第03話 嵐の前の休息
目の前に広がる穏やかな海、その先には絵本などで見かけるこれぞ鬼ヶ島と言えそうな形の大きな島が海上に鎮座している、ちなみに桃太郎で有名な女木島とは場所も見た目も大きさも違う。
結界が張られており普通の人には見えないし近寄れないみたいだ。最近はずっと薄く神気を纏っているのでこういう不思議なものが度々見るようになった。
「見ての通りあれが鬼ヶ島だ、明日あそこに乗り込み失踪者の捜索及び封印の状態の確認をする事になる、みなよろしく頼む」
御雷家当主代理のミカ会長が俺たちに頭を下げる。そんなミカ会長に向けて俺たちはそれぞれの形で了承の意を告げる。今ここには神樹女学院生徒会の役員が全員勢ぞろいしている。
御雷家の車でこの場所へ着いた俺たちは、荷物を近くの旅館に置くとさっそくミカ会長の案内でここに連れられてきた。最初聞いていた話では封印の強化もしくは破られていた場合は封印されている対象の討伐及び、それが無理なら再封印と言う話だったのだけど、俺たちが合流する数日の内に自体が動いたらしい。
発端は5日前、毎年封印の確認と強化を任されていた陰陽寮の複数の術者が島から帰ってこなかった。そこで偵察隊として御雷家の人間と門下生が数名鬼ヶ島に向かったそうなのだが着いてそうそう連絡が途絶えたらしいのだ、それが3日前になる。
そして追加でもたらされた情報によると、何日か前からこの辺りで行方不明者がつまりは神隠しが起きているらしいのと人とは違う見た目のモノの目撃情報が出てきた。
そこで御雷家は封印が破られている事を想定して対処に動くことになった、今この地には追加で派遣された陰陽寮の術者に御雷家の人間と門下生、そして俺たち生徒会役員合わせて総勢100人を超える人間が集まっている。
第一の目標は失踪者の発見及び生きているなら救出、第二に封印対象の討伐、第三に封印対象の討伐が無理な場合再封印と言う流れだと説明された。
呼ばれた当初は俺たちはまだ学生だし中等部もいるという事で島に渡らない予定だったのだけど、着いてみれば島に渡り協力をお願いされ俺たちも鬼ヶ島に渡る事となった。
俺たちは念のため本家に連無くして了解を得て参加を決定した、結構いい値段の報酬が貰えるようだ、金額は詳しく聞いてないが全員合わせて三桁万円は貰えるらしい。
最初は流石に中等部組はという感じだったのだけど、望ねえさんが「全員一緒に行動した方がいい気がする」というのが決め手になったみたいだ、初めて知ったけど望姉さんの「感」はこの裏の業界だとかなり有名みたい。
まあ経緯としてはこんな物だ、今夜は英気を養うという事で旅館を貸しきって宴会をするみたい、と言っても現在ここに居る大人と言えるのは、陰陽寮から来ている5名の男女と御雷の関係者の5名ほどしかいない。
その他は上が大学生で下は俺たちと同じ中学生ぐらいになっていると聞いた。御雷家の血縁が数名と他は御雷家が開いている道場の門下生で、中でも優秀な者を連れてきているということだ。元々は合宿を想定しての集まりだったが、事件が起きた事により戻ること無く今回の討伐に参加する事になったみたいだ。
同世代と聞いて納得したのは門下生の中に居る何名かは学院で見たことがあるとは思っていたからなんだけどね。それにしても大人が少ないけど大丈夫なのだろうか?
そんなわけでやってきました温泉です、髪と体を洗い咲夜さんと二人でさっそく露天風呂へ行くことにした。咲夜さんのお肌も今となってはピチピチのもちもちですよ俺の努力の結晶だ。
違う学生寮なので現場で教えることが出来なかったけど、なんとか頑張った俺を褒めてほしい。本家で一緒に暮らすようになってからは自分で言うのもなんだけど甲斐甲斐しくお世話させていただきましたとも。
現在室内のお風呂には御雷の関係者の女性陣でごった返しているので俺と咲夜さんは広い露天風呂に移動したという流れだ。しばらくお湯に浸かった後、火照った体を冷やすようにお風呂の縁に座り空を見上げると満天の星空が目に入ってきた。
それを眺めていると自然と手と手が触れ合いその拍子に顔を見合わせる、熱めの温泉のせいか目をとろんとさせて上気した顔と髪を上で纏めている事で見えるうなじがすごく色っぽい。
心臓が高鳴るおへその下あたりがキュッとなる、だめだおさまれ俺のリビドーよクールだクールになれ。段々と咲夜さんの顔が近づいてくるような気がする、自然と目を閉じる……。
「おぉー露天風呂おっきー、ほらほら明海も行くよ」
「待って下さい姉さん走ると滑って危ないですよ」
唐突に聞こえてきた声に目を開けると咲夜さんの顔がすごく近くにあった、二人してとっさに湯船に入り込む、やばかった俺今何しようとしてたんだ?これも温泉の効能か何かだろうか?
「あっ怜ちゃんに咲夜ちゃん発見、こっちにきてたんだね」
「織ねぇと明海ちゃんも出てきたのですね、まあ中は密度高めでしたからね」
とまあこんな感じで適当にお話しながら1時間ほど温泉を堪能した、中は中で電気風呂やらジェットバスに寝風呂などなど色々揃っていて楽しかった、今更ながら女になってから温泉に来るの初めてな気がするし男の頃なんてカラスの行水みたいだったのに俺も変わったものだと改めて思った。
ちなみに後で露天風呂の効能を調べたら神経痛・リュウマチ・婦人病・冷え性・不妊症などだった、つまりは子宝温泉だったようだ。
夕食はかなり豪勢でした、本家で食べる宴会食とは趣が違って海鮮三昧というか舟盛りなんて初めて食べたよ。あと天ぷらにあら汁も美味しかった。お腹がくちくなった辺りで解散の流れになったので、俺と咲夜さんは少し旅館を出て散歩をすることにした。
浴衣姿で手を繋ぎ夜の海岸を歩く、なんだかもう咲夜さんとは手をつないで歩くのが当たり前になっている、特に会話らしい会話もないけど繋げている手から伝わってくる温もりが心地いい。
「少し風が強いわね、戻りましょうか」
「そうですね、寝る前にもう一度温泉に行きませんか?」
「それもいいわね、行きましょうか」
そんな話をしながら戻っていると、少し離れた場所からこちらを伺う視線を感じ目を向けると、案の定望姉さん達が着いてきていた。私と咲夜さんは顔を見合わせ仕方ないなーという風に笑いあいみんなに合流するように歩き出す。
そして気づけば俺と咲夜さんは音のない空間に入り込んでいた。波の音が消え、風の音が消え、砂を踏む音が消えた。先程までいたはずの織ねぇと明海ちゃんそれと望姉さんにマリナさんの姿が見えなくなっていた。
辺りを見回すと正面の堤防の上に人影があった、その人物は瓢箪を口につけ何かを飲んでいる、そして目線の先には鬼ヶ島があり苦々しげな表情を浮かべている。そして不意にその視線が俺と咲夜さんを捕らえるのがわかった。
『あん?わしの領域に入り込むとは何もんだ?』
刀のような2本のツノを持つ老練な男はそう俺に問いかけてきた。




