第90話 到達した技能の高み
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「お?なるほどなるほど。これは少々動きづらいな。」
先程まで目に見えないスピードで移動していたトッドの姿が完全に見えるほどにはそのスピードは下降した。しかし動きを止めるまでには至らなかった。やはりパラドクスは規格外な存在なのだろうか。《大地緊縛》は効果時間がそれほど長くない上に徐々にその効果は薄れていく。既にトッドは先程と同じくらいのスピードまで加速していた。
「だが特に問題は無さそうだ!覚悟しなバラバラにしてやるぜ!」
トッドが仕掛けて来たのは単純な突進である。武器も何も持たないただその身1つで突進して来たのだ。しかしただの突進ではない、《疾風怒濤》によって桁違いに跳ね上がった速度から生じる突進の威力は凄まじいものであった。それを定平は腹部にモロに食らったのである。当然のように吹き飛ばされた定平は2メートル程後方の建物の壁に打ちつけられた。
「…変な手ごたえだと思ったが、なるほどそんなものを着込んでたのか。まあ流石にスーツだけとは思わなかったがな。おっと、その技能解放はもう発動させないよ。…なんだい君も同じものを着込んでいたのか。もっと思い切り蹴れば良かったかな?」
隙を見てもう一度技能解放を試みようとしたのか地面に手をかざそうとした透であったがすぐに距離をつめられ大きく蹴り飛ばされた。やはりこのスピードを何とかしないと勝機は皆無に等しいのだが既に《大地緊縛》はトッドにバレてしまっている上にそれほどの効果は得られない。
「…凄まじい突進だ。…特製のチョッキが吹き飛んじまうところだったよ。やっぱり技能解放で戦うのは難しいな。まるで勝てる気がしない。」
「…まるで技能解放の先を知っている口ぶりだな。だが貴様らにそれは不可能に近い。その概念自体が生まれたのはこの時代の五百年後だ。大方マイケルが口走ったんだろうがそれを知ってもそこには到達出来まい。」
透そして定平をほぼノックアウトしたトッドは余裕そうな笑みを浮かべていた。技能解放のその先の技能開花を発動してくるのは不可能であると確信しているのだろう。そして同じように自身の勝利が揺らぐことは無いと確信しているのだろう。最早トッドはその場に立ち止まっていた。しかし定平もまたこの時点で自分の思惑通りに事が進んだことを確信したのだ。
「…よく分かったな。確かに私は技能解放のその先を知っている。そうだな、…君の言葉を借りるとしようか。千年前の!技能開花を!骨の髄まで刻み込むが良い‼︎―技能開花―《狡猾ナル箱罠・大棺》」
その瞬間トッドの足元がキラリと光り輝いたかと思えば瞬く間に光り輝く箱のようなものが出現した。名前からして恐らくこの箱が大棺なのだろう。出現したかと思えばすぐにその箱は消え去ってしまった。
「…なんだと?消えたと言うことは…回避したと言うのか?あり得ない…。回避する速度が足りていたとしてもそれほど早く反応出来るはずが無いのに!」
技能開花で相手に対処されるよりも早く勝負を決める予定だった定平は分かりやすいほどにうろたえた。相手が勝利を確信してさらに自分が技能開花を発動させられる絶好のチャンスだったにも関わらずそれが失敗したからである。消えてしまった大棺があった場所に下りてきたトッドは青白いオーラを纏っていた。
「危ないところだった。まさかとは思ったが技能開花に到達しているとはな。よくもこの短期間で到達したものだ。私の技能開花まで披露することになるとはね。《衣纏・疾風怒濤》それがこの技能開花の名前だよ。この状態の私には他の一切の動きが止まって見えるほどに遅く見える。つまりどんな攻撃が来ようと見てから反応で回避が可能なんだよ。」
「…技能開花される前に決着をつけたかったんだがな。まさか回避されるとはね。…おや?しかしその技能開花は体への負担が多そうなんだな。」
定平はトッドが肩で息をしているのに気づいた。見ればトッドの周りの青白いオーラは消えかかっているようだ。
「長く発動は出来ない。強い効果を得る以上はデメリットも受け入れなければいけないのは貴様も分かるだろう?あの技能開花は貴様の最後のあがきだったようだね。もう《衣纏・疾風怒濤》も必要なさそうだ。…おっと、銃弾か?」
トッドが《衣纏・疾風怒濤》を解いたその瞬間物陰に最後まで潜んでいたケイトの銃弾がトッドの足元を襲った。いち早く察知したトッドは難なくその銃弾を回避してみせた。回避された銃弾はトッドの近くの地面に突き刺さった。放たれたその銃弾はガラスのような物質で出来ており光が反射して少し輝いて見えた。
定平は技能開花にまで到達していたようです。しかしトッドの技能開花によって回避されてしまいました。相当体に負担がかかるようですが強い効果を得るには仕方のないデメリットのようですね。




