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なかみが男でも百合は成立するのだろうか 連載版  作者: 三毛猫みゃー
3章 夏の修練と鬼ヶ島での戦い

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第08話 朱色の髪と天を突くツノ持つ鬼

「お主わしに名を与える気があるかの」


 片腕は無く、片方のツノが欠け、脇腹が抉れている、そんな満身創痍の鬼に名を付ける、それには何か意味があるのだろうか、咲夜さんは断っていたという事は名前を付ける意味を知っていて断ったのだと思う。


 俺が逃げることは難しいと言ったこのタイミングで申し出てきた、そして比売神の縁者を死なせるには気が引けると言う言葉、俺がこの鬼に名を与えれば逃げ切れるという事だと思うのだが……。


「昨日お姉さまはあなたに名前を与えることを拒みました、あなたに名前を与えると何があるのか教えて貰えませんか」


「そうだったのあのおなごは断っていたの、そうさのぅわしにと言うよりもアヤカシに名を与えるだけでは何も起こらぬ、されど名を与えられたモノが受け入れる事により、与えた者と与えられた者にえにしが結ばれるそれが第一段階だの」


 寝た状態だった鬼は片腕で器用に起き上がり、俺の正面に座り込み指を1本立てる、そして指をもう1本たて2本にする。


「そしてここからが第二段階だの、本来ならわしとお主で主導権争いが起こりその結果わしが勝つわけだがの、今のわしは死に体だという事での自然とお主があるじとなりわしがじゅうとなるはずだの、わしは抵抗せぬしそこは信じてもらうしか無いの」


 立てている二本の指に追加で1本指を立て三本にする。


「そして最後に、お主の血を少しわしに与えてくれれば良い、それによりわしはお主が死ぬまでお主の式となるわけだの」


「あなたはそれで良いのですか、最初に会ったあなたはかなり力の有るアヤカシだと感じたのですが、こんな小娘の式になるなどと良いのでしょうか?」


「クカカカカ、構わぬ構わぬ人の命などどう見繕っても100年程度よ、それにお主と共に居れば飽きる事は無さそうだしの、そして祭りも楽しめそうだしの」


「祭りですか、先程も言っていた気がしますがその祭りとはもしかすると大厄災のことでしょうか」


「おうともさ、大厄災こそわれらアヤカシにとっては祭りよ、これより様々なアヤカシが目をさますぞ、あの導師も祭りに向けて動きだしたのであろうな何がしたいのかはわからぬがの」


 俺はどうしたら良いのか考えを巡らす、きっとこの提案は乗ったほうが良いと思う、俺には結界を張る以外にまともに出来ることはない、ここで攻撃手段としてこの鬼を式として使役するというのは悪い事では無いと思う。そして悩んでいる時間もない、女は度胸だここは覚悟の決めどきだろう、どの道このままだと夜が明けるまで生きられるかわからないからな。


「わかりました、あなたに名を与えますので私と縁を、そして主従の契約を交わして下さい」


「クカカカカ、れば良き名を頼むぞ主殿」


 さて名をどうするか、特徴的なものは赤い髪と残っている刀のような黒いツノだろうか、衣服はボロボロになっているが盛り上がった胸板と引き締まった腹筋、顔は俺のおじいちゃんのように皺を刻んでいる。


 そういえばあの導師が「しぃゅぅてぇんー」とか言っていた気がする。しゆてん……しゅてんだろうか、しゅてんと言えば大江山の酒天童子が有名だけど、この鬼が酒天童子なのだろうか、まあいい決めたこの鬼の新しい名は……。


「あなたの名は『朱天しゅてん』だ、朱色の髪と天を突くようなそのツノから決めた、どうかな?」


「クカカカカ、良きかな良きかな、その名(しか)と拝領した我が新しきあるじ殿よ、して主殿の名をわしにも教えてくれぬかな」


「そうでした、まだ名乗っていませんでしたね、私の名は姫神怜です、よろしくお願いします朱天」


「ほう、怜殿か、これは偶然なのかそれとも……まあ良かろう、さてそれでは少々血を頂きたいのだが良かろうか」


 俺は頷くと近くにあるささくれだった枝に指を押し付けて傷をつける、傷口からは血の玉が浮き上がってくる、そしてその傷を上にして朱天に向ける。


「朱天これで良いのかな」


 朱天は無言で俺の指に舌を這わせ血を舐め取る。


「ぐぅ……これは、うぅぐぅあぁぁぁぁぁぁぁ」


 朱天はふらふらと後ずさったかと思うと叫び声を上げた、俺の血が合わなかったのか? だがこの叫び声で小鬼やあの導師に気づかれたかもしれない。朱天の叫び声に呼応するように体から光が溢れ出す、眩しくて見ていられないが手をかざし光が治まるのを待つ。


 10秒くらい経っただろうか、急に光が収まり辺りは夜の闇に戻った。

 そして朱天がいた場所に目を向けるとそこには長身の女が立っていた。

 身の丈2mくらいだろうか、下げ髪になっている朱色の髪は背中の中ほどまで垂れている、そして額には2本の朱色に染まった刀のようなツノが生えている。


 服装は赤色を基調とした着物で金糸と銀糸で彩られている、その着物は着崩されており片方の肩が露出している。胸にはさらしが巻かれているにも関わらずその豊満な胸が見ている俺を魅了する。


 顔立ちはつり上がった眉と目が気の強さを現していて、唇には血のように真っ赤な紅が引かれているように見える、そんな妖艶と言える佇まいの美女がそこには立っていた。


「ほうこれがわしか、クカカカカ面白い、よもやわれが比売神の血に飲まれるとはの」


「朱天なの? その姿は一体」


「おうとも主殿あるじどの、われは朱天お主の式となりし鬼よ」


 鈴の鳴るような凛とした声が俺の耳に心地よく響き、ついため息が漏れてしまう。


「さて主殿ここは少々騒がしくなった、もう少し見晴らしの良い場所に移動するとしようか」


 朱天は俺を抱え上げ膝を曲げると空へ飛び上がった、いやちょっと待とうか朱天さんや、なんで俺はお姫様抱っこされているのか分からないのだけど。安全のために首に腕を回している、木々を抜け天高く飛び上がった事により一気に視界が広がる。


 もうすぐ夜明けなのだろうか、空が少し明るくなっている気がする、そして前方を見ると海面には無数の灯りが見て取れる、もしかするとミカ会長達がこちらに向かってきているのかもしれない。


 朱天は何度か空を蹴り前方の海の方へ向かい着地をすると俺を降ろした。


「この辺りでよかろう」


 そう言うと朱天は空に向かって『グガァァァァァァ』と吠えた。


「朱天何をしてるのですか、そんな事をしたら小鬼や導師も集まってくるでしょ」


「なあにソレが目的だの、ほうれ集まってきよったわ」


 朱天は後ろに振り返る、その背中越しにはいつの間にか無数の小鬼の群れが現れていた、赤青緑黒に黄色の五色の鬼の群れだ、導師と呼ばれた存在はまだ来ていないのか見当たらない。


「クカカカカ、此奴ら主殿を喰らおうと集まってきよったわ」


「どちらかというと、あなたの叫び声に集まってきたんでしょう、こんなに集まられても困るんですけど、私って攻撃する手が無いんですよ」


「ほう、それだけの神気を持っておるのにか、ふむまあそういう者のいないわけでもないか、なら主殿は得意の結界でも張っておれ」


「わかりました、お願いします」


「良きかな良きかな、お主はそこで待っておれ、この体の具合も確かめたいしの」


「それに関しては私は悪くないですからね」


「クカカカカは気にするでないわこれはこれで一興よ、ではいざ参る」


 そう言うと朱天はどこからともなく黒鉄くろがねの六角棒を現し鬼の群れへと躍り出た。俺は自らに結界を張り直し、ついでに朱天に祝福の祝詞を唱え朱天の戦いを見守る事にした。

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