第78話 急襲!パラドクス
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「日付は…目標と2日程ズレてんのか。暦が違う可能性が考慮出来なくてこの正確性ならまあ良いだろ。…ん?お前ら何見てやがる。」
「お前は…何者だ?…どこから来た?」
「何者って言われると説明が難しいんだよなぁ。あ、でもどこからってのは教えてやるよ。…驚くなよ、千年先の未来から俺様は来てやったのさ!ま、これを何にも知らないお前らに言っても関係無いんだがな。」
その人物は陸疾と拳司をたまたまそこに居合わせた一般人だと考えているのだろう。ベラベラと喋っているがその内容に2人とも一気に血の気が引いたのである。
「…千年…先だと?…それじゃあお前は…パラドクスだってのか⁈」
パラドクス、その単語が拳司から放たれた瞬間その人物の眼光が鋭くなった。やはり当たっているようだ。
「ほう、俺らを知っていると。いかにも俺はパラドクスの一員。すなわち、この世界の支配者なのだよ!」
陸疾も拳司もすぐにこの人物から距離をとった。当然であろう、なぜなら目の前のこの人物がどのように攻撃してくるのか、どのような技能を持っているのか不明だからである。分かっているのはかろうじて腰あたりに見える長剣か。拳司は距離をとると同時に武器も装備したようだ、やや軽装の鎧とナックルダスターが見える。それを見て陸疾も手袋を操作して装備を整えた。
「ほう、俺をパラドクスと知ってなお武器を取るか。このマイケル・ダットソンも甘く見られたもんだよ。ところで一つお前らに聞いておこうか。…ガーディアンズと言う単語に聞き覚えは?」
思いがけずマイケル・ダットソンと名乗ったそいつはガーディアンズについて聞いてきたのだ。パラドクスにとってガーディアンズがどういう意味合いを持つのかは分からない。少し探りを入れる必要がある。そう陸疾は考えていた。
「…俺がガーディアンズだ。」
「ほう?君が?そんなにガキなのに?」
「ガキは関係ねぇだろうがよ。」
「いや関係なくは無いね。あいつの『未来視』によればガーディアンズとか言う組織が邪魔をして来る…とか。だがただの心配症なだけだな。こんなガキが前線にいるような組織相手に苦戦するビジョンが微塵も湧かん。」
「なんだと…?」
陸疾はマイケルのこの偉そうな物言いに腹を立てていた。どれほどの実力者かは知らないが自分もガーディアンズもまとめて侮辱された気分である。しかし陸疾以上に腹を立てている人物がいた。拳司である。
「どうやら俺には全く関心がねぇみたいだな。」
「…ガーディアンズでもない人は特に問題無いって聞いてるからなぁ。あんたただの一般人かい?」
「うるせぇ!先にディメンションズのこの俺が相手だ。覚悟しろ!―技能解放―《百ノ追撃》」
勢いよく拳司がマイケルの腹に技能解放を放った。陸疾はこの技能解放を体験済みである。一つ一つにはそれほど脅威を感じなくともその連続の追撃にあえなく吹っ飛ばされたのだ。しかしマイケルは微動だにしなかった。それどころか表情一つ変えないのである。そして拳司は動きを制限されているのだろうかそれとも驚きのあまりなのだろうか、マイケルを殴りつけた動作のまま立ちすくんでいる。
「俺の言ってる事理解できる?技能解放が出来るのはただの一般人なの。普通誰でも出来ることを引っ提げて出しゃばらないでくれるかな?…んー、でも無知故に向かってきたって事もあるのか。それなら、その何にも知らない空っぽの頭に深く深く刻みこんでおきな!―技能解放―《愚カナ裁断》」
マイケルによって技能解放が放たれた。発動のその瞬間動きを取り戻した拳司はすぐに回避を試みたが間に合わず右腰から左肩にかけて大きく斬りつけられてしまった。とは言え直撃は免れたようで致命傷には至っていない。
「ふぅん、一応食らったら死ぬくらいは分かるんだ。最初から回避に徹してないと《愚カナ裁断》で即死だからね。ただの一般人ってのは撤回してあげようか。そうだね、その辺の雑魚でどうかな?」
そう言うとマイケルは独りで高らかに笑い出した。完全に陸疾たちを舐めているようだがかと言ってこちらには奴を倒す算段は未だついていない。なにしろ目の前のマイケルがどれくらいの実力者であるか把握しきれていないため攻めづらいのである。少なくとも分かっていることは策も無しに突撃しては《愚カナ裁断》で真っ二つにされる事くらいであろう。
「とりあえずその辺の雑魚は適当に沈んでもらおっか。」
つい先程まで高らかに笑っていたはずのマイケルがすぐ目の前に移動していた。目を逸らした覚えは無いが知らぬうちに見失っていたようである。2連続で致命傷を回避出来るほどパラドクスは甘い相手ではない。長剣で2度ほど斬りつけられた拳司は近くの壁に思い切り蹴飛ばされ気を失ってしまったのだ。
「ディメンションズなんて聞いたこと無い組織に俺が負ける訳無いじゃん。…ねぇ?君なら分かるでしょう?」
そう言うとマイケルはじっと陸疾を見つめた。その瞳はどこまでも暗く吸い込まれそうな錯覚を覚えるほどであった。
マイケル・ダットソン
技能:斬撃 武器:長剣
パラドクスの構成員の一人。実力は幹部クラスとも言われているとか。武器こそ長剣だが肉弾戦も得意にしている。




