第66話 望まぬ邂逅
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「…いやぁ何とか勝ち越せるかなぁって思ったんすけどね。やっぱり無理でしたよ。」
「バカ言え。そんなに簡単に勝ち越されてたまるもんか。ただカウンター技が有るのと無いのとでは全然違うな。勝った時も攻めづらさはあったし、何より普通に負けるとは思わなかったよ。」
模擬戦の結果は3勝2敗で研悟の勝ちではあったがそもそも陸疾はこれまでで研悟に模擬戦で勝った事は無い。騙し討ちの形になった1勝を除いても1つ勝利をもぎ取ったことは陸疾にとってかなり大きなものになるだろう。
「なぁに?あんたたちやけにテンションが高いわネ。こっちは何の成果も無いんで落ち込んでるところなのにさ。」
ケイトがやや疲れた表情で近づいてきた。その後ろには凛夏の姿も見える。両者ともかなりの疲労の雰囲気が漂っていた。
「お前ら疲れ切った顔してるなぁ。模擬戦で真剣勝負してた俺たちより疲れてそうなんだけど。」
「…はぁ?何楽しそうに真剣勝負してるのさ。こっちは技能解放するための検証を諦めて戻って来たってのに。」
「そりゃすることが無くなりゃ残りは真剣勝負で楽しまないと。なぁ?陸疾。」
「そうっすね。真剣勝負すっごい楽しかったっす。」
ケイトは陸疾と研悟の顔をみてあんぐりと口を開けていた。技能解放に行き着いていることを予想こそしてはいたものの、検証に飽きて模擬戦を楽しんでいたというパターンもあると思っていたのだろうか。後ろにいる凛夏は最早反応を示していなかった。恐らく大分精神が削られているに違いない。
「…つまりあんたたちは技能解放に行き着いたってことネ。…はぁ、凛夏。検証の続きに行くわよ。向こうが成果を上げて来たってのに疲れて出来ませんでしたは話にならないわ。」
「明日にしましょうよ。今日はもう遅いですし、何より私の精神がこれ以上はもうギブアップです。」
再び模擬戦へと戻ろうとするケイトを慌てて凛夏は止めた。本当に限界が近いのだろう、ケイトを止める表情は真剣そのものであった。
「…まあ無闇にやっても成果は出ないわネ。今日はもう終わりにしましょうか。」
ケイトのその言葉に凛夏はホッと胸を撫で下ろした。それを見てケイトはさらに言葉を続けた。
「ただし!…明日は朝から検証開始よ。一刻も早く技能解放に到達するんだからネ!」
「了解です!」
どうやらケイトと凛夏は次の日の朝から検証を開始するようだ。この努力が良い方に結びつけば良いなと陸疾は考えながら模擬戦会場を後にし寮へと帰ったのであった。寮へ帰った陸疾はその瞬間どっと疲れを感じた。ケイトや凛夏程では無いが自分もかなり疲労を溜めていたのだなと冷静に自分を客観視した陸疾は簡単な食事をとるとすぐに眠りについた。溜まった疲労は陸疾に心地良い睡眠をもたらしたのであった。
けたたましく鳴るアラームの音で陸疾は目が覚めた。疲れ切った体はすっかり回復して心地良い朝日を浴びながら陸疾は基地へと向かう準備を始めた。特に基地でやることも無いのだがケイトと凛夏の模擬戦がどうなっているのか少し気になっていたのである。要するに野次馬である。
いつも陸疾は寮から出てまっすぐ基地へ向かうのだが今日の陸疾はコンビニで買うものがあった。そのため道を変えて先にコンビニへと向かう事にしたのだ。普段とは違う道のため新鮮な気分を感じながら陸疾は舗装されたアスファルトを歩いていたのだ。目指すコンビニを見つけた陸疾はコンビニに併設されたゴミ箱にもたれながら新聞を読む男の姿を見た。特に珍しいとも思わなかった陸疾はそのまま男の前を通り過ぎようとした。
「やぁ、以前名刺を渡したんだけど私のこと覚えてるよね。」
「は?…!」
いきなり男に問われ困惑し男の顔を見た陸疾はその瞬間表情を強張らせた。なぜなら陸疾はその声をかけてきた男を知っているからである。
「なんか私が渡した名刺が割れた状態でこの辺で見つかったんだよね。…なにか知らないかい?」
「椎橋…定平…。」
「お、当たり当たり。私の名前を覚えていてくれるなんて嬉しいよ。」
陸疾は目の前の定平に奇妙な感情を抱いていた。名刺を壊して捨てた事を怒っているようではない。しかし言葉こそ柔らかいものだが談笑をしようと言う訳で無い事は陸疾には確信が持てた。そして目の前のこの人物が何を目的にしているのかはさっぱり掴めなかった。
「…一体こんなところで何がしたいんです?」
「何がしたい?…やだなぁ、君はもう私がどこに所属しているか知ってるんだろ?ちょっと調べることがあってさ。…君に直接聞こうかと思ってね。」
言い終わると定平は懐から短刀を取り出した。人通りが少ないとは言えこんな街中で武器を装備する訳にはいかなかったが相手が構えたのなら致し方ない。陸疾も手袋を操作しロブスティラと梔子を構えた。
椎橋定平に遭遇してしまいました。しかも戦闘する気満々です。相手の技能も技能解放の有無も分からない状況ですが陸疾は応戦するようですね。




