第08話 闇
ついに大厄災が始まったのを感じた。
朝起きて朝食を食べ今日も修練のために着替えを終えてみんな集まった所だった。空を見上げると先程まで雲ひとつ無い青空だったのに今は黄昏色に染まっている。
「お婆ちゃんこれって」
「とうとう始まったようだね、戦えないものは屋敷に入りなさいすべてが終わるまでは決して結界の外に出るんじゃないよ」
お婆ちゃんの掛け声とともにみんな一斉に動き出す。
「怜」
咲夜が手を差し出して来たのでその手を掴んで握る。
地震の予兆だろうか空気が震えているように感じる。
世界が黒く染まっていく、直接見るわけにはいけど太陽が少しずつ黒に染まっていっているのがわかる。日蝕というのは何か歪な全てを闇に閉ざすほどの闇が広がり始めている。
「よし戦えるものは集まるように、比売神を中央にして我ら穏斬は周りを囲むように警戒だ」
みんな一言も発することなく行動を開始する。俺の隣には咲夜と朱天が、望姉さんのそばには茨木の姉さんが、織ねぇそばには穏斬刀矢くんと穏斬茜ちゃんが、明海ちゃんのそばには紅姫と椿姫の二人がついている。
警戒すること数分、何も見えない闇が訪れた。感じられるのは咲夜の手の暖かさと朱天との繋がりのみ。
そしてその時は訪れた。真っ暗だった世界に光が差し暗闇が薄まった。数度まばたきをすることで目が慣れ周りが見えるようになる。
「ここはどこ?」
誰かのそんな呟きが聞こえた、先程まで確かに比売神の本家にいたはずなのに場所が移動しているようだった。パンッと柏手がそこかしこから聞こえる、その音がなるとともに闇が少し薄まってくる。
「お婆ちゃん、私達も」
「そうだね、みんな合わせるんだよ」
咲夜さんの手を放し、周りに合わせるように神気を乗せて柏手を打つ。神気を乗せたのが良かったのかかなりの広範囲まで闇が晴れた。周りを見回してみると見覚えのある顔がちらほらと見えた。
あちらもこちらを確認できたのか人混みをかき分けるように向かってくる。
「怜様ー」
「もう楓いきなり走り出さないでよ」
「お二人共勝手に抜け出しては駄目ですよ」
「そう言いつつ星来ちゃんも付いてきてるじゃない」
「一言言ってきたから大丈夫だって」
西にいるはずの楓達の声が聞こえる。集団から勝手に抜けるわけにもいかずとりあえず待つことに。
「楓に桜さん、それと阿部星来さんだったかな、西にいるはずのあなた達がどうしてここに?」
「私達は気がついたらここに、怜様もおなじですよね?」
そんな感じで情報交換しているといろいろわかったこともある。この場には日本中所か世界中の能力を持つ人達が集まっていとか。わからないのはこの場所がどこかということと、これから何が起きるのかってところみたい。
お婆ちゃんとお祖父ちゃんは私達のこの場所で待機するように言って、代表者たちで集まって話し合いをするために護衛を引き連れて何処かへ向かった。
「怜様なにか変わりました?」
「ん? 特には変わってないと思うけど」
「その、なんて言いますか、女らしくなった……まさか」
楓が私の横に立つ咲夜に目をやっている。咲夜は静かに微笑んでいるだけだけどなんだか圧のようなものを感じる。
「怜様、嘘だと言ってください」
「えっと何のことかわからないのだけど」
「どう考えても、怜様と咲夜様のお二人が超えてわならない一線を二人してはじめてを───」
「わーわーわー、な、何をこんな所で言ってるの、そんなことして無いからね」
周りの視線が生暖かいというかなんというか、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。
「怜様の始めては私がもらうつもりだったのに」
「楓はもう喋らないの、怜さんえっと、おめでとうございます?」
「桜さんも何言ってるの、なにもないからね」
「お二人はそういう関係だったのですね」
「星来さんまで信じちゃうじゃないの、違うからね、いや違わないけど、そういうことはまだしてないからね」
「「「まだですか」」」
「うっ、咲夜ーたすけてーみんながいじめてくる」
私達のじゃれ合いのおかげか先程まで周りに漂っていた緊張感が薄れた気がする。何が起こるかわからないけど、ずっと緊張しっぱなしはつかれるから良かったのかも知れない。
「ここは騒がしいのう」
「かえでーだっこー」
「ガハハハ、ここは騒がしいな、だがそれもよい」
声の方を向くと、千手姫と黒狐姫ちゃんそれと迦陵が近づいてくる。
「久しぶりじゃの朱天よ、それとその主よ」
「千手姫さんお久しぶりです、迦陵殿もお元気そうで」
「あの戦い以来じゃからの、結局追っていた黒翼にはたどり着けなんだわ」
「そうですか、ですがきっとこの戦いに出てくるのでしょうね」
「そうかも知れぬし、そうでないかも知れぬ、あやつに感しては本当にわからなんだ」
「そうなんだ」
「それよりも、そろそろ始まりおそうじゃぞ」
千手姫の言葉にみんなの視線が前を向く、何かが現れるそんな気配が一気に広がる。視線の先の暗闇に一本の線が現れそこから闇がにじみ出てくる。誰もが声を出すことなくただただそれを見ていることしかできない。
そして……闇が生まれた。