第07話 裏の再開と鏡池
「実に2週間ぶりの生徒会活動だが、テストの方も一部の者を除いて問題なく済んだようで何よりだ」
目をそらすマリナさん、なんとなく察しはつくけどよっぽど悪かったのだろうか。
「生徒会役員なのだから赤点で補習だけはしてくれるなよ」
こんな感じで始まった生徒会活動、表に関してはテスト期間ということもあって目安箱もほとんど何もない状態だった。
そして最近俺はいくつか悩んでいる事がある、それは咲夜さんとの関係だ。
少し前に生徒手帳を読み返し、指輪の交換の所を読んだのだけど、あの交換は少し足りない部分があったみたいで不完全だったようなんだ。
それをどうしようかと言うのが一つ、それに合わせてちゃんと俺の事情を俺が元々男だった事を打ち明けるべきかと言うのが一つ、そして咲夜さんが神気を使える事や俺の身内に似ている事なども聞いてみたいと、何度も話しかける切っ掛けを探しているがなかなかいい機会が訪れなかった。
色々と知ってそうな織ねぇに聞いてみたのだけど「自分で聞いてみたら?」と言うだけで教えてもらえなかった。
そしてそのままテスト期間に入ってしまい今に至る感じである。
どうしようかなと思っていたけど、タイミングよく今回の生徒会活動裏の見回りは俺と咲耶さんがペアになったようだ。
「今回はこの組み合わせでお願いするよ、この時期はテストのストレスなどでどうしても濃いモヤが溜まったいる、普段以上に気を引き締めて挑んでほしい」
邪気や瘴気と呼ばれる物の正体が、あの黒いモヤの事だと教えてもらった。
派閥によって邪気と呼ぶか瘴気と呼ぶか変わるみたいで派閥間で揉めたりしたくないと言うことで学院では黒いモヤもしくはモヤと呼び方を統一してるみたいだ。
あの黒いモヤだけど濃度が濃くなるとアヤカシを生むらしい、俺はまだ見た事は無いけどこの体になるまでは普通の一般人だったから仕方がない事だと思う。
ミカ会長なんかは、たまに学院から出てお家の事情でアヤカシ退治やら討伐に呼ばれたりしているみたいだ。ミカ会長曰く今後は外から呼ばれる機会が嫌でも増えるだろうと言っている。
少し話がずれたけど、今日は咲夜さんと二人になれるいい機会なので色々聞いてみようと思う、それが吉と出るか凶と出るかはわからないけど少しでもこの停滞している関係に進展があれば良いかなと思う。
本日の俺たちの担当場所は鏡池方面。
場所は校舎から南側に進み学生寮を超えた先にある。
水が澄んでいて覗き込むと鏡のように映り込むことから鏡池と言われている、正式名称は別にあるようだけど誰も知らないみたいだ。
池の中央にある島にはこの学園の名前の由来になった神樹と呼ばれる目測100mくらいの巨大な木がある、樹の種類も名前はわからないけどただ神樹とだけ呼ばれている。
池の傍らには四阿が一つ建っていて、寮の先輩曰くここは指輪の交換をする人気スポットの1つらしい「私もあそこでしたのよ」なんてニコニコと指輪を撫でながら言われた。
俺と咲耶さんのように、人前でそれも大人数が見てる前で指輪の交換をやる人はいないとか、うんそうだよね普通そうだよね今思い出してもあれはやばいと思うわ。
そんなわけで俺と咲夜さんの指輪の交換の事は各所に広がっている様で、仲良くなった先輩方には大変だったねと慰められた。
「準備が終わったようだな、それでは各自気をつけて担当箇所を回って来るように」
そうミカ会長の言葉と共に皆それぞれのパートナーと動き出す。
「怜さん今日はよろしくね」
「はい咲夜さんもよろしくお願いします」
少しよそよそしい気もするが、これが今の俺と咲夜さんの距離感なんだ。
ここで手でも握ればそれっぽく見えるのかもしれないけどね、どうにも自分からやるには躊躇われる。
天気は晴れお昼も終わってぽかぽか陽気だ、そんな中微妙な距離を保ったまま横並びで鏡池の方に向かう、途中すれ違う人とは挨拶を交わしながら学生寮のを通り過ぎそこから15分ほど歩くと鏡池に到着する。
神気をまとい周りを見回してもモヤは見えない、この辺りには今日は無いのかな?
タイミング的にちょうどいいかもしれない、少しサボるようで気がひけるけど咲夜さんとお話するには丁度いい。
「咲夜さん少しそこの四阿で休憩しませんか、あのモヤも周りには見当たらないようですし、水筒に冷たいお茶も持ってきていますので」
「そうね、そうしましょうか、少しサボってるようで気がひけるけど」
「ははは、同じこと思ってました」
「そう?ふふふ、それは嬉しいわ」
なんだか少しだけ距離が縮まった気がする、って俺は乙女かよいや同じ考えだったのは嬉しいけど。
四阿には木製の長椅子と中央に丸い木製のテーブルが有る。
近くに水場と少し距離はあるが鏡池を囲むように木々があるのでこの四阿は涼しい風が吹いていて気持ちいい。
あっコップが水筒についている1つしか無い事に気がついた、まあ順番に飲めばいいか、コップにお茶を入れ咲夜さんに差し出す。
「どうぞ、コップ1つしか無いので順番に飲みましょ」
「ありがとう、先にいただくわね」
喉を鳴らす事もなく静かに上品に飲む姿に見惚れてしまう、所作が付け焼き刃な俺とは根本が違う気がする。
「はい、ありがとう、美味しかったわ」
「お粗末様です」
少し気取って返事を返して、コップにお茶を注ぎ飲む。
なるべく咲夜さんの真似をするように喉を鳴らさないように飲む。
「あっ」
小さくそんな声が聞こえた気がした、どうしたのだろうか?
飲み終わりコップを置いき口をつけた場所を見て気付いた、これ間接キスってやつじゃなかろうか、うん気づかなかったふりをしておこう。
「もう一杯飲みますか?」
「あ、えっと、もう十分よありがとう」
「では一回片付けますね、また飲みたくなったら言ってくださいね」
「ええ、わかったわ」
水筒を片付ける、なんだか微妙に話すタイミングを逸した気がする。
「一度池の周りを回って見ましょうか、こうもモヤが見当たらないのはおかしいのではにかしら」
「そうですね、普段なら一個か二個くらい見当たるものですし」
鏡池は不思議なほどまんまるな形をしている、まるで古代の銅鏡のような丸い形だ、聞く所によると隕石が落ちたクレーターの後に雨が溜まり出来たというのも聞いたが本当かどうかはわからない。
ゆっくり歩いて1周大体1時間と少しの鏡池をぐるりと回る、俺も咲耶さんも神気をまといながら周囲を見回しているけどモヤは見当たらない。
私達以外の誰かが先に来て祓ってしまったのだろうか?
ゆっくり1時間近くかけて1周して戻ってきて再び四阿で休憩、池の周りは気持ちいい風が吹いていて汗もかくこと無く回れた。
「何もなかったわね」
「そうですね、他の所はどうなのでしょうか」
「そうね、一度連絡を入れてみましょうか」
そう言うと咲夜さんはスマホを取り出し電話をかけはじめた。
俺は手持ち無沙汰になったので、四阿から出て池に近づき覗き込んで見ると透明度が異常に高い水に自分の姿が映し出されている。
水に手を入れてみると冷たくて気持ちいい、これって確か飲めるとは聞いたけど本当に大丈夫なのだろうか、少し掬って匂いを嗅いでもよくわからない、今度は舐めてみる……少し甘い?よくわからない。
立ち上がり両手を組んで腕を上にあげ伸びをする、そのまま少しストレッチをするように肩を動かす。四阿を見ると、電話を終えたのか咲夜さんが木製の長椅子から立ち上がるのが見えた。
一瞬目の端に何かが見えた気がした、そちらを振り向いても何もない、気のせいだったかなと思った瞬間「危ない!」という声が聞こえ、とっさに声の方を振り向いた俺は咲夜さんに鏡池へと突き飛ばされていた。
受け身も何も取れず鏡池に落ちた俺は、水底へ沈みながら透明度の高い水から咲夜さんが見えた。そして咲夜さんは黒い大きなモヤに飲み込まれる、それを水底へ沈みゆく俺には見ている事しか出来なかった。




