第03話 柘榴の子
夜は晩ごはんを頂き、2度めのお風呂に入り就寝となった。色々気になることはあるけど3日後にならないと動きようがないのかもしれない、一応明日は儀式の場所へ視察に向かい周りを調査する予定だ。後は俺が所々に結界を張るつもりである。
色々とまとまらない考えを布団に入りながら考えていたら、もうみんな寝静まったのか虫の音以外何も聞こえなくなっていた。
俺は無理やり寝るために目を瞑る、リーンリーンという虫の奏でる音が聞こえる、何度か寝返りをした所で起き上がる、なんだか眠れそうにないわ。部屋をそっと抜け出し縁側に腰を下ろす、月の光で意外と明るい。
「朱天起きてる?」
「ふむ眠れぬか」
「まあそんな所」
俺の横に白一色の着物姿の朱天が現れる。
「何その格好」
「何と言われてもの、夜着としか言いようがないの、似合っておろう?」
「まあ、似合ってはいる」
しばらく無言で月を眺める。
「朱天ってここのことどう思ってるの?」
「ふむ、どうとは?」
「源頼光って酒呑童子に神酒を飲ませて首を切った人でしょ、その子孫って気にならないのかなって」
「クカカカカ、そのような昔のことなど気にしておらぬは」
「そんなもの?」
「まあの、当時のわしは悪虐の権化のような存在だったしの、わしを恨むものはおおかったであろうの、お主も調べて知っておろう」
「まあ確かに調べたけどさ、朱天がヤマタノオロチの血を引いてるとかって本当なの?」
「さあてな、それに関してはわしにはわからん事よ、特に今の姿となって存在自体が替わったからの」
「そっか……」
「さあて、主殿はそろそろ眠るがよかろう、明日も早いのであろう」
確かに明日は早いしやることがたくさんある、朱天と話したことで少しだけ気分がはれた気がする。
「そうだね、無理にでも寝ることにするよ、ありがとうね朱天」
「気にするでない、さてわしも休むとしよう」
朱天はそれだけ言うと消えた、依代に入り込んだのはわかった。
俺はもう一度月を見て部屋に戻ると布団に入り込み、数秒と立たずに眠りに落ちた。
◆
これは夢?
多分隠れ里の上空だと思う、その場所で俺は地上を見下ろしていた。
俺たちが泊まっている村長の屋敷の奥にある長い階段を登りきった所に建つ一件の屋敷、多分紅姫がいる所だろうか、そこが燃えていた。
何者かと対峙している朱天が見えた、他には鬼の姿をした二人の男性が朱天と並び立つようにいたその顔はおじいちゃんとその弟の幻夜さんの面影がある。そして俺はソレを見つけてしまった……、片腕がなくなり血まみれで倒れ伏す折ねぇをそしてその傍らに呆然と立ち尽くす俺の姿を。
何があったのか、いや何が起こればこうなるのか、夢の中の俺は織ねぇにすがりつくも織ねぇは既に事切れているのか動く気配はない。
そして朱天の方にも動きがあった、対峙していたモノが増えている、腕を多数周りに浮かべるモノ、黒くて尻尾が9つある狐、腕が4つもある偉丈夫、和服の女性で背中から8本の蜘蛛らしき足を持つモノ、黒い翼を持つ仮面を被った男か女かもわからないモノ。
それ以外にも朱天の側に人が増えている、白いツノを持ち短髪の黒髪に赤いメッシュの少女、青色のツノに群青色の髪の着物の美女、陰陽師の格好をした黒髪の少女、いつの間に来たのかは分からなかった。
だけど、これはダメ、この未来はダメだ、そう思うと同時に目の前の風景が霧に包まれる。何も見えない、何も感じない、なにも───。
いつの間にか目の前には柘榴の木が現れた、ゆっくりと近寄るとザクロの実が1つ俺の前にゆっくりと落ちてきた。なぜ? と思う間もなく手野平で受け止める。
「いまのは未来の1つの可能性の中で最もお主にとって最悪な未来」
「紅姫?」
「わかるかえ」
「鬼子母神で柘榴とくればそれしかね、それよりも先程のはまだ確定していない未来という事でいいのかな」
「それで良い」
「あれが最悪の未来、じゃあ最善は……」
「さて、わらわにはわからぬ、されど1つ助言をやろう、そうよな雫と言えばわかろうかの」
「雫……わかりました、ご助言ありがとうございます」
「それではの、わらわはしばし姿を消す、あれらはわらわが目的であろうからの」
「それはいったい」
「今は知る必要はないであろう、全てが終わった後に再び見えよう」
そして周りが再び霧で覆われ、柘榴の木は俺の目の前から消えただけど俺の手には石榴の実は残ったままになった。
「その実はお主が持っておるがよい」
その声を最後に俺の意識は闇に落ちた。
◆
そして目覚めた時には手に持っていた石榴の実は無くなっていた、先程の事は本当にあったことなのだろうか、分からないがただの夢だったとは思えない。とりあえず情報を共有しておくほうがいいだろう。
「おはよう怜、どうしたのそんな顔をして大丈夫?」
横で寝ていた咲夜さんが俺の顔を見てそう言ってきた。一体俺はどんな顔をしていたのだろうか。
「大丈夫です、後で何があったかみんなに話そうと思ってます」
「そう? 無理だけはしないでね私はあなたのお姉様なのだからね」
咲夜さんはそっと俺の頭を撫てくれた。
「はい、お姉様」
俺は咲夜さんの手の感触に心地よさを感じた。




