第85話 技能について共有しようか
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研悟は少々、いやかなり定平を嫌っているようだ。もちろん定平が攻撃を仕掛けてきた場合武器を向けていないと出遅れる訳だがそんな気は無いのに武器を向けられるのは定平も気分が悪いだろう。眉毛をひくつかせながら何もしないとばかりに両手を上げている。
「…研悟、刀下ろせ。一応カズが言ったことだ。合併ってのもこいつがどんな奴なのかも俺にはさっぱりだが信用はしてやろう。」
「…分かりました。」
透にそう言われて研悟は渋々刀を下げ腰の鞘にしまった。定平は武器を向けられた事はそれほど気にして無いのだろう。刀が仕舞われるのを見届けた後何事も無かったように定平が口を開いた。
「それじゃあ成果の共有を始めましょうか。…その前にまず私から、戦闘したパラドクスから技能解放のさらに先の技能開花なるものがある事が分かりました。成果を共有しない事には何とも言えませんが最終的に技能開花を目指すことになると私は思っています。」
「技能開花ぁ?全く知らねぇな。研悟何か知ってるか?」
「いや、俺は何も知りませんよ。陸疾何か知ってる?」
「俺はそれを食らったんで知ってます。技能解放の方を食らってないんで威力とかの違いは分からないんすけど…。」
そう言って陸疾はパラドクスのマイケル・ダットソンとの戦闘について説明を始めた。説明を終えた後の透と研悟の表情はかなり渋いものであった。
「するとそれが技能開花って訳だな。文字通り必殺技だ。盾を持った状態の陸疾に直撃させて一発ダウンだからな。」
「まあそれまでに何発かは食らってはいますが、直撃って言うとそれだけですね。」
「定平…だっけ?あんたは技能解放の方を食らったんだっけか?」
「そうですね。ただ私の力を試すような雰囲気とその後の口ぶりから考えるにある程度の力でしか発動させてないようでした。その程度の攻撃なら特段ダメージにはならなかったですね。」
「特段ダメージにならないって言ったってそれなりには食らうだろうよ。…何かテクニックでもあるのか?」
透が真剣な眼差しで定平の方を見た。定平の方もそこを詳しく聞かれる事は分かっているかのように軽く咳払いをしてある物を取り出した。それは軽めの金属素材で出来たチョッキのようなものに見える。
「後で言うつもりでしたが順番が変わっても特に問題は無いですしお教えしましょう。その秘密とはこれですね。対打撃用に改良を加えてある防弾チョッキです。ディメンションズで試験的に導入されたもので私が実験のデータのために前もって着ていたものです。かなりの効果が期待出来そうなので至急増産してもらっているはずです。パラドクス侵略までかなり短いので全員に行き渡りはしないでしょうが主力メンバーくらいならまかなえるはずですよ。」
「なるほど、防弾チョッキか。…失礼。…ふむ、軽いが中々の防御力だな。普通の鎧より防げそうだし動きやすそうだ。」
「鎧は防御力こそあれど俊敏性が無くなってしまうのが難点ですからね。相谷陸疾、君にその鎧に対して愛着が特に無いのなら君に強くおすすめしたい代物だ。」
「愛着は…特に無いっすけどそれだけだと防御する気が見え見えになっちゃいません?」
「確かにな。上にカモフラージュ出来るものを着込んだ方がさらに防御力に期待出来るし相手の目も騙せそうだ。…あんたはその点どう思うんだよ?」
「…出来ればあんたじゃなくて名前で呼んでほしいものだがね。もちろん君らの言う通りだ。現に私はその上からスーツを着ているのだからね。パラドクスが本格的な侵攻を始める前に上に着るものも考えておくよ。」
「よし、チョッキの話はそれくらいにして技能開花の話に戻ろう。陸疾の話からそのマイケルって奴は技能開花は技能解放のその先にあるって言っていたんだな?」
透は技能開花の話に話題を戻した。いつの間にやら話題が防具に行ってしまっていたがこの場では本来技能についての研究の共有であり、防具についてではないのだ。
「そうですね、さらに磨き上げたものって感じです。…でもどうやって技能解放を磨き上げるんでしょう?」
「それが難点だよなぁ。発動させた時の効果や威力に差が出てくるんだろうがどうやってそれを上げれば良いのか分からないし、上がったことを実感するのも難しい話だ。」
「研悟の言う通りだな。そもそも俺たちは技能解放自体にも経験値が足らなさすぎる。…どうする?経験を積むために今からノンストップでパラドクスが来るまで模擬戦しまくるのか?」
透の提案は理にはかなっているのかもしれないが陸疾からすればやりたく無い方法であった。模擬戦は身体的に疲れないとは言え精神的には結構厳しいのである。その状態でパラドクスと交戦した場合集中力はとても保たないだろう。
「恐らくですがそれは止めた方が良いかと。無闇にやっても結果が伴わない事の方が多いですから、ある程度仮説を立ててからにしないとただの時間の無駄です。どうでしょう?本人が考えるのも良いですが全員に技能解放を開示してはどうですか?」
技能について深く知るためにはまず現状を把握しておかなくてはなりません。技能解放の詳細を明かすのはやや抵抗があるような気もしますが、やっておけることはやった方が良いはずです。




