優しき勇者
主人公のアルが住んでいる大陸には、世界の東西南北の端に4つの祠があった。その祠には聖域があり、そこに足を踏み入れると異世界へ移動するという。その異世界は、誰も全貌を把握したものがいないという意味でアントラバーストと呼ばれている。
「……ってなワケでよ、俺らは〜を旅してるってワケ!」
「私たちは〜を諦めましたが、あなたであれば〜〜できるかもしれませんね」
「〜はおもしろかったよー!初めて〜なところに行ったにゃー!」
「…だから、僕は…を見つけるんだ。」
目の前に浮かぶのは広大な砂浜、群青の海、高い山嶺、険しい森林地帯。枯れた草花、飛ぶ白鳥、漂う雲、張る蜘蛛の巣。なんで懐かしさを感じるのか…。
声が聞こえる。「目覚…なさい。弱く優…のよ。あな…力を貸してあげ…う。そしてその手で…を…」
「…きて。起き…。起…ってば!」
なんだとつぜんうるさいなー…僕は気持ちよく空を旅してるってのに…
「起きてってば…。起きろー!」
目の前に広がっていた光景が急に消えさった。そしてかわりに見慣れた顔が目に入った。
オレンジ色の髪、大きなグリーンの瞳だ。目の輪郭がくっきりしてる。なんか怒ってるのかな?
「やっと起きた!」
僕はさっきの光景を思い出す。あれは一体なんだったんだろう?
「ねぇ、なにしてたの!竹を切りに行くんじゃなかったの!」
それにしてもさっきの女の人の言ってた力ってなんなんだろ…
「ねぇ、私心配したんだから!って聞いてる?」
体を揺さぶられる。けれども頭にはまだ靄がかかったまま…。
はっと目が覚める。たしかに幼馴染の言うとおり、僕は村の外れの竹林にいた。たしかあれはお昼だったはずだ。
「ん、もう大丈夫」
「アル、ほんとに大丈夫なの?」
こう声をかけてくるのは同い年のマリーだ。僕たちは大陸の中心の小さな村に住んでいる。
「ほんとにもう大丈夫だから」
「どーしちゃったの、林の入り口のところで立ったまま寝てたんだから」
「立ったまま寝てた…?」
「そうよ、あなた立ったまま寝てたのよ、それになんか光ってた」
「光ってた…?」
そんなはずはない、だって僕は夢を見ていたんだからーー
「なにか変わったところはない?どんな夢を見てたの?」
「あ、あぁ。もう大丈夫。なんか旅をしてた」
「旅?」
「多分、東西南北の祠なんだと思う」
「あー、あれね。人生で一度は行きなさいってやつ」
「そうそう、それだと思うんだ」
僕たちが住んでいる大陸には、あるとき、世界の東西南北の端に4つの祠ができた。その祠には聖域があり、そこに足を踏み入れると異世界へ移動するという。その異世界は、誰も全貌を把握したものがいないという意味でアントラバーストと呼ばれている。
この異世界にある礼拝堂に、大陸に住む大人は、人生で一度は必ず訪れなければならない。そうしなければ、罪が降りかかると言われている。実際に、訪れなかったものがいた国が1年間凶作になったり、洪水がおこって町ごと流されたり、村に雷がたくさん落ちたことがあるという。
もっとも、行かなければならないのは自分で行く能力のある人だけで、病人は行かなくてもいいみたい。また、そういった人たちを追放した場合は周囲の人たちに影響が及ぶこともない。ただし、その人は悲惨な死を迎えるそうだけど。
「その祠がどうしたの?」
「なんか、女の人の声が聞こえたんだ」
「女の人?」
「そう、それでなんか力を授けてくれたんだって」
「あなたほんとに力なんてもらったの?なにかできるようになったの?」
「なにかって言われても…」
「空を飛んでみたり、手から火を出してみたりってできないの?」
「いろいろって言われても…できるわけないよ」
「あたりまえでしょ、そんなことできる人がいたら怖いよ」
「それよりもそろそろママたちに戻ってきなさいって言われてた時間じゃない?」
「あっ、そうだ」
僕は思い出した。成人を迎える僕たちになにか大事な話があるというのだ。
「でしょ、だから早く戻りましょ」
「そうだね」
僕たちは村に戻っていった。