第05話 神器
残念なお知らせがあります。
ええ、毎年楽しみにしていたあの日が中止となりました。もしかするとボッチの人たちの想念が結実した結果かも知れませんね。
あの日が何かもうお察しかと思うが、クリスマスです、今年は中止となりました。わかってますとも世間様はそれどころじゃないということはね。まあその流れで年末年始の神社での催しも中止となりました。
と言っても奉納舞はちゃんとやることになっている。そのために今回は俺と咲夜さん、それから平宮鈴ちゃんと平宮篠ちゃんも一緒に舞を舞うので練習に精を出しているところです。
明海ちゃんは笛として参加するみたいだ、ちなみに今年はお祖父ちゃんの里の人たちで戦える人も山を降りて合流している。元々比売神の人間は前線に出て戦える人が少ないので、その護衛を買って出てくれたようだ。
最近というかここの所ずっと、お祖父ちゃんと弟さんの穏斬刀矢さん、それと朱天が一緒に毎晩酒盛りをしているのだけど、朝にはケロッとしている。
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年末は神社に籠もって奉納舞の練習に明け暮れた、そして今から年を越すと同時に奉納舞を開始する。
始まりは静かにゆっくりと始まる。俺たちの神気が裁断へとゆっくりと流れていく、明海ちゃんお笛の音が聞こえる、神器を振るう度に鈴の音がシャランと響き渡る。
いつしかゆっくりだった舞は少しずつその動きが早くなっていく、ただひたすらに舞に集中していくといつしか俺の意識はあの白い空間へと誘われていた。そばには咲夜さんに明海ちゃん、鈴ちゃんに篠ちゃんまで揃っている。
「ここは?」
篠ちゃんが訪ねてくるがなんて答えたら良いのか迷っていると、いつもののじゃロリ神が現れた。といってもちんちくりんの姿ではなくて、艶やかな衣装に包まれた大人な姿だった。
「我が血に連なりし者よ、よくぞ参った」
今回は最初からその姿なのはなにか理由があるのだろうか?
「お主らから奉納された神気のおかげでの、此度はこの姿というわけじゃ」
相変わらずナチュラルに心を読んできなさる、まあ今更だけど。
「大厄災がもう目の前に迫っておる、お主らにも感じられておるであろう?」
「そうですね……」
咲夜さんのつぶやきが聞こえた。
「そうじゃのこの事態は我らとて想像してはいなかった、どうやら何者かが色々と暗躍した結果ではあるようじゃ」
何者か……、真っ先に思い浮かぶのがあの黒翼だろうか、未だにその正体も目的もわからないんだよね。
「お主らが想像した通り、其奴もこの事態を引き起こしている一人ではあるの、ただ同じような動きをするものはかなりの数いるようじゃ」
「黒翼以外にも何者かがいるということでしょうか」
「そうじゃ、我らが守護せし国だけではなく、世界中で動いているようじゃ、そしてその動きによって大厄災の規模も大きくなって行っておる」
「大厄災とは一体何なのでしょうか」
「そうじゃの、今まであった厄災とはただアヤカシや悪魔などと呼ばれる者が現し世に現れいでて人の世に混乱をもたらすものであった。それ自体は人にとっても新たな進化を促す一助となっておった」
朱天は厄災事態は祭りなんて言ってたけど、アヤカシにとっては余興みたいなものだったって事なのかな。
「まあ、果てなき生を持つアヤカシにとっては厄災が近づけば現し世に出れるということは娯楽と言ってもいいかも知れないの。ただ人にとっては迷惑以外の何物でもないがの」
「もしかして私が朱天と出会ったりしたのも厄災、今回は大厄災ですがそれが近づいていたからということでしょうか」
「そうじゃの、平時ならお主らは出会うことはなかったであろうの」
朱天と出会えたのは俺にとって幸運なことだったから、大厄災は悪いことだけでは無いと思いたいな。
「さて、時間もそれほど無いでの話を進めるとしようか。まずはそなたら比売神の献身に礼を、毎年の奉納により我も力を増すことが出来た。そこで我が血を継ぎしものにそれぞれ神器を授けよう」
のじゃロリ神がそう言うと同時に、明海ちゃんの前には笛が、鈴ちゃんの前には五十鈴が、篠ちゃんの前に金色で彩られた扇が、それぞれ現れた。
「それを持ちて大厄災を乗り越えてみせよ」
「「「謹んでお受け取りいたします」」」
三人が跪きうやうやしく神器を受け取る。
「前にも言うたがの、我ら神の連なるものは直接手はかせぬ、我に出来ることは神器を貸し与えることくらいじゃからの」
「ずっと気にはなってたのですが大厄災って何が起きるのかとかはわからないのですか?」
咲夜さんがのじゃロリ神に問いかけている、それは俺も少し聞きたかったことでもある。
「大厄災で何が起こるかだがの、既に始まっておるとも言える、人の世が変わることも大厄災のもたらすものじゃからの」
「それって今まで力を持ていなかった人たちが力を得ることもということでしょうか」
「それも大厄災が起こしていることの一部じゃの」
それが事実ならかなり前から、それこそ予言がされた次点から大厄災の影響は出ていたと考えても良いのかも知れない。