第71話 技能は奥が深い
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「俺は『伝導』だ。陸疾はどうだった?」
「俺は『蓄積』でした。研悟さんと同じく検証してみないとその効果の程は分からないですね。」
「ふむ、『伝導』に『蓄積』か。3つ目ともなると今までのとは違う系統になるかなと思ったがそうでもないみたいだな。相変わらず技能というのは相当奥が深そうだ。」
景計は満足そうにそう呟いた。確かに景計の言う通りだと陸疾は感じていた。元々技能というのは自分の隠れた才能を見出してくれるものと言った説明だったはずだ。現に『変則』はひとまず置いておいて『跳躍』は陸疾の才能を見出してくれたと言えよう。しかし3つ目の『蓄積』は自分の隠れた才能であると断言するには些か苦しかった。そもそもの効果もよく分からないので一概に言えないと言えばその通りなのだが。
「あの、…隊長。」
「ん?相谷くんどうかしたかね?」
「記憶が正しければ隊長に技能は自分の隠れた才能であると教えてもらったはずです。」
陸疾のその問いかけに景計ははたと止まった。そして景計にはその後その問いかけがどう続くのかも分かっていた。
「でも今回の『蓄積』は、…もっと言えばその前の『変則』も俺の隠れた才能には到底思えないんです。」
そこまで言った陸疾を景計は手で制止し、やがて口を開いた。
「相谷くん、君の言いたい事は分かる。そして以前私が君に話した事は少なくともその段階での事実だった。そもそも複数の技能の解放に至っていない状況での結論だからその時点での結論に誤りが見られる事は別に珍しいことではない。そして少し前から複数の技能の解放が徐々に明らかになりかつての結論は誤りでは無いかと思われ始めた。今の状況がまさにそれだ。」
「つまり、技能は自分の隠れた才能では無かった…という事ですか?」
「今のところそう結論づけるのが一番正しい。現在ガーディアンズとしての公式見解は透の考えを元にしている。」
「俺は詳しいことは分からんがよ、少なくとも1つ目の技能は自分の才能によるものが大きいと俺は考えてる。」
景計からバトンタッチされるかのように透が話し始めた。透もまた陸疾と同じ疑問を持ち自分なりに結論を出すため景計とどうやら幾度と無く話し合っていたようだ。
「だが技能解放は確かに技能から派生したものだが自分の才能から離れている気がしてならない。どれもこれも戦闘を想定したものが多いからな。例外はジュンの《感知外障壁》ぐらいなものか?技能が本当に才能によるものならもっと戦闘に関わらない技能解放があっても良いはずだ。俺らは技能のカギや技能に関わるものを巡って戦ってはいるが世界は戦いとは無縁の平和そのものだからな。」
「…確かに技能解放は攻撃するためのものが多いですね。俺のも2つともそうですから。」
「そしてここから俺の仮説だが技能解放をカギとして技能を使った戦闘に適した技能及び技能解放が習得できるようになるんじゃ無いかと考えている。例えば俺の3つ目の技能の『伝導』だが恐らくこれは振動の伝導だろう。今までの技能を使って戦う事を前提にするなら間違い無いと言って良い。」
「そう言われると透さんの言う通りに思えてきますね。俺の3つ目の技能の『切断』は名前からして切ることが関係してそうですし俺の《居合ノ匠》や《納刀術・乱撃》で切る事で何かしらが起こると見て良いでしょう。」
「だが、その結論もまた今のところというのが頭につくんだ。さっき奥が深いと言ったが今の結論が技能の全てなのかもしれないし全くの見当違いかもしれない。とにかく少しでも技能の事を知るためにもまずは3つ目の技能を技能解放させる事を目標にしないとな。」
場を締めるかのように景計はそう言った。確かにこの結論もまた現状を鑑みた上でのつ結論でしかなくそれが正しいか正しくないかは誰にも分からないのだ。
「…はぁ、また技能解放する検証が始まるのか…。昨日やっとけりがついたところなのによ。」
「なんだ始める前から音を上げているのか?研悟にしちゃ珍しいな。」
「そうは言いますけど透さん。ここのところ検証ばかりで体が鈍ってる気がしてならないんすよ。技能解放させるのを急ぐのも良いっすけど素の戦闘も並行して鍛えないと鈍る一方ですよ。」
陸疾の3つ目の技能が明らかになりました。『蓄積』という事で効果のほどはどうなんでしょうか。技能に対する見方が徐々に変わっているようですね。なにしろその実態が全て明らかにはなっていない謎の概念ですから見方が変わっていくのも自然なことなのかもしれませんね。




