第51話 面白いもの
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陸疾の言葉の後に電話越しに笑い声が聞こえて来た。こういう時に凛夏は良く朗らかに笑い飛ばすのだ。
「なんだ、そんな事か。私はてっきり猛反対して脱退も考えてるとかかと思ったわ。…陸疾がどう思うかは分からないけど、私は別に良いと思うよ?甘い考え上等、ガーディアンズって名乗ってるわけだからね、守れるものは全部守ったら良いんじゃない?それこそ敵の命もさ。それに相手の命はもちろん味方や自分の命を守るには強さが要る。どうせ私たちは入りたての新米なんだからまずは負けないように強くなれば良いんじゃない?隊長の考えが甘いかどうかは強くなってから考えても遅くないはずよ。」
凛夏の言うことに陸疾は深く納得した。そもそも自身が強くなければトドメをさす、ささないの領域に達せないのだ。もちろん相手より弱ければその選択は相手に委ねられるのだ。甘い考えと思えるものを掲げるためにも強く、強くならねばならないのだ。
「…うん、納得出来た気がする。相談に乗ってくれてありがとう。」
「どういたしまして。…あ、そうだ陸疾に面白いものを見せてやるよ。明日の朝10時頃に模擬戦しようぜ。」
凛夏の言う面白いものが何かは分からないが模擬戦をする以上は戦闘に関するものだろう。陸疾が景計の依頼をしている間にどうやら凛夏は強くなったらしい。
「面白いものか、…楽しみだな。それじゃあ明日の朝10時頃だな、了解。」
電話を切った陸疾の表情は電話をかけるまでとうってかわって晴れやかなものであった。
凛夏に言われた通り10時頃に模擬戦会場へと陸疾はやって来た。着くなりまず凛夏の姿を探したが近くに姿は無いようであった。自分で時間を指定してきたのだから凛夏は先に着いているんだろうと思っていたがそうでも無かったか。陸疾がそう思っていると模擬戦を終えたのか第5ブースからケイトと凛夏が出てきたのである。
「おや、陸疾じゃないか。君も模擬戦をしに来たのかい?」
「いや、私が呼んだんですよ。陸疾にリベンジしようと思って。」
「へぇ!それは楽しみだ。凛夏是非勝ってきなよ。」
「そのつもりですよ。陸疾、模擬戦は何回戦にする?…特にこだわりが無いなら、1回勝負ってのはどうよ?」
何気なく言って来ているようでこれは凛夏からの提案であり希望である。陸疾はそれを断る理由が無いのでその申し出を受け入れた。3回や5回勝負と違い1回勝負はミスが許されない。ましてや凛夏は陸疾に面白いものを見せると言っていたことから何かしら予想外の行動が待っていると言っていい。相当自信があるのか張り切って第5ブースへと凛夏は走って行ったのであった。
…さてと、凛夏の言う面白いものってのは一体なんだろうな。とりあえず何個か考えられるんだよね。1つはAR -ジャッジメントに代わる新しい武器を入手した。次に、戦闘スタイルが大きく変わった。最後の可能性として、技能解放が出来る様になった…かな。
新しい武器は単純に嫌だな。どう言う動きをしてくるか全く予想がつかない。その点で言うと1回勝負ってのはかなり凛夏の方にアドバンテージがあるな。戦闘スタイルが変わったパターンだけど、これも対応しづらいな。ひとまず相手の動きを見ないといけないから後手後手になっちゃうんだよね。最後の可能性だけど、正直これが一番対処しやすい。どう言う効果か分からないけどとりあえず『跳躍』で避けてしまえば良いからね。さ、面白いものってなんだろうな。
出来る限り対処できるよう何点かの可能性を考えてから陸疾は模擬戦の準備を整えた。既に凛夏は準備万端だったらしくすぐに模擬戦が始まるようだ。
『―、両者の装着が確認されました。これより模擬戦1戦目を行います。』
アナウンスが聞こえると陸疾は模擬戦のフィールドへ転送された。フィールドはあらかじめ設定されたマップが適用される。今回は平原Aが設定されていた。
転送されたマップが平原Aであったことから少し陸疾は戸惑ったがすぐに凛夏の姿を探した。どこに隠れているだろうかと辺りを跳びながら探していると普通に立ち止まっている凛夏を見つけた。正直拍子抜けしながらも陸疾は凛夏に近づいて行った。
「…面白いものを見せてくれるんだっけ?でもいつも隠れていたのに思いっきり姿を現して良かったの?」
「あら?陸疾は何も出来ずに勝負が終わるのがお好み?私としてはどっちでも良いけど。」
凛夏は誰かを真似したかのような口調でそう言った。現に言われたことのある陸疾には誰を真似ているのかすぐに分かったため思わず笑みが溢れた。
「…どこかで聞いたセリフだな。もちろんそれは困るな、どうせなら勝ちたいからねぇ。」
「笑ってもらえて良かったよ、それじゃあ早速面白いものを見せてあげるよ。―技能解放―《不失正鵠》」
どうやら凛夏もまた技能解放を習得したようです。《不失正鵠》…一体どんな効果何でしょうか?




