第07話 観覧車での出来事
朝の冷たい空気が頬を撫でる、隣には咲夜さんが寝ている、しばらくその寝顔を眺めてエネルギーをチャージする。いつまでも見ていられる気がするが俺はある目的のためそっと寝床から抜け出す、寒い。適当な上着を羽織り部屋を見回す……あった。
クリスマスプレゼントを見つけた、俺はそのまま不審者がいないか部屋を見回すがいないようだ。部屋を出て他の部屋を見てみても誰も居ない、望姉さんの部屋は鍵がかかっていて開けられないのでここは良いだろう。
階下に降りると母さんと父さんが帰ってきていた。
「母さんに父さんも帰ってきてたの」
「おはよう、夜中に帰ってきたのよ」
「おはよう、そうなんだ、それより不審者見なかった?」
「不審者って何を言ってるのよ」
「えっと、寝る時に知らない人は出られないようにする結界を張ってたんだけど、誰も出た痕跡がないしどこかに隠れてないかなって」
母さんが少し訝しげな表情を浮かべている。
「おじ様おば様おはようございます、怜もおはよう」
咲夜さんが起きてきたようだ。
「お姉さまおはようございます」
「それで怜は何の話をしていたの?」
「それがですねお姉さま、毎年毎年クリスマスプレゼントを置いていくサンタクロースという不審者を捕まえようと結界を張っていたのですが捕まえられなかったみたいで」
「えっ」
母さんと咲夜さんがお互い目配せをしている、何かあるのだろうか、まあいい。
「朱天は見なかった? 真っ赤な服を着た老人だとおもうんだけど」
「ふむ、わしは何も見ておらぬぞ、見たものと言えば夜中に帰ってきた父君と母君くらいなものだの」
そうか、捕まえられなかったか、来年はもう少し結界を調整したほうが良いかもしれないな、入ってきた事も分からなかったし。
「えっと怜はサンタクロース捕まえてどうしたいの」
「そのですね、毎年毎年筋トレグッズを置いていくじじいに一言文句を言ってやろうかと、小学校の頃の友達はゲームとかおもちゃとか貰っているのに、なんで筋トレグッズなのかって」
「そ、そうなんだ、怜はその、純粋なままでいてね」
「ん? えっとありがとうございます?」
「ほら二人共ご飯にするから顔でも洗ってきなさい」
「はーい、お姉さま行きましょ」
洗面所へ行き顔を洗い化粧水と乳液それと日焼け止めを付けてダイニングへ戻る。今日は朝ごはんを食べたら咲夜さんとお出かけだ。
「そうだ、朱天昨日のケーキ残ってるから食べてね」
「ふむ、ありがたく頂くとしようか」
冷蔵庫を開けてケーキを取り出し食べ始める朱天を横目に、俺と咲夜さんは朝食を食べる。
「「いただきます」」
母さんと父さんはもう既に朝食を食べ終わっているようでリビングでテレビを見てくつろいでいる。朝食はご飯にお味噌汁とレタスに目玉焼きと家のオーソドックスな内容だった。
食事を終えて食器を片付け部屋に戻り着替える、今は雪も降っていなくて積もってもいないようだけど寒いので暖かめの装いだ。中はヒートテックのシャツを着込み上にはゆる袖のパーカーとジーンズ姿だ、ちょっと子供っぽいかもしれないけど年相応だと思う。そして咲夜さんは膝上ワンピースに黒いタイツを履いた姿だ、ちょっと大人っぽくて素敵だ。
「お姉さますごくお似合いですよ」
「ありがとう、怜もかわいいわよ」
「そうですか? 少し子供っぽい気もしますけど」
「それも合わせてかわいいと思ったのよ」
それって褒められているのだろうか……、そういえばクリスマスプレゼント開けてなかったなと思いテーブルの上に置いたままの袋を手に取る。去年は鉄アレイが入っていた、一昨年はハンドグリップが入っていた、今年は何が入っているのだろうか。
さっそく開けてみたところ中にはピンク色のマフラーが2つ出てきた、一緒について来たメッセージカードにはメリークリスマスと言う文字と一緒に俺と咲夜さんの名前が書かれている。とりあえず筋トレグッズじゃなかった事に安堵した。来年は捕まえてもひっぱたかないであげようと思う。
さっそく咲夜さんに1つ渡しマフラーを巻いてみる、すごく暖かいし咲夜さんとお揃いなのが更にいい、やるじゃんサンタクロース、毎年これくらい気を利かせてくれればいいのに。
着替えも済んだので母さんにタクシーを呼んでもらい待つこと数分、タクシーが来たので咲夜さんと朱天と共に駅前へ移動する、なんで朱天も連れて行くかって? それはボディーガード代わりなんだよ。
今日の朱天の見た目は前回同様に女マフィアみたいになっている、護衛を頼んだらノリノリでこの姿になっていた。最近の朱天は前買った雑誌などを参考に好き勝手やっているのだが女になった事をすごく楽しんでいる気がする。
駅前についたので、駅ビルに入りまずはウィンドウショッピングを楽しむ、咲夜さんがやたらとスカートを勧めて来るのを回避したり、途中でクレープを買ったりと普通のデートを楽しんだ。なんか店によっては既にクリスマス飾りが外されてお正月に模様替えしている所とかあって気が早いなと思った。
あとは朱天が居るおかげで何度か声をかけようとしてきていたナンパが近寄ってこなくて助かるのだけど、睨むと共に殺気を飛ばすのはかわいそうなのでやめてあげてほしい、中には漏らしているんじゃないかと思える人もいた。
夕方には咲夜さんの迎えが来るので早めの昼食を済ませて名残惜しいがそろそろ帰らないと、俺も明日から本家へ移動して神社の手伝いに駆り出されるので、着替えとか用意しないといけない。最後に駅ビルの屋上に有る観覧車に咲夜さんと二人で乗る事になった、朱天は俺達の前のに一人で乗ってる。
手をつなぎ横並びに座り上昇とともに少しずつ変わっていく景色を眺める。もう少しで一番高い所にたどり着く。
「ねえ怜」
「はい」
咲夜さんの方に顔を向けるとあごクイをされた、ふぁっ! なぜあごクイ?
「私の初めてと怜の初めてを私にもらえないかしら」
こ、こ、これは、あれなのか、あれがあれしてあれなのか! 心臓が痛いくらいにどくんどくんいっている、体温が一気に上昇してくる。
「だ、だめですお姉さま、キスなんてしたら赤ちゃんができちゃう」
「えっ」
顎から手が離される、目の前にはすごく驚いた顔の咲夜さんが映っている。
「あのね怜、キスじゃ赤ちゃんは出来ないわよ、それに女の子同士でも出来ないわよ」
「本当ですか!? 明海ちゃんが持ってた漫画には女の子同時でキスをして「ボクのキスで君を孕ませてあげるよ、君にはボクの子供を生んでほしい」って書いてありましたよ」
咲夜さんは額に手を当て天井に顔を向けている。あれ子供って好きな人同士で体内に相手の粘液を取り入れたらできるんじゃないのか?
「あなた小学校でどういう教育受けたのよ……、違うわね小学校ではそこまで詳しく習わないし男の子なら余計にそうよね。それに学院じゃ保険の授業もないし仕方ないのかしら」
気付けば観覧車は頂点から半分くらいまで下がってきている。
「なんとなく、私の知識が間違ってるのはわかりました、そのすみません」
「仕方ないわね、あなたが躊躇っていた理由もわかった事だし良いわよ」
そう言って俺の額に軽く口付けをしてくれた、柔らかい唇の感触が少しこそばゆかった。




