第10話 完全なる指輪の交換 魂の姉妹
意識が浮上する、目が覚めた何度か瞬きをして見えている天井は知っている天井だった。幾度となく使われている言ってみたいセリフ上位の「知らない天井だ」を言いそびれたようだ。この場所は俺と明海ちゃんの学生寮の部屋のようだった。
何故かすごく動きが鈍い腕で布団をめくってみると、服装は巫女服からピンク色でスケスケのベビードールに……誰だよこれ着せた奴はって一人しか思いつかんわ、厳重に封印してたのにどこから出してきたんだあの人は、起きたばかりなのに無駄に疲れたわ。
着替えるために起き上がろうとしたが体が動かない、金縛りかと思ったけど全身が痛い、あーこれ多分筋肉痛だわ。
「はぁ」とため息をついて明海ちゃんが戻ってくるのを待つことにしたのだけど、動けないしやる事も無かったので目をつむるといつの間にか再び眠りに落ちていた。
次に目を覚ました時、目の前に咲夜さんがいた。
「えっとおはようございます、咲耶さんお体の方は大丈夫ですか?」
「ふふもう夕方よ」
「夕方?あれ?翌日?」
「ええそうよ、あなた一日眠っていたのよ」
俺って丸一日近くも眠っていたのか、そんな事を考えていると咲耶さんが頭を下げてきた。
「怜さんありがとうございます、あなたに助けられたわ」
「頭をあげて下さい助けられたのはお互い様です、鏡池で助けてもらえなければ私が同じ状態になっていたでしょうし、もっと悪い事になっていたような気がします」
慌ててそう言って頭を上げてもらいあの後どうなったのか聞いてみた、あの黒い鬼とか気になったし。
結論から言うと黒い鬼は生徒会役員一同で、殴ったり斬ったり燃やしたりしてフルボッコにして消滅させたという事だ。
アレの正体はあの黒いモヤが共食いして集まりアヤカシになったものらしい。
俺と咲耶さん以外の生徒会役員もあの日は全然黒いモヤに出会わなかったという事で、一度生徒会室に集まったのだが、俺と咲夜さんに連絡がつかなくて織ねぇと明海ちゃんが俺たちを探しに来て学生寮前で合流したという流れだったみたい。
一通り話を聞いた所で「みんなに連絡するわね」とスマホを取り出した所で、俺はとっさに咲夜さんの腕を掴んで「ま、待って下さい」と言っていた。
丁度いい具合に今は二人きりだ、そして神気のやり取りで俺と咲夜さんの繋がりは今まで以上になっていると思う、だからこのタイミングで俺の事情を話したほうが良い気がする、そう俺が元々は男だったという事を話すなら今だろう。
「咲夜さん私の話を少し聞いてもらえませんか?」
筋肉痛で痛む体を無理やり起こそうとしたけど、今の自分の服装に気がついて掛け布団を体に巻き付けるように上体を起こしベッドの縁に腰をかける。
「無理に起き上がらなくていいわよ」
そう言いながら咲夜さんは一度立ち上がり俺と並ぶようにベッドの縁に座り俺と目線を合わせる。
なんと言えば良いのか何から話せば良いのか頭の中がぐちゃぐちゃになっている、そんな俺を見て「ゆっくりで良いからね」と俺の手を取り言ってくれた、それを受け意を決して話すことにした。
ある朝俺が男から女の子になっていた事から始まり、もう男に戻れない事や家の事情など考えがよくまとまらずブレにブレたけど、あののじゃロリ神の事以外は話しきった。
最後に纏めるように俺は「こんな元々男だった私って気持ち悪いですよね、指輪の交換って解消出来るかわかりませんが、どうするかは咲夜さんにおまかせします」と話を締めくくった。
暫く沈黙の時間が続いた、どういう返事があるのだろうかという不安と少しの期待が混ざったような不思議な感覚。
知らず知らずのうちに握っていた咲夜さんの手に力が入っているのに気づき、力を抜き手を離そうとした時腕を引かれバランスを崩し倒れそうになる頭を抱きかかえられた。
「よく話してくれたわね、あなたが何かを悩んでいるのは気づいていたわ、それに何度も私に話そうとしていたのもね」
頭をなでながらそう語りかけてくれるちょっとこそばい、嗅ぐつもりはなかったがいい匂いがする、そういえば俺って池に落ちた後風呂とか入ってないし舞で汗だくになってたのだけど、汗臭く無いから明海ちゃんが何とかしてくれたのかな、後でお礼を言っておかないと。
「怜さん私が貴方と指輪の交換をしたのは、詩織さんに無理矢理やらされたと思っている?」
「えっと違うのですか?あんな人前に引っ張り出されて引くに引けない状態にされてやるしか無い場面でしたし」
くすくすと上品に笑いながら「違うわよそんな事で指輪の交換なんてしないわ」と俺の頭をなでていた手が背中にまわりトントンと叩いてくる。
身体を起こし咲耶さんの顔を見る、綺麗だと思える笑顔がそこにはあった、こんな笑顔の咲夜さんを見るのは初めてかもしれない。
「実はね、怜さんの事情は学院に入る前から知っていたのよ、そして貴方を初めて見た時に心が震えたわ初めての感覚だった、そうね……運命の片割れにやっと会えたとでも言えばいいのかしら、そんな感じだったわ」
「私の事情を?どうしてなんで?」
俺と咲夜さんは学院の教室であったのが初めてのはずだ、それなのに咲夜さんはこの学院に来る前から俺のことを知っていたと言う、驚きと謎でわけが解らなくなる。
「そうね詳しい事は夏季休暇で比売神の本家へ行った時に聞くといいわ、私も一緒に行くことになるから、1つ言える事は私と貴方は本当の意味で魂の繋がった姉妹という事よ」
そう言われた時俺の心が震えた気がした、そして咲夜さんが言っている意味を魂が肯定するような感覚を覚え俺はこの人と姉妹なんだと自然と受け入れていた、血の繋がっている望姉さんとは違う魂の姉妹それが俺と咲夜さんの関係だと俺の全てが理解した。
それを自覚した時無性に指輪の交換をやり直したいと思った、不完全なままではなくちゃんとした儀式をやりたいと。
そして俺の口から自然と「お姉さま」と言う言葉が口から出ていた。
最初なんて呼ぶのが良いのか迷った、「お姉ちゃん」は違う気がする、「咲夜さん」は今更他人行儀だ、「咲夜様」はもっての他、「咲夜お姉さま」とも思ったけど少しの違和感、結果的に「お姉さま」と俺の中で決まった。
「お姉さま……よろしければもう一度指輪の交換をやり直しませんか?あの時は不完全な交換しか出来てなかったですし」
前の指輪の交換は何もわからず、流されるままにする事になったし途中で中断することになった、だから今度は心を込めて真剣に指輪の交換をしたいと思った。
「そうね私とあなたのちゃんとした関係を確認する意味でもやり直して方がいい気がするわ、あの時は色々とお互いに心が定まってなかったからね」
「織ねぇが勢いだけであの流れ作った気がしますし、色々酷かったですね」
あの時の事を思い出し二人してくすくすと笑いあう。そして俺は痛む体を無理矢理動かし立ち上がる、掛け布団は巻いたままだ。
咲夜さんも立ち上がり俺と向かい合い、今つけている指輪を外しお互いに手渡す、咲耶さんは俺が渡した指輪を右手薬指に俺は左の薬指に着け直す。
さあ、指輪の交換のやり直しだ、俺は左手の指輪に口づけをする、咲夜さんは右手の指輪に口づけをし指輪を外す。
咲耶さんが俺の左手を手に取り指輪をはめてくれる、続けて俺は右手の指輪を外し咲耶さんの右手を手に取り指輪をはめる、そして俺の左手と咲耶様の右手を合わせて交換した指輪に口づけを交わす、目の前には咲耶さんの潤んだ瞳が見える、そして俺の瞳も潤んでいるのが分かる、心の臓はドキドキである。
重ねていた手を放し一歩下がり軽い感じのカーテシーをする「改めてよろしくお願いします、お姉さま」と俺が言うと咲夜さんが「こちらこそ、よろしくね怜」と返礼。これが生徒手帳に書かれていた本当の指輪の交換だ。
そこで俺は気付いた、カーテシーをしたことでストンと足元に落ちた掛け布団の存在と俺は未だにベビードールを着てる事実に。
「怜……あなたすごいものを着ているのね」
顔の温度が一気に上るのがわかり掛け布団を拾い上げると、ベッドに上がり掛け布団に潜り込み顔だけ出した。この時ばかりは筋肉痛で痛む体なんて気にする余裕すらなかった。
「これは違うんです、望姉さんが織ねぇが……」
「ふふふ、分かってるわよ取り敢えず着替えましょうか、寝間着はどこに仕舞っているの?」
「えっとそこのタンスの上から2段目です」
「あったわ、これで良いかしら?」
「はいそれで大丈夫です、ありがとうございます」
寝巻きを受け取りいそいそと着替える、やっとベビードールから開放されてホッとした。




