第13話 今年の夏も大変だった
「では今後についてじゃ、わしはこのまま大厄災まで表に出ない事にしようと思うておる、茜はその事を幻夜に伝えよ」
「かしこまりました祖父にはそのようにお伝えさせていただきます」
茜さんが普段のぽやぽやとは違うキリッとした表情で頭を下げている。
「次に詩織じゃな、お主の昇人の儀式についてじゃ」
織ねぇが「はい」と答え背筋を伸ばし居住まいを正す。
「既にお主も気づいておるだろうが儀式をする必要はなくなった、既にお主は鬼人を超え鬼神に到れるようになったおる、それは理解しておるな」
「はい、目覚めた時にそうなのではないかと」
「うむそれなら良い、それとな鬼神となる事はあまり勧めぬ、鬼神となりそれが定着してしまうと人の理から外れることとなる、それをゆめゆめ忘れるでないぞ」
「ご助言感謝いたします、しかとこの心に刻みます」
「まあ、そう気負わずに良い、鬼神へ至ることが出来る今なら鬼人にもなることは出来るわけだしの、それに鬼神となってもすぐに人の理から外れることはない、その分岐点はおのずとわかるであろう」
「はい」
織ねぇは再び頭を下げる。
「最後に比売神の娘怜よ、先程の話の続きとなるがその石榴の実はの一粒食せば今のお主ならば位階を1つ上げる事が出来よう」
「これをですか?」
「そうじゃ、お主の位階を上げる切っ掛け、それが神の供物を取り込む事なのじゃがの、普通ならの神酒を飲むことで上げるのじゃがお主はこの国の今の法では未成年じゃからの、まあどうするかはお主が決めればよいじゃろう、人のままでありたいか半神と呼ばれる領域に踏み入れるか、その先を目指し神となるか」
この石榴の実を食べれば俺は人ではなくなるということなのだろうか、今はまだ人で無くなるのは怖いとしか思えないけど、今回の織ねぇの様な事に対処するには備えとして必要なのかもしれない。
「その石榴の実は神の供物じゃ、位階を上げる以外にも神気や妖気に鬼気などを回復したり増やしたりも出来るでの好きに使うがよかろう、すまぬがそれを今回の事でのわしからの報酬とさせてもらう」
「いえ、過分な報酬ありがとうございます」
「それでは話は終いじゃ、お主らとはしばしの別れじゃ大厄災の時に再び見えることを楽しみにしておる、では息災での」
紅姫は立ち上がりそう言ってからテーブルから離れて歩いていった。俺たちは正座したまま頭を下げその後姿を見送った。次に頭を上げたときにはテーブルも湯呑も無くなっていて茜さんと織ねぇがいるだけだった。
「さてさて、お二人さん私達も寝直そうかね、じゃおやすみ」
「そうだね~、まだ朝までは時間ありそうだしね~、おやすみ~」
「ふはぁ、あくびが、茜さんに織ねぇおやすみなさい」
織ねぇと茜さんはそれぞれ座っていた場所から立ち上がったと思えばその姿を薄れさせ消えた。俺はその場で座りながらさあ寝るぞと考えながら目をつぶるとすぐに意識が遠のく事となった。
◆
さてここからは目を覚ましてからの事を話すとしようか。
酒飲みどもは予想通り朝に起きてこなかった、それはアヤカシ組も同様だったので再度集まったのは昼が過ぎてからとなった。それまでの間にお風呂に入りさっぱりしたり、黒狐姫ちゃんと親交を深めたりして過ごした。
黒狐姫ちゃんなのだけど、人化した姿は見た目は小学生でなんと自意識を持ってから10年くらいしか経ってないらしいのだ、それも九尾になった時に自意識を手に入れたのでそれまでの事はあんまり記憶にないらしい。
自意識を手に入れた時はどこかの山の朽ちた社で眷属のキツネたちと生活していたたようだ。その生活が終わったのは、約半年前に何者かに黒い杭を打ち込まれ意識を失い、再び意識を取り戻した時には黒翼に操られた状態になっていたとの事だった。
今後はどうするのか聞いた所、眷属たちが心配なので一度は故郷の山へと戻りたいみたい、だけどそこがどこなのかわからないのでできれば千手姫や迦陵に手助けしてもらいたいと言っていた。
そんな話をしている所にいち早く復活した千手姫と迦陵も話に加わり、二人は黒翼に一矢報いたい気持ちはあるけどすぐにどうこう出来なさそうだから、行方をくらました黒翼を探すついでに黒狐姫ちゃんの故郷探しを手伝う事で話はまとまったようだ。
そうこうしているうちに酒飲み組も起きてきて、昼食を済ませた所で話し合いとなった。まずは千手姫を初めアヤカシ組の今後についてだったけど、前述の通り黒狐姫ちゃんの故郷探しをしてその後は一度機会を見て俺たちに合流したいとのことだった。といっても俺たち学生組はほとんどの時間を学院で過ごすので用がある時は比売神家本家に来てもらうことで話は決まった。
次に星来さんと茨木さんそれと朱天の娘である椿姫は目的の土蜘蛛改め女郎蜘蛛を倒したことで依頼が完了した、そんなわけで一度関西の方に戻るとのことだ。夏休みも終わりに近づいているので、学生である星来さんは戻るにはちょうどいい時期というのもある。
椿姫と茨木さんは関西へ星来さんを送った後に、元々予定していた比売神本家へ行くみたい、その後はその時決めると言っている。
残るは俺たち神樹学院組は一度比売神本家へ行き残りの夏休みをのんびり過ごした後学院へ戻る事となっている。今年も夏休みはバタバタしていて遊べなかったなーと思っていたけど、少しは夏を満喫できそうではある。
話し合いの最後に昨夜の夢の話になった、織ねぇが鬼神に到れるという話はお祖父ちゃんや幻夜さんも驚いていた。あと俺の持つ石榴の実に感してはあえて話さなかった、その事は織ねぇと茜さんに了承済をとっている。
ただでさえ狙われやすい立場なのに、様々な効能のある神の供物である石榴の実を持っているなんて知られたら今まで以上にやばい事になるのはわかっているからね。それでもいつかはバレることになると思うけど、それを自分から早める必要はないだろう。
そういうわけで話し合いは終わり、翌日にはみんなして山を降りそれぞれの目的のため別れる予定だ。
今年の夏は本当に色々あった、少しでも何かがずれていれば織ねぇが死んでいたと思うと今でもゾッとする。助かったのはマリナさんが作った雫のおかげと考えると複雑な気持ちになるけど、学院に戻ってマリナさんには感謝の気持を伝えないとな。
あとはここまで着いてきてくれた桜さんと楓には感謝しかない、楓が居なければ雫も手元になかっただろうし俺自信もどうなっていたかわからない。二人には何か手助けできることがあれば頼って欲しいを伝えるつもりだ。
戻ったら数日はなんとしても夏休みを楽しませてもらおう、桜さんと楓には俺の実家に泊まって貰う予定なので、みんなでプールに行くのも良いし、ショッピングをするのもいいだろう。
俺はあくびを一つすると虫の泣き声を聞きながら眠りに落ちた。




