第48話 技能解放は戦局を支配する
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陸疾は目を疑った。目の前にいるのは確かに樫原毅彦とか言う男のはずである。しかし目の前にいるのはロブスティラで身を守り梔子を構える陸疾の姿そのものであった。思わぬ現象に毅彦が槍を向けて突撃して来た事への反応が遅れた。しかしさすがはロブスティラ遅れても尚防御し切る高性能である。
「ほう、良い盾だな。手にするだけじゃ性能までは分からんからな。さてお前の技能解放…《空歩ノ理》だっけか?どういうもんなのかね。」
言い終わると毅彦はその場で跳び始めた。何かを確かめるように数回の跳躍が行われた。やがて納得したように毅彦はニヤリと笑って陸疾をじっと見据えた。
「なるほど、空中に足場を作るのか。それであの空中での方向転換を可能にした訳か。そして制限は3回ってところだ。さすがに空を飛ぶことは出来ないが戦闘には充分過ぎる効果だな。」
「…なぜそれが分かった?」
「ん?お前もしかして状況を判断する力無いの?…いや状況が分かった上で理解したくない訳だな。まあ気持ちは分かる。…俺の《革新的模倣》は相手の装備に加えて技能解放の効果をそのまま模倣することが出来る。つまりお前の技能解放が強力であればあるほど俺は強くなるのさ!」
言い終わるや否や毅彦は陸疾に槍での突撃を始めた。毅彦から目を離さなかったので対処することは難しくはなかった。建物の壁を足場にしてその突撃を躱すとカウンターを仕掛けようと逆に毅彦に向けて突撃を仕掛けた。毅彦もそれを予測していたのだろう、陸疾の突撃をロブスティラで完璧にガードしてみせたのである。
「やはり良い盾だ。そしてモンドにあれほどダメージを食らわせるだけはある。中々の突撃だな。それをガード出来ない防具の隙間に決められればさすがの俺でもダウンしてしまいそうだ。」
警戒している口ぶりだが態度は余裕そのものである。これまでの突撃の応酬で大体の陸疾の実力が測れたのだろう。つまり毅彦は勝つことを確信しているのだ。
「…なんだか余裕そうだな?」
「そりゃそうだ。お前は俺より遥かに戦闘経験が浅い。相手の思考を汲み取ることがまるでできてない。」
毅彦の突撃が再び突撃を仕掛けてきた。先程より距離が近いため陸疾はロブスティラでガードを試みたのである。陸疾は毅彦との戦闘に必死であり他の人の動きなど見ている余裕は無かったのだ。気付かぬ間にガードするための左腕がワイヤーによって拘束されたのである。
「そして俺は少しだけお前よりずる賢いんだよ、悪かったな。」
ロブスティラが構えられず毅彦の突撃をモロに食らった陸疾は建物の壁に体を打ちつけられたのであった。瓦礫に埋もれて陸疾の姿は見えなくなっていた。
「いや毅彦さんなら余裕だと思ったんですよ。俺のワイヤーどうでした?良いタイミングだったでしょう。これであとは『感知』の奴だけですよ。」
にこやかな顔で車坂は毅彦に近づいた。下がっておけと命じておきつつ隙を見てワイヤーで拘束する。それが車坂に言い渡された作戦であった。作戦が見事に決まったにも関わらず毅彦の顔は浮かないものであった。
「…あまり手応えがねぇな。」
「それほど余裕だったって事ですよ。毅彦さんは下がれって言いましたけど俺やモンドでも…」
車坂が言い切る前に毅彦はそれを制した。毅彦は目の前でおべんちゃらを言うこの男よりも陸疾のほうが実力があることを戦闘から確信していた。だからこそ浮かない顔だったのである。
「それは違う。そんな実力ならモンドがあぁなる訳ねぇんだ。モンドへの突撃の時あいつはフォームがメチャクチャだったがあれだけのダメージが出た。だからこの槍は威力が低い程ダメージが大きくなるもんかと思ってある程度力を抜いた突撃を食らわせた。…だが読みが外れたな。手応えが無さすぎる。…となるとあいつまだ戦闘不能じゃねぇな。」
毅彦は陸疾が打ちつけられた建物を見やった。既に陸疾は立ち上がっており今にも毅彦目掛けて突撃を仕掛けようとしていた。気づくのに遅れた車坂はワイヤーで陸疾の脚を拘束しようとしたがその前に空中を足場にさらに跳躍し加速した陸疾の脚を捕らえられなかった。毅彦は視界の端に順一郎の姿を見て自身の油断を知った。
…実は陸疾の突撃には本人も気づいていない秘密がある。そもそも空中では地に足がついていないがためにそれほど力を発揮出来ないのが普通である。しかし陸疾だけはそれに該当しないのである。それは『跳躍』の効果故のことではない。もう1つの技能『変則』の効果故なのである。例えフォームが乱れていようと、地に足がついてなかろうと陸疾の突撃の威力が落ちる事は無いのだ。つまりはこう言う事である。陸疾の渾身の突撃が毅彦に決まったのである。
陸疾が建物の壁に打ちつけられた際に順一郎によって《感知外障壁》が発動され毅彦たちに気付かれることなく陸疾は突撃の準備が出来ました。毅彦は車坂にアシストさせることを戦闘経験の差と言っていましたが順一郎もまた戦闘経験が豊富であったということですね。




