第57話 定平は悪趣味
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「お前らがどんなに気をつけてたとしても話の節々にヒントが隠れてたんじゃねぇか?何の話をしてたかは知らんがガーディアンズのメンバーの名前とか言っちゃってたとかじゃねぇの?」
研悟は当たり前だと言わんばかりの表情である。確かに思い起こしてみれば隊長と順一郎さんの名前が会話に出ていた気がするのだ。しかしそれはあくまでも会話の中のほんの一部である。
「…あぁ、そういえば隊長とか順一郎さんとか言ってた気がしますね。」
「それだな。多分間違いねぇ。それであいつは陸疾たちがガーディアンズに関わりがあると踏んで名刺型発信機を仕掛けたんだよ。」
「ひえぇ。すごいおっかないですね。…でも会話のほんの一部ですよ?最初から最後まで聞き耳を立てるとかでも無い限りそこまで鮮明に聞こえるとは思えないんですが。」
「普通の人間ならな。…あいつはひどく悪趣味でな。周囲の人間の会話を全部盗み聞きしてるんだよ、無作為にな。まあ運が悪かったってことだな。とりあえず何事も無くて良かったよ。それじゃ俺は昼飯の続きでも食ってくるかね。」
そう言うと研悟はどこかへ去って行った。陸疾がふうと長い息を吐いたと同時に凛夏もまた同じ事をしたのである。思わず2人は顔を見合わせた。
「なんだよ同時じゃねぇか。…疲れてんのか?」
「そっちこそ。私はすごい話を聞いてちょっと肩がつまっただけよ。」
「そうか、俺も同じだよ。一応会話の内容は気をつけていたんだけどな。…まさか他人の会話を全部盗み聞きする趣味のある人がいるとは思わなかったよ。しかもあんなに自然に近づいて来るんだもんな。」
「あぁ、あれはプロだわ。正体を知って鳥肌がたったもん。」
「本当にな。あんな普通そうで異常な人が存在してるなんてびっくりだよ。…ところでこの後どうするよ?」
陸疾の問いかけに少し考えてから凛夏は口を開いた。
「2つ目の技能解放について頑張ってやってたけど、今度は別の事を試してみる?」
「あ!そういや研悟さんの技能解放がどうなったか聞くのを忘れてたな。…別の事って例えば?」
「例えば…、技能スペースをもう1つ解放する方法を探すとかは?」
「なるほどね。…まあ技能解放も結構試したし、一度別の事をしてみるのも悪くないかもな。」
こうして2人の意見が一致し技能を解放させたあのただただ広いだけの何も無い空間へと2人で歩いて向かったのであった。2人が歩いているとその先から何か大きなものを振っているような音が聞こえてくるような気がしたのである。何の音だと注意深く進んで行くと目指していた場所には先客がいたようだ。その人物はかなり大型のハンマーを縦横無尽に振り回していた。
「透さん!こんなところで何してるんすか!」
「む?あぁ、陸疾それに凛夏か。お前らこそこんなところに何の用だ。」
「…俺たちはもしかするとまだ技能スペースが解放出来る方法があるかもしれないと思って誰もいなさそうなここに来たんすよ。」
陸疾のその言葉に透は合点がいったようだ。ニコリと微笑んでハンマーを手近な所に置いた。そこそこの重量があるようでズンと腹の奥に響く音がした。
「なるほど、それならこの場所がおあつらえ向きだわな。俺はここで実際にハンマーを使う練習をしていたところだよ。」
「…実際に?模擬戦で練習したらダメなんですか?」
「んー、ダメって訳じゃないが、俺にはダメだな。あそこで練習したら精神は結構疲れるけとよ、体は疲れねぇだろ?」
「…?疲れたいんすか?」
「いや、疲れたくはない。断じてそれは無い。俺はこのハンマーを見てくれれば分かると思うがこいつは結構重いんだよ。」
「…そうっすね。見た感じものすごく重そうです。」
「だろ?…持ってみるか?」
そう言うと透はハンマーを回転させ持ち手を陸疾の側に向けた。先程透は時に片手で振り回していたため片手で持てない重さでは無いだろうと勝手に陸疾は想像していた。しかし実際陸疾は片手でそのハンマーは持てなかった。持ち上がったとしても肘が悲鳴を上げるだろう。かろうじて両手で持つことが出来たがとてもじゃ無いがこれを振り回す気にはなれない。
「…はぁはぁ。エグいっすねこれ。」
「ま、これは俺の技能『剛力』じゃねぇと扱いにくい代物だろうな。『剛力』あり気でも中々に体力を使うんだよ。だからここで練習するんだよ。」
「筋トレみたいな事っすか?」
「そう言う事だ。肝心な時に疲れて持てませんじゃ話にならん。こうしてどれくらい長く振り回せば疲れて動けなくなるか、その間威力は落ちてないか。色々確かめながら振り回しているのさ。これは模擬戦では出来ん。」
椎橋定平という人物はかなりおっかないですね。ちなみに近くの病院に勤務しているのは嘘です。陸疾たちがフリーマーケットに行ったという話から横から話に入っても問題ない単なるでっち上げです。盗み聞きした上でそこまで周到に仕掛けに行く辺りかなりの曲者でした。
透はプロフェッショナル精神があるようですね。中々ここまで出来る人はいません。




