第13話 月夜の語らい
少し黙って考え込みながら空を見上げると綺麗な満月が見えた。ふぅと一息ついて話し始める。
「それってさ、私と朱天の契約を解除したらもっと助けになると思う?」
「ふむ、主殿が考えている事はわかるがの、それはむしろ逆効果だの」
「どうして? 契約解除したら朱天は自由に動けるようになるんじゃないの?」
「今のわしはの、主殿の神気を好きに使えることにより鬼神になっておる、その神気がなくなるとただの鬼人に戻ってしまうだけだの」
「えっ、そうなんだ」
「そういう訳での主殿との契約はこのままのほうが都合がいいの」
そうなると契約解除以外に何か俺がやれることはあるのだろうか? そうだな、学院にいる間なら朱天は俺の近くにいなくても問題ないと思える。今は朱天が定期的に黒いモヤに対処してくれているが、それを俺が入学した頃の様に生徒会で対処するようにすれば朱天が自由に動ける時間が増えるんんじゃないかな。
「じゃあさ、私が学院にいる間は朱天は自由に外へ行っても良いって事にしたら良くないかな」
「ふむ、主殿がそれで良いならわしも探索の範囲を広げることができるの」
「よしそうしよう、学院内の黒いモヤに感しては今までの様に自分たち生徒会が対処するよ、だから朱天は好きにしてもらっていいよ、といってもお婆ちゃんにお伺いはしてね」
「良いのか?」
「うん良いよ、私がそうした方がいいって思ったからね、それに朱天が自由に動ければ百鬼夜行にも色々対処できるんでしょ」
「どこまで効果があるかはわらぬがの」
「うん、それじゃあ今から朱天はお婆ちゃんと相談して好きにしていいよ、その代わり何かあったり、事が起こる時はちゃんと知らせるように」
「クカカカカ、その命しかと承った」
「それじゃあ朱天しばらくお別れになるのかな」
「ふむ、そうよな何か進展があれば報告がてら戻ってくるつもりじゃがの、されどわしの力が必要な時はその依代を通して呼びかけるが良い、どんなに離れていても主殿とわしは繋がっておるでの」
「わかったよ、それじゃあ朱天いってらっしゃい」
「主殿も息災での」
こうして俺と朱天はしばらく離れることとなった、次に朱天と合流する時はきっと何か大きな動きがあるのだろう、それまでに俺は自分の半神としての力を使いこなすまではいかなくても、使えるようにはなっておきたいな。
そう言えば、紹介してくれるって言ってた仙人の事はどうしたものだろうか、早くて夏季休暇にならないと身動き取れないのだけどね。朱天が去った神楽殿から月をもう一度見上げ寮へと戻った。
寮の部屋へ戻ると咲夜さんは目を覚ました。
「ただいま戻りました、起こしてしまいましたか?」
「おかえりなさい、外は寒かったでしょ」
そう言って何も聞かずにホットミルクを入れてくれた、もう4月になるのによ夜は思っていたより寒くて冷えた体に染みるようだった。
「朱天さんは出ていったようね」
「えっと咲夜さんにはわかるのですか?」
「そうね、きっと怜との繋がりで半神になったからでしょうね、少し集中すれば怜の事が感じ取れるようになったみたいよ」
なんとなく咲夜さんの言っている事はわかる、俺も集中して咲夜さんの事を思うと色々と感じることができるから。あえて黙っておく必要もないので朱天と話した内容を咲夜さんに一通り話すことにしたのだけど、生徒会も関わることなので明日全員が集まった時にまとめて話す事にした。
「怜はシャワーを浴びて風邪を引かないようにね、私は先に休ませてもらうわ」
「はい、咲夜さんおやすみなさい、ホットミルクありがとうございました」
俺はさっとシャワーを浴びて髪を乾かし眠りについた。
◆
翌朝生徒会室に役員全員集合した所で昨日朱天から聞いた百鬼夜行の話と、最近朱天のお陰でお座なりになっていた学院内の見回りについて話し合った。織ねぇが「母さんに伝えておくね」と教師陣にも学院内の見回りに戻ってもらう事となった。
「明日はとうとう入学式だね、そこで高等部の生徒会長であるマリナ会長から一言どうぞ」
話し合いも一段落した所で、織ねぇがまとめに入る意味でマリナさんにバトンを渡した。
「……、怜ちゃんがんばって」
「いや、それはまあ入学式にでるのは私ですけど、なんかほらもっと無いですか?」
「ない、かな? あっそうだったこれを渡しておく」
そう言ってマリナさんは胸元から小瓶を取り出した、見た目はあの雫とそっくりだけど感覚的に少し違う気がする。
「それは?」
「エキス?」
「なんのですか」
「怜ちゃんの?」
「なんで疑問形なのでしょうか、そして私のエキスってなんですか、色々ツッコミどころ満載でわけがわからないんですけど」
みんなの視線が机に置かれた数本の小瓶に集中している、合計10本なのだけど全部胸元から出てきたのは色々と謎だ。
「あの後雫を作れないか色々試した、でも出来なかったその代わり出来たのがこれ、雫ほど効能はない効能はいわゆるポーションの上位版、飲んでもよし振りかけてもよし、ある程度の傷なら治る」
「そうなんですか、ポーションがどんなものかは知りませんが上位版ってことは結構貴重なのでは?」
「材料は怜ちゃんと咲夜ちゃんの髪の毛と私の魔力だけ、今後何があるかわからないだからみんな一本ずつ持っておくといいかも?」
「相変わらず材料が私やお姉様の髪の毛というのが気になりますがありがたく受け取らせていただきます」
それぞれがマリナさんにお礼を言いつつ一本ずつ確保する、残りの2本は備品として生徒会室に置いておくことになった。
「あー、マリナさんとりあえずこれお渡ししておきます」
俺と咲夜さんはそれぞれ二つの容器を取り出しマリナさんの眼の前に置いた。あまり渡したくないのだけど、こう何かと役に立ちそうなものを作ってくれる手前渡さずにおられないという代物、まさしくそれは今先ほどのエキスの材料だった髪の毛だ。
「これは? なんだか片方からはすごい力を感じるのだけど」
一つは普通の瓶でもう一つは木製の箱だ、木製の箱には御札が張ってある。
「わかっちゃいます? 一応外にもれないように封印をかけているのですけど」
「こちらの瓶の方が従来の抜け毛です、そしてもう一つの封印をかけている方が半神になった後の抜け毛ですね、ちなみに半身になってからはあまり抜け毛が出なくなったので少量しかありませんので」
「これ貰っていいの? 私が言うのも何だけど結構貴重なものだと思うよ?」
「まあ、あまり気持ちのいいものではないですけど、マリナさんにはお世話になってますし有効活用して下さい、それと先程も言いましたが半神になってからはあまり抜け毛が出なくなったみたいなので今後はどうなるかわかりませんよ」
「ありがとう怜ちゃん咲夜ちゃん、有効活用させてもらう、そういう訳で今日は解散」
そう言ってマリナさんは瓶と木箱を手に持って早歩きで生徒会室から出ていった。みんなそれを見送って苦笑を浮かべている。
「それじゃあ私達も解散しよっか、怜ちゃんは明日頑張ってね」
織ねぇがパンパンと手を叩き今日の生徒会活動は終了になった、さて俺も明日の祝辞の練習を少しするかなと、みんなと別れ講堂へと向かった。