第12話 帰還
白皇鬼達を倒したことにより、てっきり異界から出られるのかと思ったのだけど、未だに出ることが出来ないでいる。一度最初のホテルに集合して今後を話し合って、このままここにいても仕方がないという事で、とりあえず異界の端まで行ってそこから出ることになった。
ぞろぞろと警戒しながらまとまって移動していると、あっという間に異界の端までたどり着いた。望姉さんの話だと最初に比べると異界が小さくなっているとか、この感じだとそのうち自然に消滅するとの事だった。
安全を確認するために数人先に外に出て戻ってくる、安全が確保されたということで順番に異界から脱出を果たす。自然と殿のような形で最後に異界から脱出したそこは、どこかの山林のだった。
異界の中は昼間だったと思うのだけど異界の外は夜になっていた。足元に薄っすらと雪が積もっているけど今は雪も降らず辺りを雪あかりが照らしている。先に出ていた人たちが術や魔法で明かりをともしているので辺りは明るい。
少し奥まった山林のようだけど、山の下を見ると街明かりが目に映るし俺たちが泊まっていたホテルがめに入った。
「なんとか無事に出てこれましたたね」
「そうねまだ油断は出来ないけど周りに敵はいなさそうよ」
今回の一連の出来事はこれで終わりなのかな? 全員揃っているのか確認の後に下山を済ませてホテルに向かう。街へ降りれば人の営みが感じられてここが異界ではにという事がやっと実感できた。
「結局今回のことって何だったのでしょうね」
「ほんとにね、冬将軍が来ると思えばいつの間にか異界に取り込まれていて、なにがなんだかわからないわね」
「怜お疲れ様、ずっと結界を張って疲れていない?」
「結界に感しては大丈夫ですよ、今も念のため張り続けていますけど、まだまだ余裕な感じですね」
「朱天たちもお疲れさまだね」
「ふむ我らとしては少し暴れたりぬがの」
「結局白皇鬼達は何がしたかったのかな」
「なんと言ったらよいかのう、どうやらあれらは本物ではない感じがしたの」
「あーやっぱりそんな感じ?」
「おや、主殿にしては珍しく気づいて追ったか」
朱天が驚いおた表情を向けてくるけど、流石に結界以外のことに疎くても分かることはある、と言いたい所だけどきっかけは咲夜さんに言われてよく見たことで気がついたんだよね。
「そのね咲夜さんから言われて朱天達が戦っていた白皇鬼を見ていて気づいたんだけどね、あれらからはなんていうか、魂の様なモノが感じられなかったんだよね。それになんだか不自然に薄い神気のようなものが宿っていたのもわかったんだよ」
「それはきっとあれらは死鬼の一種だからじゃの」
ホテルに入った所で唐突に俺たち以外の人物から声をかけられてそちらを見ると、蘆足道矢様が護衛と共に立っていた。どうやら気がつけばホテルの前まで到着していたようだ。
「死鬼ですか、式神とはまた違うのでしょうか?」
なんと答えて良いのか迷っている内に、俺の代わりに咲夜さんが話してくれている。
「式神とはアヤカシを使役するものじゃが、死鬼とは死んだアヤカシを無理やり従わせる邪法じゃの」
「それって……」
「そうじゃの、白皇鬼達も最初から黒翼の使い捨ての道具だったのかもしれんの、本当の所はわからぬがの」
それにしても黒翼の目的は一体何だったのだろうか、夏のときと良い今回と良いよくわからないな。
「姫神の姉妹よ、今回はそなたらに助けられた礼を言わせてもらうよ」
「いえ私達は出来ることをやっただけですから」
望姉さんが咲夜さんに代わり対応してくれている。その後いくつかやり取りがあったけど、ホテルの中の暖かさも相まってうつらうつらし始めて余り話を聞いてなかった。
「ふむ長く話しすぎたかの、ああ気にせずとも良い、ずっと気を張っていて疲れたのであろうな、結界も一手に引き受けていてもらったからの、時間の許す限り何日でもここで休養をしていくがよかろう」
「ありがとうございます」
「それではの、また会うこともあろう、それまで息災でな」
眠いけどなんとか頭を下げることは出来たけど、そこでふらついて咲夜さんに支えられた。自分で思っていたよりも体力が限界だったみたいだ。なんとか部屋まではたどり着くことが出来たけど、そこまでで俺の意識は途切れる。
◆
「うっ……暑い」
暑さで目が覚めたみたいだ、多分ここはホテルの部屋だと思う。えっと……えーっと? 部屋は暖房が付いていた暖かいのだけど、部屋の暖かさと布団の暖かさで暑く感じたかも知れない。一旦お布団から出ようとしたけど、自分の姿に気づいて急いで再度布団に入り込む。横を見ると同じ布団で咲夜さんが寝ている。
まあ、一緒の布団で寝ているのはいいのだけど、なんで咲夜さん下着姿なんでしょうね、ついでに俺も下着姿なんだけどどういう事? もしかして俺が寝ている内に知らず知らず何かやっちゃいました?
「うぅん、怜起きたのね、おはよう」
「あー、えっと、咲夜さんおはようございます」
「一度起きた時に暖房をつけておいたのだけど、なんだか暑く感じるわね」
「そうですね……、えっと咲夜さん、どうして私と咲夜さんって下着姿なんですか?」
「ん? うふふ、怜は何かあったかと思ったのかしら?」
「えっ、いや、その」
「安心しなさい何もなかったわよ、ただ巫女服のままお布団に入るわけもいかないし、着替えるのも疲れていたからそのまま寝ただけよ」
「あーあー、そ、そうなんですね、そう言えば部屋に入った所から記憶がないので、咲夜さんが脱がせてくれたのですね、ありがとうございます」
「良いのよ、怜はよく頑張っていたからね、それに比べて私って何もやれてなかったから」
「そんな事ないです、私は咲夜さんがそばにいてくれたので頑張れたんですよ」
「そう? そう言ってもらえると嬉しいけど、やっぱりそれだけだと駄目だと思っているのよ」
憂いを含んだ咲夜さんの目と目が合う、布団の中で手と手が重なり握り込む。なんて言ったら良いのか分からずただただ見つめ合う時間が過ぎていく。
トントンと部屋の扉がノックされる音が聞こえてとっさに手が離れた。そのタイミングで部屋の扉が開いて望姉さんが顔だけ覗かせてくる。
「怜、咲夜さん、起きてる? ご飯食べに行こうと思うんだけど一緒に行かない?」
「の、望ねえさんおはよう、今起きたばかりだから一回シャワー浴びてから行くよ、先に食べに行ってて」
「そう? それじゃあ先に言って席取っておくわね」
「うんお願い」
お布団に入ったままの俺を見て少しいぶかしげにしていたけど、咲夜さんには気が付かなかったようでそのまま扉を閉めた後に遠ざかっていく足音が聞こえた。
「あははは、それじゃあ咲夜さん先にシャワー浴びてきてください」
「どうせなら一緒に入らない?」
「えっと、わかりましたお背中流させていただきます」
「お願いね」
そんな訳で着替えを用意して二人でお風呂場に向かうのであった。