第13話 新たに始まる日常
一日ほどホテルでゆっくりさせてもらったのだけど、その後はかなり急ぎで実家へ戻ることになった。異界から戻っても一日すら経っていないというのは今思っても不思議な感覚だけど、そのおかげで年末年始の仕事には間に合ったことになる。
元々は各地の人たちを送迎して冬将軍に対処する予定だったのに、結局冬将軍と遭遇することもなかった。少し冬将軍がどんな姿なのか気になっていたのだけど見ることは叶わなかった。異界ではずっと結界を張っていただけとは言え、それはそれで疲れた。
実家に戻ったら戻ったで、すぐに本家へ移動してその足で神社へ向かい、毎年恒例となる年末年始の準備に奔走させられた。毎年恒例の奉納の舞をして神気を奉納してと、ここ最近の流れにそって役目を果たす。去年の様に夢にのじゃロリ神が現れることもなく、新しい信託とかもなかった。
そして今は既に学院に戻ってきている、年末からバタバタし続けていた日々も終わり、学院に戻ってきた事にほっとしてしまう。今はまだ他の学生が学院へ戻ってきていないので、俺はある人を連れて学院の案内をしている。
「ここが怜が通っている学校なんだね、ボクって学校って行ったこと無いから興味はあったんだよね」
茨木の姉さんが望姉さんと契約した事によって椿姫がフリーになった、それによってどうするかって話になった。色々候補は出てきた、望姉さんと一緒に仕事をするとか、お祖父ちゃんの隠れ里でお世話になるとか、本家でお世話になるとか色々とね。
そして最終的に「ボク学校って行ったこと無いから行ってみたいな」というのが決定打となった。学院に行ったとしても授業に出るわけでもないのだけど、勉強は時間の空いている教員が教えてくれる事になっている。
ここに来る条件としては、ちゃんと勉強をすること、極力大人しくしておくこと、ちゃんと修行することなどなど、他にも色々あるけど約束する事になったようだ。修行に関しては朱天が請け負ってくれるので心配はしていない。
勉強に関しては結構本人が乗り気で、もし学力が学院に通える程度まで付いたのなら、今年の新入生として入学させて貰えるらしい。時間はあまりないけどそれまではぜひ頑張ってもらいたいものだね。
朱天とは違って、半妖の椿姫は依代に入ったりなんて出来ないので、教員用の寮に住むことになっている。俺たちも頻繁に遊びに誘ったりするつもりなので、椿姫にはこの生活を楽しんでもらいたいね。
◆
「姫ちゃんおはよー」
「柚もおはよう、相変わらず元気だね」
「あははは、それが取り柄だからね」
冬季休暇も終わり学生は殆ど戻ってきている。殆どと言ったのは戻ってきてない生徒もいるのだけど、聞いた限りでは身内に不幸があったり、本人が怪我をしたりで学院に戻ってくるのが遅れているということだ。その生徒の中には今回の冬にあった事件に関わっていた人もいるのかも知れないね。
「柚、怜さんおはようございます」
「静流おはよう、元気してた?」
「静ちゃんおっはよー」
「柚は相変わらずね」
「なんでみんな同じようなこというのかな?」
「「さあ?」」
こんな感じで挨拶を交わしつつ休み明けの授業が始まった。やっと日常に帰ってきた感じがするのだけど、周りが女子だけでも特に何も感じることがないのは俺も女性としての生活に十分染まってるなと改めて思った。
そして春を迎えれば俺たちもとうとう高等部に上がることになる。その前に卒業式があってマリナさんが卒業していくんだよね。それに来年には、もしかすると今年に大厄災が来る。
まだまだ俺自信の力不足は感じているし、これ以上どうやったら位階をあげる事ができるのか切っ掛けも掴めていない。黒翼の動きも全くわからないし、今回の事も何がしたかったのかも未だにわかっていないようだ。
収穫としては、各地方の雪女の隠れ里が人間側に協力してくれると確約が出来たことくらいかな? 聞いた話だと西の方でも色々とあった見たいだけど、あとで桜さんか楓に聞けばいいかな。
桜さんと楓はその西のあれこれに関わっていたようで、新学期に遅れるという連絡を受けていたので、まだ学院に戻ってきていない。大きな怪我は無いとと聞いているのでほっとはしている。
◆
授業が終わり生徒会室に行くと、椿姫がぐったりしていた、どうして生徒会室にいるのかと言うと普通に出入りしていいと許可をもらっているからだけどね。それに教師の空いている時間に勉強を見てもらうのは空いてる部屋を使ってやっているからね。
「椿姫大丈夫?」
「おつかれ怜、大丈夫ちょっと頭に色々詰め込んでちょっと疲れただけ」
「お茶でも飲む?」
「お願い」
「おーけー、少し待っててね」
休憩室に行ってお湯を沸かして、急須に茶葉を入れてお湯を注いで部屋に戻る。まだ誰も来ていないのでとりあえず二人分だけ入れて椿姫の前に置く。
「ありがとう……ふぅ、なんかやっと一息つけた気がするよ」
「それで勉強の方はどうだった?」
「まだ初日だけど先生には順調って言われたよ、この調子なら入学式には間にあう友いわれた」
「へー良かったじゃない」
「うん、楽しみだよ」
ガラガラと生徒会室の扉が開いて織ねぇを始め生徒会の役員が入ってきる、そして織ねぇは椿姫に絡み始める。なんだか気があったのか織ねぇと椿姫は仲がいい。全員はまだ揃っていないけど、新学期初めての生徒会活動が始まった。