私は死と旅をする
魔道都市で魔法が暴発し、その影響で、私が知る限り私だけが生き残り、私以外は死人となった。
人間以外は大丈夫だけど、死人を食べた肉食動物は死人ならぬ死動物になり、食べればもれなく死人の仲間入りだし、基本植物は土が汚染されてる可能性もあるし、私は口にはしない。
川や海は汚染されてるから、飲んだりしたら死人と友人になれちゃうから、雨水は大事にしてる。
『やった!干し肉たんまり。あー!ドライフルーツまで!有難い有難い。小麦粉に塩胡椒に油も追加して…ふー…流石パン屋』
見知らぬ死人だらけの小さな村に立寄り、家探しをする。
『…しかし、私以外は誰もいないな…』
マジックバック大の中身を、見知らぬ他人の家で整理する。マジックバック中も中身を出して、着古した服をまとめる。できれば、この家で服を調達したい。
『作り置きの黒パンは食べちゃおう。野菜のピクルスとふやかした干し肉をを挟んで…と』
台所を借りて簡単にサンドイッチを作り、寝室にて食べる。
『茶葉は有難いね。小さなヤカンも。火傷の塗り薬に、解熱剤まである!明日はパンを焼こうかな…』
日持ちしないギリギリのラインの食材はたんまりあるから、久しぶりのスープにしよう。
『シーツと布団もコチラのを交換して…服に下着も貰おう。靴も靴下も』
私ぐらいの女の子と男の子がいたのだろう。クローゼット収納には、男女の服やらが仕舞われていた。
寒くなるからズボンにコートにマフラー等ももらう。
『ありがとう、大事に使うからね…』
私は、見知らぬ兄妹にお礼を述べて、クローゼットを閉めた。
黒パンを焼き上げ、冷ましたらマジックバックに詰め、パン屋を後にした。
次に目指すは八百屋。ピクルスなどあれば助かるし、干し野菜も助かる。
『あ…干し野菜!ピクルスも漬けたばかりみたい!』
次々店や家屋を回り、見つけては中に入る。
ただ、気を付けるのはお屋敷だ。使用人なんかがうじゃうじゃいるとなれば、その人達は死人の可能性があるから。
『今日は、パン屋で寝て朝イチで旅立とう…』
この村にも人はいなくて、寂しいような嬉しいような、複雑な気持ちで、村を後にした。
何があるかは分からないから、先程の村で短剣を見つけたのが幸いした。その日、森の中で私は1年ぶりの生きている人に出会ったから。
『死人?』
「ちげーよ!」
『なら…誰。私は普通の10歳の少女』
「…親は!」
『元孤児院の孤児、名前は#108』
「名前じゃねーよ…それ。つかさ、お前1人で生きてきたのかよ?」
小さく頷く。
「…シェルターに来いよ」
『行かない。人は群れたら、他人を中々受け入れないし、排他するから。
それに、群れれば隠し事は増える。例えば死人に噛まれたのに黙ってたり、死人になった家族を匿ったり…ね』
「それはない」
『言い切れないわ。人を疑う、院長先生は最初に教えてくれたの』
「ロクでなしだな」
『違うわ、私達孤児が社会に出たら、大人にカモにされないように…よ』
私はサヨナラを告げ、そこそこ大きな村に着いた。
彼とはこの村でまた会うことにもなるし、新たな出会いがあるなんて、今の私には分からない。
そう、この残酷で哀しくて、優しくて、暖かい世界で、私は…生きていく……。
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