第80話 定平の戦い
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「あぁ、確かにそんな名前だった気がするね。悪いな、弱かった奴のことなんて覚えてないもんでね。そんであんたはそこの男の先輩ってとこ?さっきお前らは強くないって結論が出たんだけど、あんたもそうだろ?」
「そうだな半分は有っていると言えるだろう。私の名前は椎橋定平。そこで伸びている拳司の先輩だよ。そして君はパラドクス…で良いのかな?私が強いかどうかは戦ってみれば分かるんじゃないかな?」
「…へえ、君こいつらの戦闘を見た上でそう言ってるんでしょう?なら少し試させてもらおうか!―技能解放―《一蹴連撃》」
マイケルを前にしてもなお不敵な笑みを浮かべる定平を面白く思ったマイケルは先に技能解放を仕掛けた。先程陸疾に放った技能開花とは少々威力が落ちているようだがやはりディメンションズと言うべきか並の技能解放とは比べ物にもならない程の威力の蹴りが定平を襲った。
「…案外固いな。さっきの鎧の奴ほどじゃあねえけどよ。」
「これでも鍛えていてね、その辺の人間よりは頑丈なはずだよ。…しかし技能解放でこの威力ならその先にある技能開花は凄まじい威力のはずだな。あいつが立てねえのも理解できる。」
定平は未だ立ち上がれないでいる陸疾の方を見やった。だがマイケルの方は既に陸疾への興味を失っているようだ。
「ふん、ごちゃごちゃ言ってねえでそっちの戦い方も見せてもらおうか。弱くないって自負してるんだ、一応かなり期待はしてるんだぜ?」
「良いだろう私の技能解放を見せてやろう。―技能解放―《狡猾ナル落下罠》」
定平は地面に手をかざした。その動作で大体の効果を予期したのかマイケルは大きく前進し定平が仕掛けた《狡猾ナル落下罠》を回避して見せた。
「ほう…、やはり回避してくるね。」
「お前が地面に手をかざしたからな。どんな技能かまでは分からんが大体どんな事をしてくるかの予想はつく。お前は自分を弱くないと言っていたが…、これだけならただのその辺の雑魚に過ぎない。もちろんまだあるんだよなあ?」
マイケルのその問いかけに定平は何も答えなかった。その代わりにスーツの袖口からワイヤーのようなものを取り出した。恐らくはこのワイヤーが更なる定平の技能になるのだろう。実際見ているマイケルはそう判断したのだ。
「ワイヤーか、やはり千年前の奴らは懐かしい物を使うな。俺の時代じゃすでに骨董品の域だぜ。」
「へぇ、一目見てこれがワイヤーだって分かるんだ。骨董品とは言えそれなりに浸透しているようで嬉しいよ。さて、話はそれくらいにして戦いを再開しようか。」
そう言うと定平はワイヤーを伸ばして至る所に張り出した。見たところ進行方向を操作しているかのように一定の法則に従って張り出されているように見える。しかしそれを見てもなお、マイケルは動じない。ひと通り張り終わるのを待った後でマイケルは口を開いた。
「そうした進路を遮るやり方が…まあワイヤーの古典的な使い方だよな。当然だが俺たちはここに来る前に千年前にはどのような戦い方が主流なのかそしてそれにはどう対応すれば良いかの訓練を積んでやってきている。…つまりお前が今必死で張ったワイヤーは何の意味も持たないってことだ。」
そう言うとマイケルは最短距離かつ最小の軌道修正でほぼ真っ直ぐ定平との距離をつめた。もちろん『蹴足』の効果を用いてかなりの速度であった。まだ距離はつめられないと安心し切っている定平の懐まで一気に距離をつめるとマイケルは長剣の柄を握った。
「こんなワイヤーを全て回避することなど簡単なんだよ。やはりお前は見立て通りその辺の雑魚だったな。―技能解放―《愚カナ裁断》」
マイケルは技能解放を発動させ定平を何度も斬りつけた。定平は拳司がやっていたように回避に徹することで食らうダメージを最小限に抑えていた。《愚カナ裁断》が終わるまで回避に徹した後、追撃を貰わないがために大きく距離をとるため路地裏へと定平は走り込んだ。しかし不運なことに走り込んだ路地裏は袋小路となっており、すぐに壁へと突き当たった。ならば他の道をと振り返った時には既に遅くマイケルが追いついていたのである。
「あれ?追いかけっこはもうおしまい?あんまりすぐ追いついても楽しくないからよ、なるべくゆっくり追いかけたんだがどうもこれで終わりっぽいな。」
ちょっと押され気味のようですね。相手は対策をバッチリしてからこの世界へと来たようで骨董品と化しているらしきワイヤーも対応されてしまいました。でも定平は何か考えて行動している…はずです。




