第09話 岩戸
ただただ暗い闇、それが空を覆うように広がって私達を包もうとしてくる。私はとっさに結界を張る、薄く広く広く広く広く……。それが良かったのかわからないけど闇の広がりが止まる。
それを感じてか私以外の結界がそこかしこから広がっていくのがわかる、互いに干渉しあいより広範囲に、より強固に結界が張られる。闇が結界に触れると火花が散りその侵食を阻んでいる。
空気が震えた、そしてそれを合図に闇から無数の黒一色のアヤカシがにじみ出てくる、そのアヤカシたちは結界を超えて侵入してくる。
「聞けーーー! これより戦いが始まる、あの闇は今のところ結界を超えることはできぬようだ、よってあの黒いアヤカシ共を決して結界を張っているものに近づけるな」
「「「応!」」」
「では皆のものゆくぞ!」
それぞれが武器を構え前へと進む。私は結界を張るのに集中する、その横では咲夜、望姉さん、鈴ちゃん、篠ちゃん、明海ちゃんが神器を取り出し舞を始める。笛の音がなり鈴の音が響き渡る。
別の場所からはマントラが上がり、更に別の場所からは賛美歌が歌われている、また別の場所からは祝詞が聞こえてくる。それぞれの音や言葉、そして歌により前へ進む人たちの能力が強化されていくのがわかる。
「さて我も前へ出るとしようか、これで最後になるかもわからぬの。主殿よそなたとの日々は退屈であったが楽しくもあった」
「朱天、私も楽しかったよ、いつもそばで守ってくれてありがとう、だから必ず戻ってきてね」
「クカカカカ、そうよな無事に戻れたら神酒でも馳走になろうかの」
「わかったよ、私が全力で清めて神酒を作ってあげるよ」
「ほほうそれは楽しみじゃの、それではの」
そう言って朱天を先頭に千手姫、迦陵達アヤカシ組が前に走り出す。黒狐姫ちゃんだけは楓を守るように留まっている。前方に目をやると、そこかしこで雷がほとばしり、火柱が上がり、吹雪が起きて氷の刃が敵を切り裂いている。
私は神器を取り出し結界を維持しつつ舞を舞う、神器をふる度にシャランと涼やかな音が響き渡る。倒しても倒しても数が減らない黒いアヤカシ、それも倒し続ける。中には傷つき倒れる人も出ている。
突然空に太陽ができたと思うほどの光が生まれた。そちらに目をやると大きな大きな火球が生み出されている。その下には魔法使いの格好をしたマリナさんとアリアさんが見えた。
あそこで魔術結社の人たちが魔法を使っているのだろう。火球は黒いアヤカシを倒すのではなく直接闇へを進みだした。その火球は結界を通り抜け直接闇へと向かっていく。
闇は火球を飲み込もうとするが触れた途端に火球が爆発を起こした、だけど余り効いているようには見えない。似たような攻撃が次々と起こり始める。黒いアヤカシを飛び越えて行われる攻撃。残念なことにどれも余り効果があるよう思えない。
張っている結界無内の様子を見ていると、織ねぇとお祖父ちゃんに穏斬の里の人たちの姿が見えた。
「お祖父ちゃん本気で行くよ」
織ねぇの言葉にうなずく面々の姿が見える。
「「「鬼神化!」」」
織ねぇを含めた全員が光に包まれ、再び姿が見えた時には普段の中学生にしか見えない体型だった織ねぇの姿が、額から一本の角が生え、スラリと長い手足にキリリとした顔立ちとなり、そしてナイスなバディーの女性へと変わっていた。
お祖父ちゃんも筋肉もりもりの偉丈夫へと変わり、額にはい紅い角が生えている。周りの穏斬の面々もそれぞれ姿を変えていた。そして織ねぇ達が前へ躍り出て黒いアヤカシを薙ぎ払っていく。鎧袖一触とはこういうのを言うのだろうね、少し触れるだけでアヤカシは消えていく。
他の場面に目をやると元生徒会長の御雷瞳さんと、あの朱天と出会った夏をともにしたミカヅチ流刀剣術の門下生がアヤカシと戦っている。それぞれ刀や剣に炎や雷をまとわせ、こちらもどんどんアヤカシを減らして行っている。
他にも陰陽師が御札を飛ばしたり、忍者の様な格好の人が忍術を使っていたりも見える、その中ひときわ派手なのは魔術結社かも知れない。マリナさんやアリアさんと同じ服装を着た人たちが呪文を唱和すると巨大な隕石が闇に向かって降り注ぎ始める。
その御蔭か闇に一瞬だけ穴が空く、その空いた穴の先にはわずかに輪郭が見えるだけの太陽の姿が見えた。その日蝕になっている太陽を見て不意に理解することができた。この闇をどうにかするには日蝕を終わらせる人ようがあるのだと。
多分この時私と同じように感じた人たちが現れたのだと思う、先程から流れていた賛美歌やマントラの調子が変わる。仲間を強化するのでも闇を払うでもないそんな旋律が聞こえだす。
闇がそれに反応してなのか、開いた穴を塞ごうとするがそれを邪魔するように皆が動き出す。私もそれを補助する形で結界を空いた穴に沿う形で張る。闇が苛立つように鳴動をするのがわかった。
「あっ」
見られた、多分だけど目なんて無いはずなのに目が合ったのがわかった。
「怜大丈夫?」
「大丈夫、いえ危ないかも知れません」
闇から現れたアヤカシが一斉に私の方向を向いている。
「怜様!」
楓と桜ちゃんが寄ってくる。前線にいたはずの織ねぇに朱天も何かを感じたのか私のもとに戻ってきてくれた。月蝕に目をやると他の人達が色々としているようだけど小揺るぎすらしていない。
パンッと私は自分の頬を両手で叩く、わかっているあの日蝕をいえ岩戸を開けるのは私達の使命なのだと。比売神のそして天鈿女命の血を受け継ぐ私達がやらなければ行けないことなのだと。