待っている
背中ばかり向かせてばかりいないでさ、ここから出してよ。
背中に書かれた文字で君に呼びかける。
そうだよ、色鮮やかな花ぎれに指をかけて、ここから引き出してごらん。
目に飛び込んできた表に、背中に書かれた同じ文字で、ここにおいでと君を誘う。
開けてくれたということは、背中と表の文字が君の心に効いたということだね。じゃあ見せてあげる。扉の向こうで繰り広げられるドラマの予告状を。
この扉を開けると、もうそこはこことは違う世界。
ここは、君が知らないの世界もあれば、いつもと似通った世界もあれば、ここのどこでもない世界もある。
もしかしたら、もう何度も訪れた世界かもしれないし、本当にあった出来事かも知れないね。
本の世界は何度でも訪れてもいいのだから。
扉を開けたら、のどまで開けて小口をばらして奥の奥までおいで。天と地がひっくり返ることがあるかも知れないけれど。
君との好みが合わなかったら、そのまま閉じてもかまわないから。
怖じ気づくけれど続きが気になるなら、しおりを挟んで休憩したらいい。
再び会って、違った印象のぼくを見つけるのも愉しいかもね。
本の中のぼくたちは、どんな時の君に会っても、変わることなく、ここで待っている。