第50話 陸疾の迷い
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「うん、良いね。これを研究すれば技能についてまた分かるかもしれない。助かったよ、ありがとう。…それでさっきの話の続きだね。もう1つの理由、それはディメンションズのリーダーが私の弟だからだよ。」
「…弟…ですか?」
「そう、弟。英永って言うんだけどね。元々はガーディアンズの一員だったんだよ。あいつは『予知』の技能を持っていてね。パラドクスが実際に侵略して来ることを予知したのさ。そしてそれによって起こる被害もね。」
「ヒデさんは予知から得られた被害からこのままではマズイってことで独自に行動し始めたのさ。そうして技能を追究しパラドクスに対抗するために自分たちの次元を上げる目的でディメンションズを作り上げたのさ。」
「…それじゃあトドメをささないってのは?」
「そもそもガーディアンズもディメンションズもいがみ合う場合じゃ無いのさ。戦力を削いでなんの意味があるのか。だから私は彼らを撃破出来たとしてもトドメをささないことに決めたのさ。…まあこれは私が英永と和解できていない皺寄せでしか無いんだがね。それに付き合わせてしまって申し訳ないと思っているよ。」
「とは言っても向こうはそんなつもりじゃないからなぁ。邪魔する奴は消すって感じで来るから負ければ命の危険って訳だ。パラドクスが表立って動いてない現状、ひとまずディメンションズに負けないよう訓練を積むのが大事って事よ。…あ、そうだ隊長さんよ。ちょっと面白いもんが手に入ったんだよ。」
そう言うと順一郎はフリーマーケットで買ったもう1つの時計を取り出した。景計はそれを受け取ると注意深く観察していたがやがて顔を上げた。
「…何の変哲も無さそうだけど、これのどこが面白いんだい?」
「それは店主曰くいつでも正確な時間を知らせてくれる時計らしい。無理矢理表示されてる時間を弄ってもすぐに元に戻る不思議な物だ。」
言われて景計は2度程文字盤を弄っては戻るのを繰り返し見ていた。
「…へぇ、これは確かに面白いな。どう言う原理で動いているのかまるでわからない。これも一緒に研究しておこう。2人とも今日は非常に助かったよ。特に指示する事も無いから家に帰ってゆっくり休むと良い。お疲れ様。」
景計はそう言って2つの時計を持ってその場を去って行った。順一郎は言われた通り家に帰るらしい。とは言え寮に住んでいる訳では無いので陸疾とは違う道を進んで行った。陸疾は先程までの景計との話を思い出しながら寮へ帰った。納得出来るような出来ないような結論が出ることの無い複雑な感情が陸疾を包み込んでいた。
寮の自室に戻っても気持ちが晴れる事は無かったのである。そう言う時陸疾には決まって相談する相手がいた。面と向かって会ってはいるが電話をするのが久しぶりで少し躊躇いながらその人に電話をかけたのであった。数コールの後にその人は電話に応じたようだ。驚いた声が陸疾の耳に聞こえてきた。
「なんだ陸疾、電話なんて珍しいじゃないか。どうしたの?」
「実は相談…したい事があるんだよ。」
「…まああんたが電話をかけてくるって事はそんなことだろうとは思ってたけどさ。んで?相談って何さ。」
「…凛夏はさ、ガーディアンズはディメンションズと戦ってトドメをささないって知ってるか?」
陸疾の相談内容に凛夏も言葉が詰まった。思っていた相談内容と違ったのだろうかやや歯切れが悪そうに話を続けた。
「…うーん、詳しくは知らないけど何となくそんな感じはしてたな。確か前に丈さん?だっけかがディメンションズとは別の組織のことを言って無かったか?パラドクス…だったっけ?」
「…あぁ、うん。そのパラドクスに対抗するのがガーディアンズでもディメンションズでもどっちでも良いから戦力を無闇に削がないってのが建前の理由なんだってさ。」
「…ふーん、建前ねぇ。…本命の理由は元々はガーディアンズもディメンションズも1つだつたとかそんなんじゃねぇの?」
「え?誰かから聞いたのか?それ。」
「いや、何となくそんな気がしただけ。…それじゃあそれで合ってるんだな。」
「ディメンションズのリーダーが隊長の弟らしい。」
「なるほど、大体分かった。それであんたの相談ってのは?」
凛夏の言葉ははっきりとしたものであった。いつだって決断した時の凛夏は頼りがいのある言葉を放つのだ。そしてそれに陸疾はこれまでに何度も助けられていた。
「ちょっと迷っちゃったのよ。…隊長の言ってる事も分かるけど自分の生死がかかってるところにそんなに甘い考えで良いのかって言う迷いがね。」
陸疾は少し迷っているようですね。敵は陸疾の命なんてお構いなしに攻めてきます。それこそ陸疾が戦闘に巻き込まれたただの一般人だったとしてもです。それなのに自分たちは相手の命は取らない方針です。陸疾はそんな考えを少し甘いと思っているようですね。凛夏はどう思っているんでしょうか?




