第72話 予知された敵の動き
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「だから俺は筋トレしてるんだよ。お前も今度どうだ?」
「遠慮しときます。透さんの筋トレ終わりが見えないんで。」
「ま、自分が満足するようにしたら良いがよ。」
「君たち検証や筋トレに精が出るのも良いが、食事はきっちり摂ってるか?もうすぐ昼になるんだからそこそこにして飯でも食ったらどうだい。」
「ん?もうそんな時間か?それじゃあぼちぼち食堂にでも行くかな。」
景計の言葉を聞いて透はどこかへ去っていった。言葉からして食堂へ向かったのだろう。時間としては午前11時半を少し過ぎた頃なので昼飯を食うには少し早いと陸疾は感じていた。研悟は昼飯を食べに去らないところを見るとまだ食べないのだろうと模擬戦も持ちかけたがあえなく断られてししまったのである。また今度なという言葉と共に研悟は去って行った。その場には景計と陸疾だけが残ったのである。
「相谷くん。…ちょっと時間良いかな?」
「…時間は大丈夫ですけど。」
「それは良かった。ちょっと相谷くんに話しておきたいことがあってね。」
その言葉に陸疾は思わず景計の顔をまじまじと見てしまった。不思議そうな表現を浮かべた景計のその表情からは冗談を言っているようには思えなかった。つまり話しておきたいことがあるのは本当なのだろう。しかしその話しておきたいことの内容が陸疾にはさっぱり予想出来なかった。相談事ならば陸疾ではなく透の方が適任である。となれば…
「もしかして…俺何かやらかしてました?…すいません、全く覚えが無くって…。」
「ははっ。何もやからして無いさ。むしろ予想以上の大活躍に私は嬉しく思っているよ。」
「…なら話したいこととは…何ですか?」
「君は私の弟についてどう思っているのか聞いてみたくてね。」
「弟って言うと…、英永さんでしたっけ?ディメンションズのリーダーの。」
「そう、その英永だよ。…相谷くんは英永をどう思っているのか聞きたくてね。」
陸疾にはその質問の意図がさっぱり分からなかった。そもそも知っている情報が皆無に近い人である。知っている事はディメンションズのリーダーである点と目の前の景計の実の弟であるという点のみである。それ以上もそれ以下も無い。
「…特に何にも考えて無いっすね。そもそも会ったことのない人ですし。」
「ほう、特に何も思わないと。…一応敵対勢力のリーダーなんだけど特に恨みとかは無いって事で良いかな?」
「敵対勢力って言われるとそりゃそうなんすけど、実際敵対すべき人たちじゃ無いんすよね?ディメンションズの人たちって。そう言われてから尚更何にも思わなくなりましたね。ディメンションズの人たちも俺の方に向かってくれば戦いますけど絡みが無いならその辺の人とそんなに変わらないですし。…だからそのリーダーだって言われてもそんなに特別な感情は無いです。」
それが陸疾の正直な気持ちであった。そもそもガーディアンズに属するようになったのも技能のカギを偶然手に入れた時に助けてもらったことがきっかけであり、なぜガーディアンズとディメンションズが敵対しているのかは全く知らないで所属を決めたのである。敵対すべきではないと他でもないリーダーに言われた事もあり陸疾はディメンションズ=悪という考えは持ってないのだ。
しかし武器を持ってこちらに向かってくるなら話は別である。こちらも武器を持たねば相手の思い通りにやられてしまう。それを防ぐためにもこちらも武器を構え戦う術を身につけるのだと陸疾は考えていた。
「なるほどね。…実はこれは誰にも言ってない事なんだけどね。昨日の夜かな…、連絡が来たんだよ。もちろん英永から。」
「…どんな連絡が来たんです?」
「…もうすぐパラドクスが来るだろう。備えておくんだな。そう短く本文に添えられていたよ。」
なんてことないことを話すテンションで景計はとんでもない事を言い出したのだ。パラドクスと言うと景計の話を思い出せば千年後の未来からやってくる本来の敵対すべき人たちである。ガーディアンズもディメンションズも彼らが来た時のために備えている組織である。
「え?…そのパラドクスってのはもうすぐ侵略しに来るんですか?それってかなりやばくないですか?」
なんてことないテンションでとんでもないことを言ってますね。パラドクスはガーディアンズにとって本来の敵対勢力です。でもどうして景計はそれを大々的に皆に言わずに陸疾に言うのでしょうか。どうやら話はそれだけでは無さそうですね。




