第01話 人の顔見て気絶とは何事だ
生徒会室の窓から吹いてくる春らしい暖かい風が気持ちいい。
今頃は入学式が行われているのだろう、入学式をやっている会場には中等部生徒会長として咲夜さんが出席している。残りの高等部中等部生徒会役員は今こうして生徒会室でお仕事だ。仕事って何しているのと言う話だけど、新しく生徒会に迎える人物の選定をしている。
二人選ばないといけないのだけど「今年は逸材が多いみたいですね」と明海ちゃんの言葉が示すように今年はいつもの年よりも逸材と言える人が多いらしい。
「そうだね、普段ならお屋敷にでも囲い込んで大事に大事に育てられるような子達もいるみたいだからね」
織ねぇが言うように、写真を見ただけで箱入り娘と言えるような子が多いように思える、そして能力もいつもより高い子が多いのだとか。そんなわけで選別に難航しているのだ。
「能力は高くても性格まではわかりませんからしばらくは様子見でしょうか」
この人は新しく高等部の副会長に就任した城島結衣さん。ふわふわウェーブでおひさま色の髪をしていて、いつも眠たそうな表情を浮かべている、なんとも可愛らしい方だ。
「咲夜さんが戻ってきたら気になる子がおったか聞いてみましょか」
そして相変わらず京都弁の美玲生徒会長。
「さてと少し休憩しましょうか」
去年の中等部副会長で今年は高等部の書記となった雪菜さんの一声で休憩することにした。
「それではお茶でも入れてきますね」
「怜ちゃん私も一緒にいくよ」
俺と明海ちゃんは休憩室でお湯を沸かしお茶の用意をして、生徒会長室に戻り皆の前にお茶を置いていく。一口お茶を飲んだ後俺は少し体をほぐすように伸びをして、気持ちいい風が吹き込んでいる窓へと近寄り外を眺める。
窓からはグラウンドを見える、なんだか人が集まっているようだ、あれは多分入学式を終えた新入生の集団だろう。今から学校案内か教室への移動をするのだろうか。
だけどグラウンドからはそんな俺の考えを否定するような声が聞こえた。
「なんでこんな化け物がここにいるんですか!」
声の方へ目をやるとそこには人化をしている朱天がいて、それに相対するようにどこから持ってきたのか竹箒を構える一人の生徒と、それを遠巻きに見ている生徒たちの姿が見えた。あの声が聞こえたのか、みんながなになにと窓際に寄って来てグラウンドを覗き込む。
「あれは……あの子見えているのかもね、怜ちゃん結界おねがい」
織ねぇが窓から体を乗り出しつつそう言いながら飛んだ。
「えっ、ちょっと織ねぇ何してるの!」
俺はとっさに織ねぇの落下位置へと色付きブロックのような結界を複数作り上げた、織ねぇはその結界を足場にして下へ下へと降りていき着地。
それを見届けて俺と明海ちゃんは生徒会室にいる方々へ一言断りを入れて、普通に階段を下り一階で靴を履き替えグラウンドに向かう。まず見えたのは不敵な笑いを浮かべる朱天とその前に立つ織ねぇ、それからそれと対峙するように少しへっぴり腰気味で竹箒を両手で構える女の子、あとはそれを離れた位置から見ている生徒の群れ。
「な、何なのよこの学校は、なんでこんな化け物が普通に歩いているのよ!」
「化け物ねー」
「それにあなたも何なのよ、なんでそんな、そんな───」
「それ以上はストップだよ、あなたすごく見えすぎてるようね」
織ねぇが少しばかり強めに殺気を飛ばしたのか、少女は言葉を途中で止め震えている、なんだか泣いているようにもみえる。こんな織ねぇ見たこともないしやり過ぎな気がするけど一体どうしたんだろうな。それに見えすぎるというのは……よく見ると少女の足元にはレンズの割れた眼鏡が落ちている。
「織ねぇも朱天も新入生相手に何をやってるの」
俺は明海ちゃんと一緒に新入生の輪を通り抜け3人に近寄っていくと、少女は一度びくりと体を震わせた後、恐る恐るという感じで俺の方へ顔を向けた。
「……ぴゃあっ!」
こちらを見た少女は変な声を出した後、感情が抜けたように無表情となり、ぐるりと目が回り白目となったと思えば膝から崩れ落ち倒れた。いやまて人の顔見て気絶するとか何なんだよ、それに白目になるとか怖っ。
一度後ろを振り返っても新入生が何事かと遠巻きに見ているだけだ、やっぱり俺を見て気絶したのだろうか。途方に暮れて回りを見回すと織ねぇが呆れたような表情で天を仰いでいて、朱天は少し真剣な目で倒れた少女を見ている。
「怜ちゃん……」
「いや、まって私何もしてないよね、何がどうして気絶したのかわけがわからないんだけど」
どうしたものかと再び少女に目をやると腰元が水たまりになっている、えーもしかして漏らしちゃったのか? とりあえず保健室にでも連れて行ったほうが良いのかな。
「あの、すみません通してください」
そんな声が聞こえてきたのでそちらを向くと、一人の生徒が新入生の輪から抜け出しこちらへ歩いてくる。その少女も制服とリボンの色から新入生だと分かる、わざわざここへ向かってくる事からこの倒れている少女と関係があるのだろう。
「あの先輩方すみませんこの子は霊視過敏症なんです、そちらの背の高い方を見た時に遮霊メガネが壊れてしまって予備を持ってきたのですが」
「やはりそうであったか」
朱天はゆっくりと倒れている少女に近寄り、落ちているメガネを拾い上げて手に包み込んだ、再び手を開いた時にはメガネが治っていて、つるの部分が5色の組紐で巻かれている。そのメガネを予備を持ってきたと言う少女に手渡す。
「こちらを使うが良かろう、元の物やそちらの予備の物よりは性能を良くなっておる」
「えっ、あ、はい、ありがとうございます」
ついで朱天は気絶している少女を抱き上げた。
「主殿この者どこへ連れていけば良いかな」
「えっと、とりあえず保健室に行こうか、それと君はこの子の知り合いみたいだし、この子の着替えなんか持ってきてもらえると助かるかな」
「はい、そうします」
ちらりと少女の濡れたスカートと土のシミを見たあと、朱天から受け取ったメガネを気絶している少女にかけるとこちらに一礼して走って行った。
「ここの後処理と会長への説明は私と明海で受け持つから怜ちゃんはその子をお願いね」
「わかりました、織ねぇと明海ちゃんここの事はお願いします、じゃあ朱天行くよ」
少女をお姫様抱っこした朱天と俺は、織ねぇが大きな声で集まっている新入生たちに声をかけているのを横目に保健室へ向かい歩き出した。




