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第92話 ティアゴ・マルジア

読んでくださりありがとうございます。


遡ること20分程前、英永の予知によってこの辺りの座標に出現するとされたパラドクスを迎え撃つために3人は意見を出し合っていた。


「とりあえず技能開花が出来るのはこの中だと俺だけなんだよ。だからなるべくそれが決まりやすいようにサポートしてくれって話なんだ。…それのどこが不満なんだ?」


「不満って訳じゃねぇ。ただ俺の技能じゃ大した陽動にもならねぇしサポートも出来ねぇって言ってんだよ。」


「私も同じくサポート出来る技能じゃ無いわ。それぞれ相手を撃破するために最善を尽くすって言う作戦じゃあダメかしら?」


「それで倒せたら苦労しないって。とにかく作戦を早いこと決めないともうすぐ『予知』された時刻になっちまうぜ?」


どうやら全く意見が纏まらないらしい。研悟が技能開花にまで到達しているようだがそれを確実に相手に当てられる自信は無いようだ。従って研悟はそのために作戦を立てようとしているが研悟はあまり作戦を考えるのが得意ではない。作戦が上手くいかないことは辛うじて分かるがどうすればそれが上手くいきそうなのかは考えつかないからである。しかし残念ながら他の2人もまた作戦を考えるのが得意では無いのだ。


「…んー、お迎えか?それならもう少し静かにしてくれや、なるべく手荒な真似はしたくねぇんだわ。」


研悟の背後で突然声が聞こえて来たのだ。どうやら意見が纏まらない内に既にパラドクスは座標への転移を済ませていたらしい。見慣れぬ鎧を身につけて空中に寝そべっていた。


「パラドクス…だな?」


「いかにも俺はパラドクスだ。ティアゴ・マルジアそれが俺の名前。…まあ冥土の土産にでもしてくれや。」


3人は身構え相手の出方を伺った。最早作戦は立てられていないのでそれぞれの攻撃のために相手の攻撃をまず見ることにしたのである。しかし3人とも先手を取ったほうが良かったと後悔したのである。それはティアゴと名乗ったその男の背後にはこれでもかと言うほどに大きな黒い物体が現れていたからである。


「結構派手だろ?俺はこの派手さを気に入っていてな。俺の技能は『磁場』お前らに分かりやすく言うと鉄とかだな、それを引き寄せたり飛ばしたりする事が出来る。この辺に鉄があるのかあんまり分かんなかったからよ、持って来たのさ、でっかい奴をな。」


「…これは船?なのか?」


「お!良いね。そう船だよ、飛行船だ。このでっけえ飛行船がお前らにぶち当たったらどうなるか、試してみようかね!―技能解放―《磁場凹凸》」


『磁場』が成せることなのだろう、ティアゴの放ったその飛行船は恐るべきスピードで3人に迫った。3人はそれぞれ身を守るために攻撃の選択をした。


「案外脆かったな、俺の技能で普通に壊せたぜ。」


「ああ、思ったよりは脆かったな。…待て!全員伏せろ‼︎」


3人とも余裕の表情を浮かべていたがすぐに研悟はあることに気がついた。研悟の叫びを聞き伏せたそのすぐ上を先程3人の攻撃で壊したはずの飛行船のガレキが飛んで行った。そのガレキたちはティアゴの近くで動きを止めたのである。


「ほう、よくこの2段構えに気づいたな。3人のうち1人はこれで終わるかなと思ったが中々骨がありそうだ。」


「…さっきお前自身が自分の技能について言っていたからな。あれほど大きいものをあの速度で飛ばせるのに飛ばした飛行船が回収出来ないはずが無い。壊して重さが軽くなれば尚更だ。」


「うんうん、それなりに冷静に考えてるようだな。そう俺の《磁場凹凸》は何度でも引き寄せ飛ばす事が出来る。でっけえ飛行船って言っても大した重さは無い。あれぐらいなら消耗はしないようなもんよ。さて、こっからはお前らの攻撃でも見てみようか。…ほらどいつからでも良い。俺に攻撃を仕掛けて来な!但し…届くのなら、だけどな。」


「俺がまず行こう!―技能解放―《百ノ追撃》」


まず最初に拳司がティアゴ目掛けて突っ込んで行った。しかし自在に操っている飛行船のガレキに阻まれ思うように進む事が出来ない。せっかくの技能解放も届かなければ何の意味も持たなかった。


「ちょっと…厳しいな。俺じゃ手数が足りん。」


そう言うと拳司は戻ってきた。現状の拳司ではティアゴにはお手上げ状態のようだ。


「おいおい、どうした?そんなんじゃ俺を倒すどころか傷一つ与えられねぇぞ?」


「なら私が行こう。そんなガレキなんて一瞬で吹き飛ばしてやるわ!―技能解放―《爆撃矛槍》」


永遠は槍に似た形の爆弾を投擲の要領でティアゴ目掛けて投げ込んだ。肩は良い方らしくまっすぐティアゴに向かって飛んで行ったその爆弾は次第にそのスピードを失って行った。


「…お前のその技能、『爆撃』だな?あいにく俺には最悪の相性だ。なぜって爆弾を作るのにゃ鉄がつきものだからな。」


投げられた爆弾はクルリと方向転換すると3人目掛けて先程の倍のスピードで襲いかかった。素早く反応して再び発動させた《爆撃矛槍》によって相殺したものの近距離で弾けた爆風によって3人は既にボロボロになってしまったのである。


「…お前らの実力はその程度か?もっと楽しめると思ったんだがよ、正直言って興醒めも良いところだ?」


研悟たちがボロボロになっていたのはこういう経緯があったという訳です。

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