閑話 星宮マリナ
「星宮マリナの3分れんきんじゅつー、わーぱちぱちぱち」
誰も居ない錬金室からこんにちは、最近めっきり……最初から影の薄いマリナです。今日はそんな私がサークル宵の明星が確保している錬金室であるものを錬金しようと思います。はいそこ今盛り上げる所ですよ。
うんまあ良いでしょう、私の目の前には錬金鍋もしくは魔女の釜と言われるいわゆる物語でよく見かけるツボみたいなあれが鎮座してます。まずはそこに浄水を注ぎ込みます、ドバドバーっと注ぎ込みます、はいこれくらいでいいですね。
そして取り出したるは……怜さんの抜け毛を集めたものーちゃんちゃらららー、ちゃんと抜け毛なら良いと許可は貰ってるから通報しないで。数にして三百本くらいはあると思う、毎日毎日怜ちゃんの制服についている抜け毛を少しずつ 少しずつ拾ったり、明海さんにお願いしてお風呂前のブラッシングで出た抜け毛を貰ったりしたこの一年、ついに時は満ちた。
えっと、酸素65%、炭素18%、水素10%……、これ以上は危険ですね冗談ですよ。用意した材料を慎重にドバドバーと入れるあくまで慎重に、そしてかき混ぜ棒でぐーるぐるーるぐーるぐーる、次にかすかに神気の残っている怜さんの髪の毛をドバドバーと入れてまたぐーるぐーるぐーるぐーるとかき混ぜる。
そしてもう一つ今度は瓶詰めにしている咲夜さんの髪の毛を用意する、この髪の毛は全部入れるのではなくて少しずつ調整して入れないといけない。それにしてもこうぐるぐるしているとついつい言いたくなる言葉がある。
「ねるねるねるねは、ねればねるほ───」
そんなタイミングで部屋の引き戸がガラガラと言う音を鳴らしながら開かれた。
「おねえさま、それ以上は危険で危ないです!」
そう叫びながら突撃してきたのは、指輪を交換した後輩のミレイ・由良木。そして私はそのタックルをもろに腰に受けた。その衝撃で手に持っていた咲夜さんの髪が瓶ごと鍋に落ちる。
「「あっ……」」
もくもくと煙が登り始める、私の1年の苦労があぁぁぁ。ミレイの襟首を両手でつかみガクガクと揺さぶる。
「ミレイ、いつも言っている、急に抱きつくなと」
「おーねーぇーさーまーやーめーてーくーだーさーいー」
ミレイから手を放し魔女の鍋に向き直る、煙はまだ登り続けているけど爆発はしなさそうだ、仕方がないとりあえず混ぜる。瓶くらいは拾いたいけど既に手遅れ、今さら鍋から拾い上げることは出来ない、もう瓶ごと全部分解されている、魔女の釜とはそういう物だ。
ぐーるぐーるぐーるぐーる、ミレイめいつかグールにしてやろうか。ぐーるぐーるぐーる……少しずつ煙が減ってきた、ぐーるぐーるぐーるぐーる、よしよし煙が消えた、ぐーるぐーるぐーるぐーる、液体が少しずつ透明になってくる。
しばらく混ぜ続けているとボフッと一度煙が上へ吐き出された、完成なんだけど完成のハズなのだけど鍋にあった液体が消えて一本の小瓶が鎮座しているその小瓶の中には少量の液体が入っているのがわかった。慎重に小瓶を取り出し机に置く。杖を取り出そ杖の先を小瓶に触れさせる。
「───────────────鑑定」
できて……る?
「お姉さまどうでした?」
「出来てる、謎だけど」
「私のおかげって事ですね、えっへん」
「調子に乗らない、成功したからいいけど普通なら失敗……、いえ作りたかったものと違うものができているから失敗?」
「出来ているなら成功でも失敗でもいいじゃないですか、それでそれって結局なんなのですか?」
「雫」
「えっと……それって!」
「それ以上は言っちゃ駄目」
ミレイの口に両手の指でバッテンを作って止める、結界は張ってるけどセキュリティーは万全じゃない。そっと小瓶に杖を向ける。
「──────────────強化」
続けてる。
「──────────────封印」
これでよし、こうしておけばよっぽどの衝撃でもなければ割れることはないし、私以外に開けることはできなくなった。
「それでミレイは何か用があったの?」
小瓶のくびれ部分を紐でくくり首から下げる。
「そうでした、そろそろご飯の時間なので呼びの来たのでした」
「そう、もうそんな時間だったの」
「そうなのです、それでは行きますかお姉さま」
「そうだね、ぐるぐるしすぎてお腹が減っている」
錬金室から出て鍵をかけるとミレイが腕に抱きついてくる、そのままサークルの集まっている建物から出て寮へ向かって歩き出す。
星読みで占って、神気の残っている髪を使い錬金して出来たのがこの雫だった、近いうちに使う事になるのだと思うけど……また怜さんと咲夜さんの髪の毛を集めないといけないのは憂鬱だ。




