第06話 本日のコスプレ会場はこちらです
食事も終え着替えを済まし9時になったので俺たち中等部組は表玄関で合流。ミカ会長と高等部組を任された望姉さんと挨拶を交わし監視場所に向かう。
本日のコスプレ会場はこちらです、と言えば大体俺たちの服装は分かると思う。俺と明海ちゃんと咲夜さんはもうすっかりおなじみになった巫女服だ。修練期間中はほぼ毎日のように着ていたので着慣れたものだ。一方雪菜さんは前に学院で見た陰陽師の格好だった。
そして織ねぇだけ上が小豆色の着物で下が黒い馬乗り袴に足元はロングブーツを履いていて何だか大正時代辺りで見かけそうな装いだった。
この前の事をまだ気にしている、というわけではないと思うけど、今日の咲夜さんの手には梓弓が握られていて腰に矢筒と数本の矢に胸当ても付けている。そんな感じの装いで俺たちは堤防の上から鬼ヶ島を見ている、かなり距離はあるのになんとなく昨日よりもどんよりとした重い空気のようなものを感じる。
適当に話しをしたりしながら、途中に何度か休憩をはさみ警戒をしていたけど、特に何かがあるというわけでもなくお昼になり一度旅館へ戻る。用意されていたお昼ご飯を食べながら情報交換をしたけど、見廻組も新しい情報は無いようだった。この感じだと明日には鬼ヶ島へ渡る事になりそうだ。
情報交換も済んで再び鬼ヶ島監視に向かう、心なしか午前に見たよりも空気は軽くなっているような気がする。特に何事もなくそろそろ終わりかなと思った時砂浜に何かが見えた気がした。
「織ねぇ、あそこに何かがあるようにみえるんだけど見える?」
「どこどこ、んーん?何かあるような」
警戒しながら皆で織ねぇを先頭にして堤防から砂浜に降り、何かがありそうな場所へ歩いて行く。
「これは……昨日の鬼の領域かな?いやでもなんか違うような」
織ねぇは少し警戒するように何もないように見える空間をノックするが手がそれ以上進まない以外に反応がないみたいだ。
「取り敢えず目印でもつけて報告に戻ろうか、みんな少し離れていてね」
そう言うと織ねぇが足元に拳を打ち付けて砂浜に1mくらいの穴を開ける、それが目印ってどうなんだろ、まあわかれば良いんだろうけどさ。俺と同じことを思ったのかみんな呆れ顔を浮かべているように見える。
「これでよし、じゃあ戻ろうか」
「そうですね……あっ」
戻ろうと振り返った時何かに足を捕まれ転びそうになる、なんとか踏みとどまろうとしたのだけど、続けて全身が泡立つような怖気が走り、とっさに結界を張ろうとした。俺の声に反応してみんながこちらを向くのが見えたと同時に俺は無数の腕に全身を捕まれ、アヤカシの領域に引きずり込まれた。
領域に引きずり込まれると同時に結界が貼り終わり、俺を掴んでいた腕が弾き飛ばされて消える、少し結界を張るのが遅かったようだけど俺を掴んでいた奴の元まで連れて行かれなくて助かったと言って良いのかもしれない。
結界を張りながら神気を纏っているので周りが少し見える。見回してみると洞窟のような場所なのがわかった、上を見上げると10mくらいの高さだろうか、所々から水がぽたりぽたりと滴っているのが分かる。
遭難した場合、余りその場所から動かない方がいいとは聞いたことがあるけど、織ねぇ達が来る気配は感じられない。今いる場所はどん詰まりになっているようで移動するなら前に進むしか無いので覚悟を決めて進む事にする。
道は一本道のようで横道などは無さそうだ、進んでいる方角も分からないしどれだけ時間が経ったのかもわからない結界を張り警戒をしながら歩く。息が詰まる1人はなんだか寂しい、学院に入ってからは絶えず誰かといた、こうも一人きりなんて久しぶりな気がする、なんだか思考が悪い方に行きそうになる。
なるべく何も考えないようにしながら3時間ほど歩いた辺りで前方から風に乗って潮の香りが臭ってきた、出口が近いのかもしれない。出口が近いのかもしれない、更に警戒をしながら歩いていると波の音がザーザーと聞こえてくる。
外から差し込む月明かりで既に夜になっている事ととそこが洞窟の出口だと分かった。俺は壁際に寄り隠れるように外を窺った。月明かりを頼りに外を見回しても周りに何かあるようには見えない。
外に出る前に少し休憩することにし手頃な岩に上に座り込む、相変わらずザーザーと波の音が聞こえる以外物音一つしない。目を閉じ波の音を聞いていると眠くなってくる、ここは一体どこなのか……まあ想像通りなら鬼ヶ島なのだろう。
何か俺を呼ぶ声が聞こえた気がし目を開ける、少し眠っていたようだ。立ち上がり伸びをしたり肩をぐるぐる回したりストレッチをする、洞窟の外を見ても特に変わった様子はない。いや何か聞こえる、さっきは俺を呼んでいるような気がしたがよくわからない。
洞窟を出て音の発生源を探して暫く移動すると岩が目に入った音の発生源はこの岩の向こうみたいだ。にちゃりにちゃりや、ガリボリと何かを食べているような音が聞こえてきた、この時点で嫌な予感がひしひしと湧き上がってくる、と言うか音だけで想像できてしまった。
確認するのは嫌なのだけど、このまま確認しないでいるのも何か嫌だ、ゆっくり音を出さないように空気を吸って吐くと覚悟を決めて音のする岩の向こう側を覗き込む。
腹の膨れた餓鬼のように見える小鬼が5匹いた、座ってゃいるが立っても1m無さそうなそんな小鬼だ。こちらを向いていないので顔は分からないが一本の小さな角が生えているのはわかった。そして想像通りのモノを食べているようだ、周りには裂けた衣服が散らばっている。
見た事を後悔しながら振り返り、小鬼たちにバレる前に洞窟のに戻る事にした、足元を気をつけながらゆっくりと……。ある程度離れた所で後ろを確認しても子鬼に見つかった気配はない、ほっと止めていた息を吐き出し視線を上げた時それはそこにいた。
鬼だ、あの浜辺で遭遇した鬼がいた、だけどあの時と違うのは右腕が無くなっており左ツノも折れて無くなっているようにみえる。
「お主なぜここにいる、ここは危険だといったはずだがの」
少し掠れた声で鬼が話しかけてきた。




