SATO司令官のレイカです。知っての通り"私達"スーパーヒロインの中には、弾丸を跳ね返す強靭な肢体を持つ者もいる。しかし、4年前ダブルキラーこと"X2K"は、全てのスーパーヒロインを殺害し得る唯一の手段"音波殺"に拠り、1週間に3人のスーパーヒロインを殺害、1ヵ月後さらに3人を殺して姿を消した。SATOは警察と合同で、その6件の捜査を行ったが、唯一今に残るのはSATOのプロファイルだけ。犯人は"未覚醒"の腐女子、25から45才。X2KはX染色体が2つの意味、つまり犯人は女子であり…」
僕は傍らのラギィを突く。
「君っぽいな」
「…恐らく母親と問題があり…」
「まさしく君だ」
ラギィは恐ろしい顔で僕を睨む。
「…恐らく単調な仕事をしている…」
「絶対ラギィだ」
「もう"宇宙女刑事ギャバ子"のインスパイアは降りる。次作からはミユリ姉様をモデルにして」
訓示中にヒソヒソ小声でやり合う。
「…犯人は、警備員や修理人に変装。被害者の部屋に侵入してスーパーヒロインを殺す。殺害後は、遺体の手は組まれている。棺の中で眠るように」
「なぜかしら?」
「きっと昔、経験したトラウマを再現してるんだ」
プロファイルは続く。
「重要なコトが2つ。4年間音沙汰がなかったのは刑務所にいた可能性がアル。ソレとペースを変えてないなら1週間で3人殺す。リンザ・ルッソの殺害から今日で3日目。モタモタしてられないわ。急いで」
全員散る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ねぇオフィスでリンザを見つめてた変態の名前はマッカ・ドール。オフィスの園芸技術者だって」
「何それ?」
「観葉植物に水をやったり、葉っぱからホコリを払ったりスル人。でも、昨日で退職してるわ」
ヲタッキーズのマリレだ。因みに彼女もスーパーヒロインでメイド服。だってココはアキバだからね。
うなるラギィ。
「うーんタイミング良過ぎね。あら、家庭内暴力で何回も訴えられてるわ」
「結婚してるの?」
「4年前に。同性婚。でも、先月離婚してる」
僕は両肩をスボめる。
「ある意味4年間刑務所にいたとも逝えるな」
「赤のセントラがリンザの自宅前で目撃されてる。因みにマッカ・ドールの車と同じ」
指示は明確だ。
「連れて来て」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部の取調室。
「何の用なの?私、何かした?」
「一昨日の夜18時から24時の間、貴女は何をしてましたか?」
「ボーリング」
何だソレ?しかし…ダラダラとスゴい汗だw
「なぜ園芸技術者の仕事を辞めたの?」
「ステップアップのためょ」
「いつも仕事中に見つめてたリンザが死んでしまったから?」
斬り込むラギィ。前戯ナシ←
「何ソレ?私は殺してナイ」
「そうは見えないわ」
「見えない見えない。スゴい汗だ。手に汗を握る状態なんだろう?」
ラギィと二人三脚で責め立てる。
「差別だわ。汗かきは病気なのょ」
「もっと深刻な問題もアル。パートナーに暴力をふるった過去がアルわね?さらに、リンザの自宅前に貴女の車があったとの目撃証言もゲットしてる」
「でも、彼女には指1本触れてない。確かに好きだったから家までストーキングした。でも、ここ3日間は、彼女の家に近づいてもいない。ある男に脅されたから」
ある男?新たな登場人物?
「男って?」
「彼女の自宅前にいた警備員ょ。失せろと言われたの。ソレですっかりビビっちゃって。以来、行ってナイわ」
「自宅に警備員?スターのお宅?」
顔の汗を拭うマッカ・ドール。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部。ヲタッキーズのエアリ&マリレが現場から戻る。因みに2人共メイド服。だってココは…略
「汗かきマッカ・ドールはシロね。ボーリング場のマネージャーが散々ガーターを出すのを目撃してるわ」
「警備員については?」
「あの近辺で警備員がいる建物は1棟しかなかった。でも、警備会社に聞いたけどマッカ・ドールは見てないそうょ」
僕は腕組み。
「マッカ・ドールがウソをついてたのかな」
「ウソじゃないカモ。その警備員の正体がX2Kなのカモしれない。犯行にマッカ・ドールが邪魔で追い払った可能性もアル」
「依然としてX2Kの正体は不明だけど、順調にスケジュールをこなしてる。2人目の被害者が出たわ」
第2章 殺人現場
2件目の殺人現場も東秋葉原。今回はデザイナーズマンションで、コンクリート打ちっぱなしの室内。
「被害者はインテリアデザイナーのキーム・ポスタ。"blood type BLUE"。超能力は霊的臭覚。首筋にスタン音波ガンでつけられた傷痕がアル…何もかも4年前と同じだわ」
「死亡時刻は?」
「肝臓の温度からすると昨日の夜、早めの時間」
僕のスマホからルイナの声。多忙な超天才ルイナはラボから"リモート鑑識"で手伝ってくれている。
「ラギィ。同じマンションの人が都市ガスの修理人を目撃してるって」
「このマンションにはコンシェルジュがいない。インターホンでガス漏れの点検だと言われて入れたのかもしれないわ」
「ヲタッキーズ、インターホンの履歴を見て」
考え込むラギィ。
「以前の手口に戻ったわ。でも、なぜ?」
「ノスタルジーかな?」
「リンザの時だって、路地じゃなくて、部屋でも殺せたハズょ」
なるほど。
「リンザの方が例外だったのかな」
「ラギィ、キームは7時35分インターホンに出てる。犯人を部屋に入れて直ぐ殺されたみたい」
「うーん直ぐってワケでもなさそうだ。あのクッションを見ると、かなり抵抗してる」
僕はソファを指差す。
「クッション?普通のクッションだけど?」
「キームは、インテリアデザイナーの割にクッションの置き方が雑じゃないか?」
「そっか。きっと激しく抵抗したのね!」
ラギィとの間で"妄想ハレーション"発生!
「きっとソファで揉み合った?」
「だけど、犯人は殺した」
「クッションを置き直したのは…」
「犯人?久々の犯行で…」
「何か見逃しがあるカモ!」
僕とラギィはソファに駆け寄り手を突っ込む。
「おおっ!」
「何?」
「5円玉みっけ!良い御縁がアルかも」
「待って。何かアルわ」
みんなが唖然とする中、名札を見つけるラギィ。
「"ビンス"?まさか犯人の名前?」
「さぁ?ずっと前に落としたモノかもしれない」
「ルイナに調べてもらおう」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
SATO司令部は、パーツ通りの、とあるゲーセンの地下深く秘密裡に作られ日夜敢然と挑戦しているw
何に?笑
「レイカ司令官。蒸気省大臣がお見えです」
「お通しして…キャル、元気?旦那は?」
「まぁ元気ょ…離婚したの、レイカ」
視線を落とす大臣。
「…ソレは残念だわ」
「レイカ。マスコミが家に来ては、私のコメントを求めるの。娘を殺したX2Kが、またスーパーヒロイン殺しを再開したコトについて。サーラの捜査の時、貴女は正直に話してくれた。だから、聞くわ。アイツはホントに戻って来たの?」
「恐らくYES。でも、今までと違い今回は手がかりがアル。ウチも最精鋭のヲタッキーズを投入スルわ。捕まえたら1番に伝える。約束スル」
席を立つ大臣。自嘲気味に笑う。
「来週はサーラの誕生日なの。生きてたら29才ょ。コレ以上、遺族を増やさないで」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。万世橋の捜査本部。ホワイトボードの前。
「よぉラギィ」
「Hi!テリィたん。今、名札をルイナが調べてる。期待してないけど」
「なぜリンザの時だけ外で殺されたんだろうね」
おや?ラギィはドヤ顔。
「あ。ソレ、謎じゃなかった。4年前X2Kに関する情報提供があった。6人目が殺害された1週間後のコトだったけど、情報提供者は匿名の女性で、住所は10番街と24丁目の角」
「リンザと同じアパート?」
「通報は"エレベーターに乗り合わせたケーブルの修理人が怪しかった"って内容。慌ててエレベーターを降りたそうょ」
なるほど。そーゆー話か。
「でも、なぜ修理人が怪しいと思ったんだろう」
「"ケーブルの修理人じゃなかった"のょ。修理に必要な工具を持ってなかったんだって」
「ケーブル会社勤めならわかるょな」
ラギィは続ける。
「で、4年前のリンザの通話記録を調べたら、やっぱり彼女、確かに情報提供してたってワケ」
「だから、例外だと思うのか」
「リンザが慌ててエレベーター降りたから、犯人は彼女に怪しまれたと気づいたんだわ」
なんてこった!
「面が割れてるから、部屋には入れてもらえない。だから、路地裏で殺すコトにしたワケだ」
「しかし、顔を見られただけで、4年後に殺すナンて、犯人は相当執念深い人間ね」
「ラギィ!ルイナが名札を調べたら指紋が出た」
マリレが飛び込んで来る。色めき立つ本部。
「犯人の指紋か?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部のホワイトボードに、おデコの広い女子の画像が張り出される。ルイナの"リモート解説"。
「この女子は、マカス・リンデょ。42才。180cm,80kg。"blood type RED"。特徴としては、左腕に蛇のタトゥがある。被害者キームの部屋に彼女の指紋があった。スピアがハッキングした警視庁のデータベースによると、彼女は残忍で、賢い社会病質者。過去に故殺で服役してる。最近では、喧嘩相手の頭をボトルで殴り、4年間、蔵前橋の女子刑務所で過ごし、先月出所したばかり。住所は不定。4才で母親を亡くし、施設を転々として来た。見つけるのに苦労しそうょ。ラギィ?」
「ありがとう、ルイナ。4年前、6人が犠牲となった。私達がソレを止められなかったからょ。ただ、今は彼女の正体や、彼女が3人目のターゲットを狙っているコトもわかってる。被害者が増える前に彼女を捕まえましょう」
「ROG!」
決意に満ちた瞳。解散。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
「おかえり。こんな遅くまで大変な事件ね」
「スーパーヒロインを専門に狙う連続殺人犯を追ってルンだ…けれど、ソレ、隠れファンから?」
「(てへぺろ)」
スピアは、赤薔薇の一輪挿しの前で描き物中だw
「隠れファンの正体は、未だわからないのか」
「でも、詮索はしないコトにした。また、手紙をもらったの。明日、バラをつけて街を歩いて欲しいって。素敵じゃない?」
「でも…ヤメとけば?現カレのシュリが知ったらどう思うかな」
冷や水かけるが、スピアのルンルンは止まらない。
「そう思うのはシュリのせいじゃナイでしょ?」
「あのさ。僕は、相手がわからないのに、そんなコトをするのは"どーなの?"と思ってるだけだ。アキバは要塞都市じゃナイ。どこのヲッサンが手紙を描いてるかワカラナイんだぞ。その隠れファンは、今も双眼鏡でお前を見つめるカモしれない。ホラ、キモいだろ?相手は変態カモ」
必死の説得。だが、全く実を結ばない。
「もう寝るね。おやすみ」←
立ち上がり、一輪挿しのバラを持って逝く。
「おやすみ。窓の鍵は閉めろ」
「当たり前でしょ?未だ4月ょ?」
「そっか…後でヲタッキーズに確認させょう」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"秋葉原マンハッタン"が、オレンジ色の朝焼けに染まって逝く。捜査本部は眠らない。全員が徹夜w
「エアリ、ダメょ順番に並べて」
「マリレ、細かいのね」
「ねぇ順番を守って。ソッチは見たわ」
「え。見てないわ」
「とにかく、順番を守って」
「アンタ、ばかぁ?」
ヲタッキーズの仲違いを尻目に、僕は本部入り。
「ラギィ。リンデの情報は?」
「大阪の日本橋に叔父がいた。でも、20年以上会ってナイって。今、蔵前橋のシンシン女子刑務所に仲間がいるかの問い合わせをしているトコロょ」
「シンシン刑務所…」
スマホが鳴る。スピーカーにするラギィ。
「はい、ラギィ…どうでした?その男は、服役中ですか?麻薬犯罪の初犯ですね?」
ラギィのメモ描きを覗き込む。
「ゼリー体操?第1とか第2とかアルのかな?」
「ゼリーじゃなくてジェリ。リンデは出所する時、このジェリに荷物を残してる。2人がムショ友ならリンデの行方を知ってるカモしれない。テリィたん、行くわょ」
颯爽と出掛けるラギィの後を追っかける…僕はデスクの上のメモの"jelly"を"Jerry"に描き直す。
「字はキレイにな、ラギィ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
蔵前橋のシンシン女子刑務所。金網の向こうには監視塔。全ての鉄柵の開閉の度にブザーが鳴り響く。
「ムリ!あと3ヶ月で出所出来るの。早く出所して恋人に会いたい。もし、リンデに密告がバレたら、何もかも出来なくなるわ」
「大丈夫。絶対にバレない」
「保証は?」
言い淀むラギィ。頭を抱えるジェリ。
「蔵前橋での情報は、全てリンデに筒抜けょ。私は殺されるわ」
「あのね。貴女が話そうと話さまいと、私はココに居座るわ。1日中いたって良い。側から見れば貴女が私に何か密告してるように見えるってワケ」
「なんてコト!」
かなわない。観念するジェリ。
「わかった。2分だけょ。2分したら戻るから」
「リンデとは友達?」
「概ねYES。私はキッチンで働いてて、タマーに彼女に差し入れをスル時もアルわ」
簡潔に関係性が述べられるw
「お返しに彼女は貴女を守ってくれた?」
「完璧に守られてた。でも、その分、今の私は危険にさらされてる」
「リンデは、出所したら何処に行きたいと話してたかしら」
定番の質問だ。
「執事カフェ。あと良く行く行きつけのバーがアルとか言ってたわ。場所はミートキングチェア」
「何てお店?」
「確か、豚ナンチャラって…そんな名前」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"|豚の首《tavern hogsneck》"だ。
クタビれた万国旗が下がる路地裏。雑居ビルのむき出しの白い壁。1Fの路面に黒い木製の古いドア。
「リンデはバーカウンターです」
「何人いる?」
「5人です。バーテンダー、ウェイトレス、客2人」
バンから続々と降り立つSWAT隊員。対テレパス用ヘルメット、ゴーグル、短機関銃。完全武装だ。
「人質を取られたら厄介ね。奴に隙を与えないで」
防弾ベストを着込み全身真っ黒のSWATが配置につく。突入…その時、何とリンデが店から出て来るw
「マカス・リンデ?…お前か?!」
「万世橋警察署!万世橋警察署!」
「手を上げろ!動くな!」
SWAT全員が短機関銃、音波銃、ロケットランチャー、擲弾筒、吸着地雷を構えて叫ぶ。現場は騒然w
「…聞こえねぇのか?ヒザマづけってンだ。このスットコドッコイ!」
ドサクサ紛れの少し恥ずかしいフレーズ(僕w)に隊員達が僕をチラ見したトコロでリンデが口を開く。
背の高いオデコの出た女子。
「ソコのメイドさんとSF作家はヲタッキーズかしら?やっとSATOもホンキを出すみたいね」
「黙ってろ!」
「慎重にね。"ミランダ警告"を忘れないで。手続きミスで釈放になっちゃ私が恥ずかしいわ」
不敵に微笑み、後頭部で手を組む。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。隣室からマジックミラー越しに大人しく着座したリンデを見ながら、僕は描写スル。
「"冷酷で執念深い。X2Kは極めて冷静だった。敵に囲まれても、彼女の心拍数が上がるコトは無い。頭脳の回転には自信がアルのだ…ちょっち文学ポイ表現をしたくて逝ってみたょ」
「ラギィ。バーテンダーがリンデの自宅を知ってた。令状をとって家宅捜査スルから」
「状況証拠だけで彼女を有罪には出来ない。証拠が欲しいトコロだ。キーム殺害の時のアリバイから攻めようか」
うなずくラギィ。隣室から出て逝く。勇んで僕も後に続こうとしたらメイド2人に取り押さえられるw
「テリィたん、ヤメとこ?女vs女の血闘ょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラギィは1人で取調室に入って逝く。
「警部のラギィょ」
「百合のタイプじゃないけど例外もアルから」
「キーム・ポスタを知ってる?」
リンデは、顔色1つ変えない。
「知らないわ」
「この画像の女性に見覚えは?」
「きれいな髪ね」
示された画像をチラ見スル。
「見覚えがアルかを聞いたの」
「秋葉原は大都会ょ。スレ違ったカモしれないけど覚えていないわ」
「すれ違ったかどうかじゃなくて、部屋に入ったコトがアルかを聞いてるの」
ゆっくり首を振るリンデ。
「だから、いちいち覚えてナイわ」
「8番街と35丁目の角よ。そこの301号室に入ったコトはある?」
「ないわ」
マンマと"ハマる"リンデ。
「じゃ聞くけど、何で貴女の指紋付きの"ビンス"の名札がキーム・ポスタの遺体のすぐ側にあったのかしら」
証拠品袋に入った"ビンス"の名札を示す。
「理由は説明出来るわ」
「おぉ!ソレは楽しみだ(コレは隣室の僕)」
「私は"エンパ小道具"に勤務してるの」
ようやく歌い出すリンデ。おでこ女子。
「ソレで?」
「そこは撮影用の小道具を貸し出す会社ょ」
「説明しなくてもわかるわ」
ラギィは嫌な予感。
「ソコで私は小道具の管理をしてるワケ。こういった名札のような小道具には、いつも日常的に触ってるわ」
「エアリ、その会社に確認してくれ(僕@隣室)
「ROG、テリィたん(エアリ@隣室)」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取り調べは続く。
「"エンパ小道具"に貴女が勤務している記録はなかったわ」
「正規雇用じゃないの。おっと!私を脱税で逮捕出来るカモ。容疑を切り替える?」
「貴女が働いてる会社では制服も扱ってる?」
うなずくリンデ。
「もちろん」
「都市ガスの会社の制服はアルかしら?」
「覚えてナイけど、何でも揃うわ。ありとあらゆる制服が揃ってるから」
言葉を選び対応するリンデ。
「その制服の内のどれか1着を家に持って帰ったコトはアルかしら?」
「…今、家宅捜索をしてる? 」
「ええ。だから、正直に答えた方が身のためょ」
顔をほころばせるリンデ。
「素敵。じゃ令状を見せてもらわなきゃ」
「どうして?」
「え?私には令状を見る権利があるからょ。ハイ、コレまで。令状を見せてくれるまでは、何も話さない。ねぇ警部。もっとマシな作戦を練りなょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室の隣室。ラギィは唇を噛む。
「令状を見たがってるのは、捜査状況が知りたいからだわ」
「令状じゃわからないだろう?」
「テリィたん。あのね、令状にはX2Kが使っていた凶器や被害者の名前が全部載ってるの。ソレを見れば捜査状況は一目瞭然ょ」
そーなのかw
「警察が彼女をX2Kだと疑ってるコトがバレバレってコトか」
「ついでに、こっちの手の内も丸見えょ」
「既にバレバレだけどな」
マジックミラーの向こうのX2Kは余裕だw
「ラギィ!小道具会社に聞き込みに行って来たけど、確かにリンデは名札の管理をしてた。因みに、事件の晩は7時2分に退勤してる」
「ありがとう、エアリ。エンパ小道具は帝国スクエアにあり、7時35分までにキームの部屋に行くコトは可能ょ」
「あれ?僕のスマホ…」
勝手にハッキングされてスピーカーになってるw
「令状を見せて。でも、弁護士を呼ぶのはダメ」
レイカだ。僕とラギィは顔を見合わせる。どーやら司令官殿はSATO司令部でモニターしてたらしい。
「SATOは超法規組織だから、レイカはあー逝うけど、警察はソンなコト出来るのか?」
「出来ないわ。無理」
「合同捜査って面倒だょな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室。
令状を見るリンデ。ラギィはドアのところにもたれかかって、リンデが目を通すのをジッと見ている。
「あらあら。キーム・ポスタ以外も、みんな私が殺したと思ってるワケね?まぁ!他にも7人もの名前が令状に載ってるけど」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
家宅捜査の現場。スマホに出るマリレ。
「レイカ司令官、マリレです」
「何か見つかった?」
「今のトコロ、何も。音波銃も制服も出ません」
厳命が飛ぶ。
「探し続けて」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室の中ではリンデが牙を剥く。
「おまわりさん。私、確か名札に指紋がついていたから呼ばれたのょね?でも、私は理由をちゃんと答えた。会社の方にも確認は取れたでしょ?」
「いいえ、未だ確認中ょ」
「ウソをつかないで。とっくに確認はとれてるハズだわ。後で捜査中にウソをついたと裏が取れれば、私は警視庁の内務監査に申し立てをスル。ソレで貴女は懲戒、捜査は無効になるけど」
腕組みして寄りかかったママのラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マジックミラー越しの隣室。
「ホントに警察は拘束出来ないの?」
「レイカ、ソレが警察捜査の限界ナンだ」
「じゃ釈放するワケ?」
ヒステリー寸前だw
「ウソだと証明出来なきゃな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室。
「おまわりさん。私、帰らせてもらうわ」
「そう。わかった、どうぞ帰って」
「拘束スル理由も尽きたわね」
天を仰ぐラギィ。
「だけど、貴方が帰ったり弁護士を呼んだりすれば、それだけ疑いの目が向けられ、もう普通の生活に2度と戻れなくなるわ」
「OK。もう戻れないし」
「じゃ疑いを晴らす努力をしたら?」
何も答えズ立ち上がるリンデ。
「正直なトコロ、キーム以外の被害者と貴方を結びつける証拠は出てないの。ホントに偶然、指紋が出たけど、指紋だけじゃダメ。でも、貴女には前科がアル。貴女の前科では、疑われても仕方がナイの。ソレが嫌なら私はやってないと証明して。キームの部屋には行ったコトがナイのょね?昨夜19時35分はどこにいたの?」
「おまわりさん。私が答えるメリットは?」
「アリバイが証明出来れば、貴女にかかった全ての容疑は晴れる。私達は別の容疑者を探すわ」
どのフレーズがヒットしたのかは、今でも不明だけれど、遠い目をしていたリンデが、突然歌い出す。
「あの日は7時に退社したわ。7時半には帰宅して、ソレからはズッと家にいた」
「間違いないわね?」
「YES」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部。東秋葉原の防犯カメラ画像を本部全員の目で確認スル。SATO司令部もオンラインで接続。
「リンデのアパートの前の防犯カメラの画像です。再生します」
「彼女はこの時、既にキームの部屋に向かっていたハズょ。コレで何もかもハッキリするわ」
「ちょっと待って。ソコで止めて!」
リンデの後ろ姿で画像は停止。19:31:09。
「ウソょ!」
「しかし、警部。この長い黒髪は…」
「手の甲に蛇のタトゥがあります」
画像を切り出し拡大スルと手の甲に蛇のタトゥ。
「この後、出掛けたンだわ!」
「着替えて101丁目からミッドタウンまでたった4分では、辿り着けない」
「わからないけど…ソレでも行ったのょ!もっと解像度を上げて」
ラギィは目が三角になってるw
「ラギィ。何をしたって事実は変わらない」
「レイカ司令官。だって!」
「私も気に入らないけど、アリバイは確かね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室。
「確認が取れた。コチラの手違いだった。釈放ょ」
「あらあら。結局X2Kは野放しね?秋葉原のTOは、推しのスーパーヒロインから離れられないじゃない。警察の健闘を祈るわ」
「余計なお世話だ(僕@隣室w)」
ラギィを指差し、本部を横切って歩き去るリンデ。
「あの女に監視をつけて。絶対に目を離さないで。あのオデコ女から」
怨念に萌えるキツい眼差し。
第3章 サーチ&デストロイヤー
ヤリ切れない気分になって御帰宅。すると、愛すべき女子達がコーヒータイムで盛りあがってて和む。
カウンターを挟んでミユリさんとスピアなんだけどスピアはオデコに前髪を垂らして可愛くしている。
やはり大和撫子は前髪だ←
「スピア。今日はずいぶん可愛いな」
「テリィたん、今日隠れファンに会うんだ」
「え。光景が目に浮かぶな…スピアと隠れファンは約束の牛丼屋に逝く。ソコにはヲタクな男子が大勢いるが、一体どの子だろう?スピアは、彼と約束の目印を探す。ソレは爆盛りのツユだくだ。多分彼はハンサム。そして安全そうだ。いやらしいコトには一切興味がナイ(そんな人はおりません念のため)」
ほとぼしる妄想…いや、プロットと呼びたいw
「残念。もうちょっとミステリアスになりそうよ。これ聞いて。"和泉パークで5時に待ってる"」
チャットを読み上げるスピア。コーヒーを噴く僕w
「ダメダメ。やっぱり逝っちゃダメだ」
「え。さっきまであんなに乗り気だったのに、どうしたの?」
「東秋葉原で会うとは聞いてなかったし」
スピアは、思い切り不審な顔。
「牛丼屋より普通でしょ?」
「待て待て待て。確か"電撃に撃たれた髪が太陽の光を受けて輝き、僕は見とれてしまった"とかホザいてたょな?"電撃失神魔"の可能性がアル」
「ソレ、どんな"魔"なの?テリィたん、考え過ぎだわ。隠れファンに会うだけょ?」
洒落た反論を考えてたら、ミユリさんがブレイク。
「確かにテリィ様の妄想カモしれません。私が以前メイドミュージカルの代役に毒を盛られてると妄想した時と同じです」
「あの時はミユリさん、血液検査まで受けてたょね?でも、実際下剤を飲まされてたんだょね?」
「お腹ピーピーでオンステージしました。とにかく、テリィ様の妄想は、推しである私の妄想でもあります。だから、私も協力します。責任を取って17時になったら、スピアの相手が殺人鬼じゃないかを確かめに逝って参ります」
助かる!推しとTOは二人三脚だ。
「ありがとう、ミユリさん」
「お任せください」
「自慢の推しだ」
スマホが鳴る。ラギィだw
「やぁ!リンデを再逮捕したのか?」
「テリィたん。あのね、どうやって殺したかはワカラナイけど、犯人は絶対にリンデょ。また必ず犯行に出るわ」
「…珍しいな。何の進展もナイのに、僕にスマホを寄越すナンて?」
ふと気づく。きっと今頃ラギィはスマホの向こうで"え?バレたかしら"って顔をしてるに違いないw
「もしかして…僕に助言を求めてる?」
「え。いや、まさか…別に助言が欲しいとか絶対言って無いンだからね!」
「いやいやいや。違うだろ。僕の大胆な妄想により閉塞した捜査に突破口を開きたいと思っているのだね?」
きっとラギィはウンザリ顔w
「いいえ。ただ、ちょっとしたヒントや発想の転換があればと思って…」
「もし、リンデがジェリに全てを話していたら?」
「ジェリはもう何も話さない。彼女は蔵前橋のシンシン女子刑務所でリンチに遭った。きっとリンデの手引きょ」
おぉ再び女子刑務所に逝くチャンス到来w
「ラギィ。リンデは、ジェリが何かを話すのを恐れている。つまり、ジェリが何かを知っている証拠だ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
シンシン女子刑務所。ジェリは…世にも恐ろしい形相だ。顔中にアザと傷跡がアル。恐らくカラダもw
「アンタ達、どんだけ私を悩ませれば済むの?お願いだから、もう私に近づかないで」
「も1度、協力してょジェリ。リンデの情報がも少し欲しいの」
「わからない?アンタ達のせいで私は終わったの」
切り札を切るラギィ。
「貴女を釈放スル。テリィたんの元カノのミクス次長検事が貴女の釈放を認めるペーパーにサインしそうなの。釈放したら貴女を保護するわ」
「…リンデは、私の百合の恋人ドーナのコトも知っている。彼女も危ないの」
「彼女も保護スル。ジェリ、あともう1歩なの。協力して。貴女にとってもコレが最後のチャンスょ」
上手い交渉だ。
「…わかったわ。取引に応じる」
「彼女は、スーパーヒロインを襲った話をしなかったかしら」
「リンデは、スーパーヒロインを感知しては殺害スル連続殺人鬼、つまり"サーチ&デストロイヤー"なの…サーラってスーパーヒロインの話は、以前に聞いたコトがアルわ。確か外神田SOHOに住んでた」
蒸気相の娘だ。ラギィを振り向く僕。
「サーラ・ゼントのコトだ」
「彼女の部屋に侵入して抑えが効かなくなり、ヤバいコトをしたって言ってた。捜査の目が自分に向く前に、ワザと捕まるために、酒場で男をボトルで殴ったンだって」
「なるほど。蔵前橋の塀の中なら、捜査の手はおよばないわ…続けて」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マジで釈放されたジェリのアパートは、神田リバー沿いにある。夜の駐車場を横切りながら自己紹介。
「私はヲタッキーズのマリレ。今日から貴女の親友になるわ。このアパートはSATOのコンピューター衛星により24時間、軌道上から監視されてる。外出も電話も全てモニターしてる。今からリンデが貴女に話したコトを一切合切、私に話して。くだらないコトほど大歓迎。何でも良いから全部話してね」
ジェリは、フードをかぶったママうなずく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。万世橋の捜査本部。
「サーラは6番目の被害者だった」
「ボトルで殴った事件は?」
「サーラ殺害の1週間後。ワザと収監されてる」
ラギィと歩きながら意見交換。
「リンデを逮捕出来るかな?」
「ジェリの証言次第ね」
「ラギィ!ねぇジェリの恋人のドーナと連絡がつかないわ!」
エアリの報告に焦るラギィ。
「リンデは何処かしら」
「自宅にいるハズょ。制服警官が見張ってる(嫌がらせも兼ねてw)」
「彼女も守ると約束したの。ドーナの友人や家族にも連絡して探して」
スマホをかけまくるエアリ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ジェリのアパート。
「ねぇメイドさん。リンデを逮捕出来ないの?やったのは明らかナンでしょ?」
「彼女には鉄板のアリバイがアルのょ」
「"共犯"がいるってコトは知ってるわょね?」
え。新情報?
「"共犯"?"共犯"については初耳だわ」
「"共犯"が手伝うコトもアルって言ってたわ」
「教えて」
教えるジェリ。
「リンデは"共犯"のおかげで罪を逃れてるらしいの。毎回違う奴を"共犯"に仕立てるそうょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラギィのデスクサイドの椅子で顎を撫でていたらラギィがヤタラ元気良くスマホを切る。興奮してる。
「ジェリが歌い出した。リンデには"共犯"がいるンだって!」
「"共犯"か。だから、奴には、いつもアリバイがあるンだ」
「リンデを逮捕して!謎が解けたわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部で防犯カメラの画像を確認スル。
「リンデは、毎晩同じ時間帯に帰宅してる。コレは事件前日の画像ょ…待って、リンデょ。右がキーム殺害の晩。左はその前の晩の画像」
画面を左右分割し、2つの画面を見比べる。
「やれやれ。別人並みに背丈が違うぞ」
「リンデが伸び縮みしたか…」
「時空が歪んだか…」
唸るラギィ。
「コレが彼女の"共犯"ね?会社の小道具で、いくらでも共犯をコスプレさせられる。その間、本人は現場で犯行におよぶ」
「待って。コレは何?」
「何かが反射して光ってる?」
画像を指差すエアリ。
「汗ょ!"共犯"は汗かきマッカ・ドール?」
「だから、いつもマッカ・ドールはリンザをじっと観察してたのね。マッカがリンデの"共犯"ょ。マッカ・ドールを探して!」
またまたスマホをかけまくるエアリ。
「警部!ついでにリンデも探してください!」
「何で?どーしたの?」
「警官が踏み込んだら…窓から縄ばしごで逃げられました。リンデが消えました!」
第4章 X2Kの正体
捜査本部は騒然となる。
「警部!リンデの住処の周辺を探しましたが、何処にもいません!」
「ドーナを襲いに行ったのかしら」
「で、肝心のドーナは見つかったのか?」
エアリは首を振る。
「未だょ。捜索中。マッカ・ドールも消えちゃったし、元夫も何も聞いてナイ。でも、リンデとマッカ・ドールのつながりはわかった。同じ女子少年院に入ってた」
「ツルんで逃亡してるのかな」
「リンデとマッカ・ドールを指名手配スルわ。2人の写真を神田リバー水上空港とグランド末広町ステーションに配って!」
現場のマリレから電話。
「ラギィ。近所の人に聞いたわ。ドーナは従姉妹の家にいるみたい」
「無事なの?」
「ソレが…恐らくリンデと思われる女が配達人のフリして住所を聞き出してる」
焦るラギィ。
「直ぐに行って!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田練塀町の安アパート。
扉を蹴り開け、音波銃を構えて飛び込むマリレ。奥から物音…リンデが誰かのマウントを取り絞殺中w
「ヲタッキーズょ!ヤメろ!」
リンデの背後から飛びかかってフロアに推し倒し、眉間に、音波銃のラッパ型の銃口を推し当てる。
「顔はやめて」
「もう言い訳は出来ないわね」
「あら。お楽しみはコレからょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。
「X2Kが使ってたのと同じ周波数のスタン音波ガンがポケットに入ってたわね?」
「あら。痴女撃退グッズを持ち歩くのは犯罪?」
「貴女は逮捕されたくて、ワザとやったのね?確かに、娑婆では貴女は何処にでもいる、ありふれた前科者だけど、刑務所では牢名主様だモノね。また、蔵前橋に戻って女王様気分を味わいたいの?ソレなら、今まで犯したスーパーヒロイン殺しを自供して、早く刑務所に戻れば?」
即答。
「ヤメとくわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マジックミラー越しに取調室の様子が見れる隣室。取調室を出たラギィが、ドアを開けて入って来る。
「お疲れ、ラギィ。リンデは吐く気はナイな」
「目撃者もいないし、被害者とつながる証拠もナイ。そもそも、リンデが殺人を犯したと言う証拠が見当たらないわ」
「今のトコロ、暴行罪だけだからなw」
マリレが駆け込んで来る。
「ラギィ!マッカ・ドールは"外神田ER"にいるらしいわ。入院中!」
「ER?リンデにやられたの?」
「マッカ・ドールから、何かリンデに関する情報を得られれば…行って!」
僕は慌てて自分を指差す。
「あ、僕も」
「行っても邪魔しないでょ」
「ROG」
駆け出す背中に指示が飛ぶ。
「何でも良いからリンデの弱みを聞き出して!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"外神田ER"は、市場があった頃からのトーゴ医院が"地域のER"として拡大リニューアルした病院。
「トーゴ先生!マッカ・ドールと話せますか?」
「あら、テリィたん?オペした直後だから、今は無理ポ。寝てるし」
「何のオペですか?」
Dr.トーゴとのお付き合いは、もうン10年だw
「心臓弁の異常ね」
「彼女が汗かきだったのは、心臓弁の異常からか」
「汗かき?もっと深刻な症状も出るわ。1年以上前から手術が必要だった」
そんな重症?
「しかし、何で今になって?」
「やっと手術費の調達が出来たンでしょ。結構かかるのょ」
「結構って?」
アッサリ金額が出る。
「ざっと1000万円ね」
「わ!誰が支払いを?」
「ごめん。プライバシーの問題で言えない」
最近は色々面倒だw
「えっと元夫は入院のコトを知らないンだね」
「憎んでたから」
「じゃ、この花を送ったのは誰?」
病室には、大きな花瓶に大量の花が挿してある。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
病院の廊下を歩きながら僕。
「ラギィ!リンデはマッカ・ドールを襲うどころか、お見舞いに花を送ってる!」
「え。マッカ・ドールは、リンデにとって大切な人なのね?2人の間には友情を超えた何かがアル?」
「恐らく!ソレが奴の弱みだ!」
スマホの向こうでラギィの声が弾む。
「でかした!テリィたん、愛してる」
「おいおい、ヲタクが愛してるナンて逝うな」
「ラギィ!私達、マッカ・ドールが起きるまで待つべき?」
即答。
「大丈夫。ソコはもう良いわ。ソレより、ジェリにドーナは無事だと伝えてあげて。さっきからスマホが通じないの」
「ROG」
「ヲレも逝く」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室に入るラギィ。余裕で迎えるリンデ。
「たくさん欲しがるな女は、そう来なくっちゃ。貴女、マジそそられるわ」
「良く言われる。マッカ・ドールを見つけた。貴女の身代わりになったと証言させるつもりょ」
「…彼女は関係ナイでしょ」
初めて動揺を見せるリンデ。
「ソレか彼女を殺人の共犯で逮捕スルわ」
「無理ょ出来っこナイわ」
「いいえ、出来るの。蔵前橋は貴女にとっては天国でも、線の細いマッカ・ドールには地獄そのもの。やっていけるかしら?」
リンデのフニャフニャした笑顔が瞬時に消える。
「あの子は何も知らない。私の命令に従っただけ」
「ソレなら全部話してもらわないと」
「マッカ・ドールを刑事免責にして。ちゃんと文書に残すのょ」
マジックミラーに向かって胸を張るラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
供述書を自筆で描いているリンデ。
「あいつなの?」
「YES…今、尋問するトコロょ」
「キーム・ポスタを殺したのは貴女ね?」
SATO司令官と蒸気省大臣が隣室で見守る中ラギィが詰問。マイクに口を近づけ明瞭に答えるリンデ。
「YES。私が全員殺したわ」
「名前を言って」
「リンザ・ルッソの前はサーラ・ゼント。あと5人」
震える大臣の肩に手を置く司令官。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再び東秋葉原の安アパート。駐車場を横切る僕とマリレ。事件解決の予感にマリレはもうルンルンだ。
「リンデが全て吐いた。もう事件は解決だって言うのに、テリィたんは元気ナイね」
「コレが僕のSF小説だとすると、オペの件がシックリ来ないンだ」
「心臓弁でしょ?ウチのおじいちゃんも同じ手術をしたわ」
だから何なんだw
「金がない奴のために誰が手術費を払う?」
「多分リンデょ。きっと収監前に貯めてたンだわ」
「でも、リンデが蔵前橋から出所して1ヵ月も過ぎてルンだぜ?」
アパートの階段を上がる。やっぱり腑に落ちない。
「お金がアルなら、普通一刻も早くオペを受けさせるだろ」
「きっと、リンザとキームを殺すのをマッカ・ドールに協力させてから、その御褒美でオペをスルつもりだったのょ。モチベょモチベ」
「殺人共犯のモチベ?」
部屋に入ると、ジェリはパッキング中だ。
「あら。荷造りなの?」
「うん。ちょっとね。色々あったから、気分転換に旅行するコトにしたわ」
「…にしちゃ荷物が多いな。夜逃げかと思った」
僕のジョークに苦笑いするジェリ。
「塀の中でも荷物はドンドン増えちゃうの」
「予想通りだったわ!リンデはドーナを襲ってたけど、寸前に逮捕した。もう大丈夫ょ。ソレを伝えに来たの」
「リンデは?」
間髪入れズ問い返すジェリ。
「自供したわ。何もかも」
「そう…ソレは良かったわ」
「あれ?気にならないのか?」
ボストンバッグのチャックを締めるジェリに声をかける。ユックリと顔を上げるジェリ。何かが変だ。
「ドーナのコトさ。リンデのコトは聞いたのに。もしや…彼女は殺されるハズだったのか?」
僕は、自分で自分に言い聞かせるように下を向く。もしや…ふと顔を上げると怪しげな雰囲気が漂う。
「ねぇ一体何の話かしら」
「マッカ・ドールがオペを受けたのは、コイツが蔵前橋から出所してからだ。今、海外逃亡の準備をしていたな? マリレ、X2Kはコイツだ!」
音波銃を抜くマリレ。が、一瞬早くジェリのスタン音波ガンを喰らって崩れ落ち、涎を垂らして痙攣w
驚くべき早業でマリレの音波銃を僕の胸に当てるw
「バレちまったわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
徹夜続きだった捜査本部も今宵は店仕舞いだ。
「ラギィ。今回もお疲れ様ね」
「レイカ司令官。テリィたんのおかげです。テリィたんとマリレ、未だ戻って来ませんか?」
「きっと2人で何処かに御帰宅してルンだろう。こんな夜は飲みたいわ。私達も1杯どう?」
書類を手早くしまいながらラギィ。
「もちろん行きます」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
東秋葉原。縛られた僕の後ろで荷造りするジェリ。
「殺人罪を逃れるために、別の罪を犯して蔵前橋に身を潜めたのはお前だろ?」
「気づくのが遅過ぎょ。ヲタッキーズもホント、大したコトなかったし」
「うぅ…」
悶えピクつくマリレのメイド服から音波銃を盗む。
「もうじき警察が来るぞ」
「このメイドは、さっき連絡を入れたばかり。しばらくは、誰も異変には気づかない。気づいた頃には私は"リアルの裂け目"の向こうょ」
「逃げ切れない。顔も名前もバレてる。SATOはマルチバースの果てまで追うぞ」
マリレのスマホを見ながら鼻で笑うジェリ。
「顔も名前も次元も全部変えるわ。前にもやった。結構楽しいのょ?」
「リンデを操ったな?」
「奴の大親友であるマッカ・ドールが病気だと知って、コイツは使えると思ったの。後は簡単だった」
確かに良く出来てるw
「どうせリンデは刑務所が好きなのょ」
「リンデにX2Kのやり方を叩き込み、同じ手口で殺させた。手術着みたいに、全ての罪を彼女に着せたのか。良い計画だ。だが、失敗に終わった」
「いいえ。場所を変えてまたやり直すわ。ココまで近づいておいて、私を止められなかったのは、死ぬほど悔しいでしょ。どーやら今回のゲームも私の1人勝ちのようね」
ジェリは音波銃を抜く。
「おいおいおい!ジェリ、ココで音波銃かょ?君らしくないな」
「あら。私をわかってナイようね」
「いや。わかってるさ。君はシングルマザーに育てられた。母親は、金髪で美人だったが、君は愛されなかった。君が12才とかそのくらいの頃かな。母親は突然死ぬ。薬物の過剰摂取かな?それで、君は女子少年院に預けられる。君は許せない。君を1人残して死んで逝った母親を。スーパーヒロインを殺すのはその仕返しだ。遺体を寝てるように丁寧に配置スルのは、母親を愛していた証拠だ」
ジェリは…すっかり無表情になってるw
「テリィたん。そーゆー貴方は、死に魅了されているわ。貴方は、ヒロインの死に囲まれていると、なぜかワクワクするのでしょ?どうして?何か抑圧された衝動がアルからょ。ねぇ貴方はどれだけヒロインの死に近づきたいの?」
縛られてる僕と同じ目線まで屈むジェリ。睨み返していたら、僕のスマホが鳴る。ミユリさんからだ。
「余計なコトは言わないで」
音波銃を突きつけ、スマホを突き出す。
「もしもし…」
「テリィ様!やっと報告出来ます。テリィ様の心配は完全な妄想で済みました!」
「心配って…何だっけ?」
時間を稼がなきゃ。
「スピアの隠れファンを心配してたでしょ?結局、百合でした。ツインテのJKだったの!」
僕はジェリを睨みながら答える。
「そうか。ソレは良かったょ」
「ツインテ女子はチャーミングな子でした。とにかく!心配は御無用。終わり良ければ全てよしってコトです。テリィ様?」
「愛してるょミユリさん」
スマホを切るジェリ。
「もう言うコトは無いわね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アパートの階段をボストンバック片手に降りて逝くジェリ。肩にバッグを担ぎ、駐車場を横切る。プール付きのアパート。鉄扉を開け街頭へと出て逝く…
次の瞬間、窓を突き破りムーンライトセレナーダーが、同時に全扉、窓をこじ開け警官隊が殺到スル!
「テリィ様!」
「クリアだ。X2Kはいない。僕は平気だけど、マリレがヤバい」
「マリレ!マリレ、しっかりして。どーしたの?」
グッタリしたマリレを抱き起こすエアリ。
「テリィたん。無事でホントに良かった」
「ラギィ。ジェリがモノホンのX2Kだった。リンデを操ってたンだ」
「テリィたん達が戻らないから異変に気づいたの」
僕も拘束ロープを切られ解放される。
「しかし、ココに来たのが良くわかったな」
「ミユリさんょ。テリィたんが"愛してる"なんて言うのはオカシ過ぎるって」
「ソンなにオカシイかなw」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アパートメントではなくて、流行りのプール付きのタウンハウスと逝うらしい。
変身を解いたミユリさんとプールサイドで話す。赤い回転灯が水面に反射スル。
「テリィ様。スターボックス珈琲のリストレットshort2%ラテです」
「ありがと」
「教えてください。なぜテリィ様は殺されなかったのでしょう?」
熱いラテを1口含む。
「苦しめるためだ。計画を潰した僕への罰さ。また、新たな犠牲者が出るのを黙って見ていろ、と逝うコトだ。たまらないょ」
黙って僕の膝に手を置くミユリさん。僕はその手に僕の手を重ねる。水面に赤いランプが揺れている。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"スーパーヒロイン殺し"をテーマに、スーパーヒロイン専門の連続殺人鬼、捜査線上に浮かぶ怪しい容疑者達、次々と殺されて逝くスーパーヒロイン達、蒸気省の大臣、園芸技術者、外神田ER院長、連続殺人鬼を追う超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズ、敏腕警部などが登場しました。
さらに、主人公の元カノの隠れファン騒ぎなどもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、夜までインバウンドで賑わう秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。