第07話 黒い九尾
一方朱天とお祖父ちゃんに織ねぇの方は、特に会話らしい会話もなく戦いが繰り広げられている。朱天は六角棒を巧みに使い攻撃するも多数の手に邪魔され有効打まで行けないようだ、それはお祖父ちゃんも織ねぇも一緒でむしろお祖父ちゃんも織ねぇも素手な分、千手姫の手に掴まれないようにするのでいっぱいいっぱいという感じになっている。
千手姫は最初の場所から一歩も動かず扇子で己を仰ぎながらほほえみを浮かべている。正直な所朱天が単独で手も足も出ない状況は信じられないでいる。本人曰く鬼神となって酒吞童子の時よりも力がましているとの事らしい、そんな朱天の攻撃をそれもお祖父ちゃんと織ねぇも交えての攻撃が通じないというのが信じられないでいる。3人は一度仕切り直すように距離を取る。
「クカカカカ、何じゃアレは完全に遊ばれておるの」
「はぁいやんなっちゃうね、完全に私が足手まといだよ」
「ふむ詩織殿は我が主殿の方に回ってもらったほうが良いかもしれぬの」
無言でうなずくお祖父ちゃん。
「わかった、こっちは任せる、あっちもあっちで大変そうだけどね」
織ねぇが離脱してこちらに向かってくる。
「またせたの」
「あのような未熟者は邪魔なだけよ、妾にとってもそしてお主ら二人にとってもの、さてそろそろ本気で来てたもれ」
「クカカカカ、さて祖父殿よ我らも本気で行くとしようかの」
お祖父ちゃんは頷くと一言「鬼人化」と呟いた、そうするとお祖父ちゃんの額の中央から一本のツノが出現する、それと巌のようだった体が何故か細くなり数秒という時間で細マッチョで顔が渋い感じに変わっていた、えっ? なにこれなにこれ、初めて見たけどなんか怖いわ。
そして姿の変わったお祖父ちゃんと朱天が連携して攻撃し始める、千手姫は相変わらず笑みを絶やさないで対処しているが、先程とは違い攻撃をかわす様になっている。
そして織ねぇが合流した俺達の敵である黒い九尾へと視線を移す。
前衛を身長よりも長い朱色の槍を持つ桜さんと薙刀を持つ楓が担当し、後衛として咲夜さんが矢を放っている。咲夜さんの矢だけど、修練の成果で今では神気だけで矢を作れるようになっていて低燃費化している、ただしアヤカシ特攻みたいな感じとなっている分物理的なものには弱くなっている。
九尾は複数の火球をこちらに飛ばし攻撃してくるのだけど、俺の結界で守られているみんなに今のところダメージはない、かといってこちらも対して痛撃を与えれているわけではない。尻尾を刀や槍などに変化させことごとくこちらの攻撃をいなしている。
そんな中、織ねぇが不意をつくように上空から踵落としを叩き込んだ、九尾は「ギャン」と叫び大きく後ろに跳躍した。
「グルルルルル」
唸る九尾は先程よりう多い火球を出現させやたら滅多こちらに打ち込んでくる。みんなして火球を躱しまるで弾幕ゲーだなーと思いながらずっと感じていた違和感について考える。
九尾というアヤカシは元は普通の狐が年を得て少しずつ霊力をため尻尾を増やしていくモノだ、普通は2尾となるだけでも結構な年数がかかるようなんだ、九尾となると数百年はかかるのだろうと思う、実際はどれくらいなのかはわからないけど。
何が言いたいかというとそれだけ年数を生きたアヤカシが人間の言葉を理解できないものだろうか、ましてや喋れないなんて思えないのだがあの黒い九尾はただの獣と変わらないように思える、火球を使っているから普通の獣ではないのだけどなんだかチグハグに思えた。
多分突破口はそのチグハグな状態にあるのではないかなと考え俺は楓を呼ぶことにした。
「楓、一度下がってこっちに来てくれないかな、織ねぇは楓の穴を埋めてください」
「おーけー、楓ちゃんは怜ちゃんの所に下がって、こっちは任された」
「わかりました詩織様、桜ちゃんの事お願いします」
下がってきた楓に早速先程の仮説を伝え九尾を見てもらうことにした。
「九尾を見てもらいたいのできるだけ詳細に、お願いできるかな」
「はい、喜んで!」
楓がメガネを外し九尾を凝視し始める、九尾は見られているのがわかったのか分からないが一度だけこちらを見てあえて見やすいようにするようにその場に留まり、桜さんと織ねぇには尻尾で対応している。咲夜さんには攻撃を牽制するように攻撃は控えめにしてもらっている。
「見えました、何か黒い杭? のようなものが尻尾の付け根辺りに打ち込まれているみたいです」
一分くらい経った頃に楓がそう教えてくれた、そしてそのまま周りをぐるりと見回す。
「他のアヤカシにも同じようなモノが女郎蜘蛛を中心に打ち込まれているようです、その杭はアヤカシを鎖で繋げているようにも見えます」
「その杭って抜くことは出来そう?」
「わかりません、ですけど抜くよりも浄化の方がいいような気はします、えっと少し失礼しますね」
そう言って楓は俺の手を握り込んでくる。それと同時に俺の目にも楓が言っていた杭とソレをつなぐ鎖のような物が見えた。
「これがそうなのね、ありがとう楓」
「お役に立てたようで何よりです、それでは前に戻りますね」
繋いでいた手を名残惜しそうにひとなでしてから九尾の方にかけていった。なんとなくカラクリはわかった気がする、俺は全身に神気を滾らせ神器を呼び出す、不思議なことだけどまだ杭の位置は見えている。俺は全力で神器に神力を流し込む、ソレに合わせて神器についている鈴がチリンと音を鳴らす。
「織ねぇ、桜さん、楓、お姉様、少しだけでいいので九尾の動きを最小にとどめてください、それと九尾あなたも全力でその杭に抗ってください」
了承の返事とともにみんなが九尾の暴れる尻尾に対して攻撃を加え始める、九尾は俺の神器から逃げ出そうとする体をその場に留めるようにしているのかブルブルと四肢が震えている、動こうとする力ととどまろうとしている力が拮抗しているのだろう。
俺は神器を両手で持ち駆ける、正面に見える九尾の顔が歪む緩むを繰り返している、俺はそのまま真っすぐに走り、結界を階段状に形作ると一気に駆け上がる。九尾の顔が俺の姿を追うように上を向くがソレを無視して結界を登りきり飛び上がる。
狙うは尻尾の付け根に見えている黒い杭、俺の行動を邪魔するように尻尾が俺を弾き飛んばそうと向かってくるが、咲夜さんの攻撃で逸らされる。
「祓え給い、清め給え、神ながら、守り給い、幸せ給え」
言霊に神気を乗せ神器を杭へと振り下ろす、神器は杭に触れると一切の抵抗なく杭は消え去った。
「グギァァァァァァ」
九尾はそう叫び俺を跳ね飛ばし暴れ始める、みんなして様子を見るために九尾から距離を取る、しばらく暴れ続けた九尾はふいに電池が切れたおもちゃのようにピタリと止まるとズドンという音とともに横倒しに倒れた。
それと同時に、この世のものとは思えない叫びが広場に響き渡った。




