第89話 いざ開戦!
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「…あれがパラドクスか?なんか張り付いてるぞ?」
「…恐らくそうかと。動かないのならこちらから仕掛けますか?」
透と定平は無声音でやり取りしていた。ケイトは射撃しやすい場所に移動しておりそして透と定平もまた見つけにくいところに潜んでいたのである。もちろん無闇に敵に気づかれないためであるのだが攻撃を仕掛けようと腰を浮かせた透は危うく大声を出しそうになった。もっとも出しても差し障りは無いのだが。
「そこか…。隠れてるとは思ったんだよな。あらよっと、着地成功。マイケルが先に敵情視察に行ってくるって突っ走って帰って来ないんだよなぁ。おい!場所は分かってるんだ。大人しく出てきたらどうなんだ?」
「まさかそんなすぐに場所がバレるとは思わなかったぜ。危うくおっきい声が出ちまうところだった。」
そう言いながら透と定平は姿を現した。目の前でしゃがみ込みながらこちらを下から睨みつけているこの男はやはりパラドクスなのだろう。
「あなたはパラドクスであると認識して構わないのかい?」
「そうだね、それで合ってると思うよ。私の名前はトッド・テレスジア。あんなノロマの仲間って思われるのは正直嫌だけどね。私たちは万が一命を落とした場合国へ強制送還される仕組みになっている。…だがマイケルが送還された報告は聞かない。つまりなんらかの方法で拘束されてるって訳だがあんたら何か知らないか?」
「なるほど、そんな仕組みが。これは拘束して正解でしたねぇ。」
「ふん、つまり貴様があんなノロマとは言え千年前の分際で私たちパラドクスを拘束したんだな。パラドクスの実力がこんなもんじゃないってのを骨の髄まで!刻み込んでやるよぉ‼︎」
トッドはそう叫んだ。目を離した訳でもないのに2人ともトッドの姿を見失った。
「なるほど、性格が出てるな。私の動きをいち早く察知して退避したもの、そして反応出来ずに…いや、違うね。反応した上でカウンターを狙ったか。そんな短刀で私を倒せるとでも?」
トッドは先程まで透が立っていた場所に立っている。2人ともトッドを見失った瞬間にすでに対応を始めていた。透は自分が狙われていた時のためにいち早く攻撃の回避を試み定平はやって来る攻撃に対して手にした短刀で反撃を試みていた。しかも定平は右手以外の一切を動かしてはいない。顔色1つ変えずに定平は後ろに構えた短刀を戻したのである。
「2人のうちどちらを狙うかは分からないが私なら背後を狙う。反撃に備えるためにね。だから最初から背後へのカウンターを狙わせてもらった。…あいにく狙いは私では無かったようだが。」
「あんたにマイケルが拘束されたのもちょっと分かる気がしてきたねぇ。ティアゴやビリーだったら負けてしまうかもしれないくらいには冷静で戦略的だ。そして回避をした方もセンスが良い。大袈裟に距離を取っている。相手の攻撃の射程が分からない以上は取りすぎる距離なんて無い。…良いね、骨のある戦闘が期待出来そうだ。…精々楽しませてくれよ?―技能解放―《疾風怒濤》」
トッドはそう言ったかと思うと建物の壁から壁へと乗り移った。そのスピードは目で追うのが困難な程である。
「…ふむ、このくらいの強度なら保つだろう。私の技能について折角だから貴様らに教えてやろう。私の技能は『早足』。技能の効果は足が早く動かせるようになるだけだ。普通に使うなら走るスピードが上がるだけに過ぎない。しかし一定のスピードを超えれば落ちるスピードに勝てるのだよ。つまり私は文字通り!空を飛んだ訳だ!このスピードは最早目では追えまい‼︎」
トッドは威嚇するようにさらに建物の壁から壁へと乗り移って行った。そのスピードは最初から目で追うには限界があるくらいだったが徐々にその速度は上昇してついに2人は目で追うのを諦めた。こうしたタイプを相手にするには網羅的にするしかない。定平は透の方を見やった。透は頷くと地面に手をかざした。
「なるほど、足を早く動かしている訳か、それじゃあ動けなくなったらどうなるのかな?―技能解放―《大地緊縛》」
パラドクスの本格的な侵略が始まりました。透が《大地緊縛》で対処しようとしていますが果たしてどうなるんでしょうか。




