第01話 夏の始まりと虫の知らせ
「織ねぇ!」
俺は自分の声で目を覚ました。夢……を見ていた気がするけどどんな夢だったのか思い出せない。喉がカラカラになっていて寝汗がすごい、Tシャツが汗で背中にくっついていて気持ち悪い。
時計を確認するとまだ3時を過ぎたところだった。だけどもう一度寝れそうにない、起き上がり周りを見ると咲夜さんが寝ているのが見える。とりあえず部屋に備え付けてある水差しからコップに水を注ぎ一杯のむ「はぁ」と声が自然と出てしまった。一息ついた所で俺は咲夜さんを起こさないようにバッグから着替えを取り出してお風呂に向かうことに。
今いるここは比売神家本家の屋敷にある離れだ、実は比売神家本家の敷地には裏の山から湧き出る温泉が引かれている、かけ流しになっているのでいつでも入ることが出来るのだけど、結構歩くのだけは面倒くさいんだよね。
この温泉室内にはなく露天風呂になっているという事と女性専用となっている。普段は屋敷内にある内風呂を使うのだけど、時間が時間なので沸かしてもうのも悪いしすぐに汗を流したいので今回は温泉を使うことにした。
温泉の脱衣所に入ると先客がいるようでカゴの1つは使われていた、こんな時間に誰が使っているんだろうか、俺も手早く衣服を脱いでカゴに入れてタオルを片手に、仕切りを超えて露天風呂に向かう、そこにいたのは織ねぇだった。
「おっ、怜ちゃんおはよう、この時間に温泉来るなんて珍しいね」
「おはよう、織ねぇはいつもこの時間に起きてるの?」
「うんにゃ、今日はなんだか目がさえちゃってね」
「そうなんだ……」
俺は一度かけ湯をしてブラシで髪をすく、すいたブラシには抜け毛が付いているので回収しておく、おわかりのようにマリナさんへ渡すためだ。一度湯船に入ったほうが良いのかもしれないけど、かけ湯で流しても汗がまだ張り付いている気がするので先に髪と体を洗った。
湯船に浸かると朱天が隣に現れた。
「はぁー気持ちいい、朝から温泉も良いものだね」
「そうだね……、怜ちゃん何か相談があるなら聞くよ」
「あー私そんな顔してる?」
「顔というよりも雰囲気がねそんな感じだよ」
自分じゃわからないけど、織ねぇにはわかってしまった感じか。俺は湯船から立ち上がりお風呂の縁に腰掛け茹だっている頭と体を少し冷やす。織ねぇもお風呂の縁に腰掛けている、朱天は我関せずと言う感じで温泉に浸かったままだ。
俺は今朝あった覚えていない夢を少しでも思い出すようにしながら話し始める。
「夢を見たんです、けどあまりおぼえていないんです、ただ織ねぇが何かと戦っていて負けて、ソレで……」
「そう、なら気をつけないといけないね」
「えっとこんなのでも信じるの?」
驚いて織ねぇを見るとなんだか真剣に考えている。
「まあね、怜ちゃんのその夢は虫の知らせってやつじゃないかな、それに私も最近嫌な感じをずっと感じてるんだよね」
「それってやっぱりおじいちゃんの実家が関係あるのかな」
「そうだろうね、まあ何かがあるという覚悟さえ持っていればなんとかなるでしょ」
「朱天は何も感じない?」
「ふむ、残念ながらわしは主殿のような予知めいた物は持っておらぬのでな」
「そっか」
「じゃが心配なら主殿の神気を込めた物を渡しておけば良かろうて」
「そうか、織ねぇ後でお守り作るから持っててもらっていいかな、気休めにしかならないかもしれないけど」
「怜ちゃんありがとうねお願いするよ、もうちょっと温まってから上がろうか、朝日も顔を出してきたようだしそろそろみんな起き出してくるでしょ」
そう言って織ねぇは湯船にはいり俺ももう一度入る、いつの間にか辺りは明るくなり始めていて正面に見える山から朝日が顔をのぞかせていた。
◆
お風呂から上がり部屋に戻ると咲夜さんはもう部屋にいなかった。俺は急いで巫女服に着替えて朝の鍛錬場へ向かう、鍛錬場と言っても去年と同じ様に野山を走るわけだけどね。
出発地点に行くともうみんな揃っていた。今年のメンツは去年の俺や咲夜さんと明海ちゃんに織ねぇに加えて、真咲桜さんと斉穏寺楓さんが加わっている。俺たち比売神組は去年で慣れているのだけど、桜さんと楓さんもそんな俺達に普通についてこれているのはすごいと思う、去年の俺や明海ちゃんの事を考えると優秀だな。
野山を駆けた後は、朝ごはんなのだけどこれはかなり軽めになる、大体がおにぎり1つにお味噌汁と漬物だ、流石に走り回った後にガッツリは食べれないからね。そして食事が終わると滝行になるがこの辺りももうなれたものである。
その後は一度お風呂で汗を流し昼ごはんになる。その後は俺と咲夜さん明海ちゃんの3人は祝詞や舞の練習となるので別行動、織ねぇと桜さんに楓さんは鍛錬場でおじいちゃん相手に修行を付けてもらっている。
去年に比べると俺たちも成長しているので結構軽くこなすことが出来るようになっていた。そして8月になって少し経った頃おじいちゃんの実家へ向かう時が来た。相変わらず嫌な予感は続いている、おばあちゃんやおじいちゃんにも相談したけど実家行きは中止にはならないようだ。
気休めにしかならないとは思うけど、織ねぇの分だけではなく全員分のお守りを作って渡しておいた、効能としては何かが起きた時一度だけ自動で結界が張られるようになっている、かなり本気で神気を込めたので頑丈さだけは自身がある出来になった。
そんなわけでおじいちゃんの実家へと向かう、織ねぇと明海ちゃんは何度も行ってるようだけどね、桜さんと楓さんは一緒に行っても良いのか気にしていたけど、特に反対する理由も無いということでご一緒することになった。あと望ねえさんだけど今年は色々とお仕事が入ったようで急遽不参加になっていた。
望姉さんがいれば俺のずっと感じている嫌な予感の正体を知ることが出来たのかもしれないなと思いながら、おじいちゃんの実家へ向かう車に乗り込んだ。




